労働時間の適用除外(監視又は継続的業務)

鈴木圭史

鈴木圭史

テーマ:労働基準法関連

通常、法定労働時間は1日8時間、1週40時間(特例措置対象事業場を除く)になっており、企業はこの時間を超えて労働者を使用するには、「時間外・休日労働に関する協定(36協定)」を届出、法定労働時間を超えて時間については、割増賃金を支払う必要があります。また、休日は、少なくとも1週に1日、4週間を通じて4回以上与える必要があります。
休憩についても1日6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の間に与えるよう義務付けられています。

しかし、次の労働者には労働基準法で定める上記の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されません。
①農業、畜産・水産業に従事する者(林業は含みません)
②管理監督者、機密の事務を取扱う者
③監視又は継続的労働に従事する者
④高度プロフェッショナル制度(正式名称:「特定高度専門業務・成果型労働制」)
*深夜業の割増賃金の規定は、①~③は適用されますが、④は、適用されません。一方、年次有給休暇に関する規定は①~④すべてに適用されます。

●管理監督者、機密の事務を取扱う者
<管理監督者>
企業内で相応の地位と権限を与えられた上で業務結果の管理や業務遂行の監督を行う人のことです。
管理監督者の判断基準は、
・経営者と一体的な立場と呼ぶにふさわしい重要な職務内容、責任となっており、それに見合う権限の付与が行われているか。
・重要な職務と責任を有していることから、現実の職務が実労働時間の規制になじまないようなものとなっているか。
・賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされているか。(基本給や役付き手当、賞与等において、一般労働者と比較して優遇措置が取られているか)

<機密の事務を取扱う者>
機密の事務を取扱う者とは、国際労働条約の和訳を取入れたものであって、必ずしも秘密の書類を取扱う者を意味するものではありません。「経営者又は監督若しくは管理の地位にある者の活動と一体不可分」であるか、「出社退社等に厳格な制限を受けない者(厳格な労働時間管理になじまない者)」であるかで判断します。
例えば、取締役付きの秘書室長など、幹部や管理監督者と常に行動を共にし、情報を共有・伝達し、経営方針や提携、企業買収の交渉などの重要機関を取りまとめたりする等、幹部の行動時間に合わせるために時間外労働や休日勤務がやむを得ない立場の人をさします。よって、秘書という肩書であっても単に1日のスケジュールをまとめて幹部に伝えたり、社内外からのアポイントメントの照会をしたりする程度の事務をする人は含みません。

●監視又は継続的労働に従事する者(労働基準監督署の許可が必要)
<監視労働>
原則として、一定部署で監視することを本来の業務として、常態として身体的・精神的に負担が少ない業務のことです。
監視業務に従事する者として認められる余地のある者は、「坑内門番、道具番、守衛、見張番のように一定部署で監視する業務に従事する者」や、「エンドレス監視、車道番、人道番のような運搬の見張り・監視業務に従事する者」です。
以下のようなものは許可されません。
・交通関係の監視、車両誘導を行う駐車場等の監視等精神的緊張の高い業務
・プラント等における計器類を常態として監視する業務
・危険又は有害な場所における業務

<継続的労働>
実作業が間をおいて行われるもので、労働時間中に手待ち時間が多く実作業時間が少ない業務のことをいいます。手待ち時間が、実作業時間を上回るときにのみ許可されます。ただし、手待ち時間中においても危険性または精神的緊張殿高いものは、一般労働と解されます。
認められる余地のある者は、「修繕係など、通常は業務閑散であるが、事故発生に備え待機するもの」、「貨物の積卸に従事するもの」、「寮の管理人」、「小中学校の用務員」「役員専属の自動車運転手」等です。
認められなかったものとしては、タクシーの運転手や新聞配達従業員、常備消防職員等があります。なお、監視労働同様作業場が有害な場所である場合、許可されません。

また、継続的労働に該当する「宿日直勤務」とは、所定労働時間外又は休日における勤務の一態様であり、当該労働者の本来の業務は処理せず、構内巡視、文書・電話の収受又は非常事態に備えて待機する者等であって、常態としてほとんど労働する必要がない勤務であるとされています(原則として、通常の労働の継続は許可されません)。しかし、突発的に発生する本来の業務を処理させるための宿日直勤務により待機させる場合においても、その突発的事故の発生率が低く、一般的に見て睡眠が十分とり得る者であれば本来の業務処理を時間外及び休日労働として処理する限り、待機時間を宿日直勤務として許可することが可能とされています。
 主な基準は、
・業務の様態
・睡眠施設の設置があること(宿直勤務)
・宿直手当(深夜割増賃金を含む)、日直手当の額を支給する。1回の最低額は、宿直等に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないものであること
・労働者1名につき原則、宿直回数は週1回、日直回数は月1回を限度

監視又は継続的労働に従事する者として許可を受ける場合は、労働時間の適用除外とする前までに管轄の労働基準監督署へ申請書を提出しましょう(処理期間:2週間程度)。以降は、申請事項に変更があった場合には、原則再申請が必要になりますが、総合的に判断し、労働者に有利変更したと認められる場合は、勤務内容に相当の変化がない限り不要です。

<高度プロフェッショナル制度> 労使委員会の設置及び労働基準監督署へ届出必要
高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件(1075万円以上)を満たす労働者が対象になります。

労働時間の適用を受けることができるものは、上記のようにごく一部に限られています。必要な届出をしていない又は、対象者ではないといった場合、賃金の未払いを行ってしまっていることになります。また、過去の裁判では、監視又は継続的労働として届出をしていても、労働時間内の勤務と宿日直勤務の同等の労働であり、軽度・短時間の業務ではないとして、通常の割増賃金を支払う必要があると判決されたケースもあります。

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鈴木圭史
専門家

鈴木圭史(特定社会保険労務士)

ドラフト労務管理事務所

社労士として20年以上の経験を誇り、労務相談から発展した、労務リスクの回避につながる労務監査を推進。IPOやM&A支援でも実績があります。「船員の働き方改革」に対応する海事代理士業も。

鈴木圭史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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