作業服を着た営業マン
●阪神大震災以降の構造の変化
阪神大震災の時、阪神高速道路が横倒しになり、大きな反響と都市交通の脆弱性を露呈しました。阪神道路公団や国は、危機感を感じ震災後一斉に柱脚の補強工事に掛かりました。今では補強前と比べて1.5倍くらいの太さになった柱脚が並んでいます。
新しく造られる高速道路の柱脚も角型から丸型若しくは角が丸みを帯びた断面をしています。これは地震の応力が角に集中する為でなるべく応力を分散させる為の措置です。
●トンネルの構造
トンネル工事のシールド工法が穴を丸く掘削していくのも理由があります。一つは機械を回転させるので丸く空いてしまうのですが、それだけではありません。
丸く造った方が、応力が分散しますので地震に強いのです。岡山の海底トンネル落盤事故で、シールド工法は怖い印象を受けますが、あれは工事中の事故で、出来上がってしまえばも最も安定したカタチです。
●地下鉄の東西の違い
東京の地下鉄の殆どはシールド工法で造られています。又、深々度を掘削していますので、地盤が安定していて重力加速度の影響も受けません。
大阪の地下鉄はどうでしょう。御堂筋線に代表される大阪の地下鉄は、オープンカット工法を採用しています。つまり露天掘りしてコンクリートで天井を造った工法です。
●オープンカット工法の欠点
オープンカット工法では、角が出来てしまい応力が集中します。しかも深度が浅く御堂筋の直ぐ下を御堂筋線が走っている状態です。また大阪平野はデルタで地盤が非常に脆弱です。海岸で波を見ていると判る様に、波うち際が最も激しく波打ちます。地震で揺さぶられると軟弱な地層の表面が激しく波打つのは簡単に想像出来ます。
その中に角ばった御堂筋線が埋まっているのです。御堂筋線が開通した昭和8年当時は震度7は想定外の揺れです。今は震度7が存在し、震度7で揺れる事に耐える事が求められていますが、御堂筋線が耐震補強したと言う話しはインターネットで検索する限り見当たりません。
●本町駅の改修工事
今、御堂筋線の本町駅構内の壁や天井を剥がしています。丸ではなく四角い構造体が綺麗に見えています。わずかに角の部分に元々ハンチ(補強)を設けて強くはしてありますが、追加補強された形跡はありません。仕上げばかりを綺麗にしていて、補強に関する工事を行っている様に思えません。
●最悪のシナリオ
御堂筋線は北から淀川・堂島川・土佐堀川・道頓堀・大和川と川を5本も横断しています。それも川底直下の浅い位置です。
淀屋橋駅を例にあげると、地上から一階下りて地下一階部分が改札口です。そのレベルは土佐堀川の水の中と同じです。そこから数m下りればもうプラットホームです。
と云うことは、地下鉄の天井部分は土の中にある状態ではなく、土佐堀川のヘドロの中に埋まっていると考える方が現状に近いでしょう。
震度7の地震が発生すれば、地層の境目(土とヘドロの境目)が最も激しいストレスを受けます。地震で亀裂が入れば津波を待つまでもなく、地下鉄は浸水します。地下鉄の動力は電気ですが電線は天井にありません。車輪横から供給されています。と云う事は地震で緊急停車した電車から下りて、歩いて避難する人々に水が押し寄せ、電気が切れていなければ感電死する危険があります。地震で電源が落ちていれば真っ暗闇の中で人々は方向感覚を失い溺死するのを待つしかありません。
●状況証拠
阪神大震災の時に山陽電車の大開駅(地下駅)が陥没したのを記憶している人は少なくなりました。当時の大開駅の惨状が将来の御堂筋線の惨状です。
東日本大震災で浦安周辺が広範囲に渡り、液状化現象が発生しました。道路のマンホールが地上から1m程飛び出していました。軟弱地盤は液状化を起こすとコンクリートで出来たマンホールを浮き上がらせる程の浮力を持つのです。
御堂筋線に同様の現象が起こらないとは云えません。ましてヘドロの中に埋まっている状態でしたら、地震が発生していなくても相当なストレスが発生しているはずです。地震が来れば危険と考えるのは自然な考えです。
●護身法
最も有効な護身法は御堂筋線に乗らないことです。しかし、通勤に毎日使っていている人には現実的な話しではありません。地震で緊急停車すれば、出来るだけ早く地上に出ることです。「パニックを恐れてゆっくり歩いて」いたのでは間に合いません。大阪市が地下鉄の耐震補強をしたと発表しない限り、地下鉄に乗っていて地震が来れば水が襲うと考えて下さい。停電したときの事を想定して懐中電灯を携帯することを習慣にすることも必要でしょう。寿命が長く球の切れる心配のないLEDライトが良いでしょう。
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後日大阪市に上記の危険性は無いのか問い合わせましたところ下記の様な丁寧な回答を頂きました。
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平素は、市営交通事業にご理解・ご協力を賜り、誠にありがとうございます。
早速ではございますが、先に頂戴いたしましたご意見につきまして、お答えさせていただきます。
当局におきましては、平成7年の阪神淡路大震災の後、当時の運輸省より出されました通達に基づき、御堂筋線を含めて、耐震対策が必要な高架橋脚約1,000本、開削トンネルの中柱約1,500本を鉄板巻きなどにより緊急耐震補強を実施し、平成12年度に完成しております。
緊急耐震補強は、大規模な地震に対しても大開駅のように構造物が崩壊しないことを目標とし、耐震補強が必要な高架橋脚、開削トンネルの柱のせん断耐力、じん性(粘り強さ)を強化するものでございます。
また、当局独自の特殊構造物である御堂筋線と四つ橋線の一部にある戦前または戦後すぐに建設された石積みや無筋コンクリートのアーチトンネル区間についても、トンネル内面を鋼材で補強する工事を行い、平成17年度に完成しております。
この補強によりまして、阪神・淡路大震災級のマグニチュード7クラスの地震が起こりましても、駅舎やトンネルの崩壊といった致命的な被害を受けることはないものと考えております。
しかしながら、今回の東日本大震災の被災状況を踏まえ、さらなる耐震性の向上を図るため、これまで補強の必要がないとされてきました橋脚等の耐震補強や液状化防止対策について検討の上、必要な施策を実施してまいりたいと考えております。
今後とも、市民・利用者の皆様に安全、快適、便利な市営交通を目指して取り組んでまいりますので、市営交通事業に対しまして、より一層のご理解・ご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
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私が想像していた以上に、耐震補強が見えないところでなされている様で、安心しました。
しかし、回答文中にあるようにマグニチュード7クラスの地震では安全と云う条件がついています。
東海・東南海・南海地震の想定されている地震規模はマグニチュード9です。震源地よりの距離が震度に影響しますので、阪神大震災の様な直下型のマグニチュード7と数字のみの比較は出来ませんが、大阪市の大動脈のことですので、念には念を入れて耐震策を取ってもらいたいものです。