労災保険料の計算 継続事業のメリット制

鈴木圭史

鈴木圭史

テーマ:労災保険

労災保険料は、災害のリスクに応じて、事業の種類ごとに設定されています。しかし、業種の種類が同じでも、作業工程や、機械設備、事業主の方の労災防止努力の違いにより、事業場の労災率が異なります。そこで、保険料負担の公平性、労災防止努力の更なる促進を目的とし、個々の事業における業務災害の安全成績に応じて、労災保険率を一定の範囲内(±40%)で引き上げ又は引き下げる「メリット制」を設けています。
メリット制の仕組みは、継続事業・一括有期事業・単独有期事業で異なります。
継続事業のメリット制についてみていきます。

<メリット制の要件>
 「事業の継続性」と「事業規模」両方の要件を満たしている必要があります。
〇事業の継続性
メリット制によって労災保険料の増減が行われる保険年度の前々保険年度に属する3月31
日(基準日)時点において労災保険の保険関係が成立して3年以上経過していること。
*平成30年度にメリット制を受ける場合は平成26年から保険関係が成立している必要があります。

〇事業規模(①又は②のいずれか)
①100人以上の労働者を使用するもの 
②20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって労災度係数が0.4以上であるもの
*労災度係数=労働者数×(労災保険料率-非業務災害率)≧0.4
非業務災害率は厚生労働大臣が全業種一律で定め、1000分の0.6です(H30年現在)

<メリット制 労災保険料の計算方法>
メリット制の保険料はメリットの増減率を算定し、その増減率をもとに労災保険率を計算します。
〇メリット増減率の算定
メリット増減率は算定したメリット収支率を増減表に当てはめて判定します。
メリット収支率は連続する3保険年度に支払った保険料に対する、実際に受け取った保険給付の割合で求められます。メリット収支率が75%以下であれば保険料が引き下げられ、85%を超える場合は保険料が引き上げられます。
メリット収支率(%)=保険給付/保険料×100
*保険給付には通勤災害や特定疾病に対する保険給付を含めないなど、細かな規定があります。

〇メリット制適用後の労災保険率
メリット制適応後の労災保険率=(事業に応じた労災保険率―非業務災害率)
×((100+メリット増減率%))/100+非業務災害率

例 木製品製造業労災保険率(1000分の14) 
労働者:100人  賃金総額:4億円(一人当たりの年間賃金平均400万円)
・通常の労災保険料
労災保険料=4億円(100人×400万円)×14/1000=560万円 

・メリット制 メリット収支率:10%の場合(増減率:-40%)
メリット制適用後の労災保険率=〔 14/1000‐0.6/1000 〕×((100-40))/100+0.6/1000=8.64/1000
労災保険料=4億×8.64/1000=345.6万円

例の事業所の場合、メリット制により保険料は345.6万円~774.4万円で変化します。

<メリット制の保険料率の適用>
メリット制では、算定期間の最後の年度の翌々年度に増減後の労災保険率が適用されます。平成30年度にメリット制の適用を受ける事業については、平成26~28年度の3保険年度で算定されています。

<メリット制の特例>
特例メリット制は、中小企業における労働災害防止活動を一層促進することが目的で労災保険率の増減幅が通常±40%のところ、最大±45%となる制度です。
対象となるには、中小事業主であることや、厚生労働省令で定める安全又は衛生を確保するための措置(「快適職場推進計画による措置」「労働安全衛生マネジメントシステムの実施」)を講じたこと、その措置を講じた翌保険年度の初日(4/1)から6か月以内に申告すること等の要件を満たす必要があります。

メリット制は、労働局で判断され、事業主の方に通知されるので特に手続きはありません。事業主の方には、毎年労働保険の年度更新時期に「労災保険率決定通知書」によって、メリット制が適用された労災保険率、メリット増減率等が通知されます。

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鈴木圭史
専門家

鈴木圭史(特定社会保険労務士)

ドラフト労務管理事務所

社労士として20年以上の経験を誇り、労務相談から発展した、労務リスクの回避につながる労務監査を推進。IPOやM&A支援でも実績があります。「船員の働き方改革」に対応する海事代理士業も。

鈴木圭史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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