事業場の考え方(直近上位)
事業主は、労働者の労働時間を把握する義務また、法定労働時間を超えた場合は割増賃金の支払い義務があります。では、労働者が2つ事業場で就労している場合はどうなるのでしょうか。
「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する(労基法38条)となっています。これは事業主が異なる場合も含むとされています。つまり、A事業場とB事業場で労働者が働いている場合、AB双方の労働時間の合計が、法定労働時間を超えた(る)場合は、36協定の締結・届出や割増賃金の支払いが必要になってくるということです。
【36協定の取扱い、時間外労働の通算】
36協定の届出が必要になるのは、法定時間外労働が発生する場合です。労働時間は事業場が異なる場合も通算となるので、自社で残業が無くても他社との労働時間を通算すると法定労働時間を超える場合は、36労使協定の締結・届出が必要です。
例えば、本業(A社)で8時間勤務後、同じ日に副業(B社)で4時間勤務する場合です。この時、B社だけで考えると時間外労働はありませんが、AB通算すると法定労働時間を超える為、B社は、36協定が必要です。(A社と先に雇用契約を結んでいる場合とする)
では、「延長できる時間の限度時間」や「単月100時間未満」については、通算する必要があるのでしょうか?
<通算する>
・単月100時間未満(時間外労働と休日労働の合計)
・複数月平均80時間以内(時間外労働と休日労働の合計)
<通算しない>
・延長できる時間の限度時間(月45時間、1年360時間、特別条項年間720時間の上限)
・1か月45時間を超える延長回数(6回)
【割増賃金の支払い】
どちらが割増賃金を支払う必要があるのでしょうか。A社が先に雇用契約を結んでいるものとして考えいきましょう。
<原則>
後から契約した会社が割増賃金を支払うことになります。
例:A社 所定労働時間:月曜~金曜 8時間(週40時間)
B社 所定労働時間:毎週土曜日 8時間
この場合、Bは法定労働時間(週40時間)を超えた8時間分について割増賃金の支払いとなります。
<例外>
所定労働時間外の労働が発生した場合
(例1)
A所定労働時間:4時間
B所定労働時間:4時間
Aで5時間労働となった場合
本来であればAB両方で労働しても割増賃金の発生がない場合において、法定労働時間を超える残業が行われたときは、法定労働時間を超える労働をさせた事業場が割増賃金を支払うことになります。よって、例1の場合は、Aが1時間分の割増賃金を支払うことになります。
(例2)
A所定労働時間:3時間
B所定労働時間:3時間
ある同一日にAで5時間労働後、Bで4時間働くこととなった場合
Bが1時間について割増賃金を支払うことになります。これは、A事業所が2時間延長した場合でも、Aでの労働が終了した時点では、Bの所定労働時間を含めても1日の法定労働時間を越えていない為です。
厚生労働省が副業・兼業の普及促進を図っていることもあり、「ガイドライン」も公表されています。しかしながら、労働時間の通算における36協定や割増賃金の支払いは、実務上はグレーゾーンとなってしまっているということが実態です。これらは、労働者本人が副業を黙っている場合や他社でどのような勤務をしているのか(労働時間等)把握が難しいといった理由があげられます。
労働者の健康の状態の把握のためにも、副業・兼業は事前に届出制とし、労働者から労働時間を自己申告してもらう等し、健康状態を気にかけるといったことが重要になってくるでしょう。