医療業界の労務トラブル事例
個人経営が主体である美容院では、さまざまな労務トラブルが発生しています。最も問題となりやすいのが「労働時間管理」です。「何を労働時間とするのか」「休憩時間は適正に取れているのか」などが問われています。
言うまでもないことですが、美容院は、美容師が収益の鍵です。美容師の定着なくして、運営はままなりません。この記事では、美容院における労務トラブルについて解説します。
給与や労働時間など、美容院で目立つ労務トラブル
美容院も労務トラブルが多発している業界のひとつです。大半は、労務関連の知識がないことに起因するものですが、「知らない」では済まされません。
美容院の経営者は、慢性的な人手不足にあるなか、今まで以上に労務管理をしっかりと行わなければ、人材が定着せず、店の経営を続けていくことは難しくなります。
美容院の戦力は言うまでもないことですが、美容師です。スキルのある美容師がいれば、顧客がついて売り上げに貢献します。それだけに、美容師が働きやすい職場づくりは収益に直結すると考えたほうがよいでしょう。
美容院の経営形態は、法人と個人に大別されますが、ほとんどが個人となっています。そのため、零細な事業所が多いこともあってか、給与の遅配や労働時間のごまかし、メンタルヘルス対策がない、社会保険未加入など、問題のある事業所が目立ちます。
労働時間管理が問われる労務トラブル事例
よくある労務トラブルのひとつ「労働時間管理」について見ていきましょう。最もトラブルになりやすいのが「休憩時間」と「残業代」です。
「休憩時間」は、労働時間が6時間未満の場合はなし、6時間以上で8時間未満の場合は45分間、8時間以上の場合は1時間与えなければなりません。なお、「休憩時間」は、30分間×2回のように、分割して与えることが可能です。
「休憩時間」は「手待ち時間」と混同されやすいため、トラブルになりがちです。「休憩時間」とは、完全に職務を離れた状態で、労働者が自由に使える時間です。お客さまを待っている「手待ち時間」は自由な時間ではないため、当然労働時間に含まれます。この点を知らずに、労務管理を行っている事業者があまりにも多いのが実態です。忙しい時間帯がある場合は、休憩時間を分割して与えるなど、上手に工夫して乗り切るべきでしょう。
「労働時間管理」も、美容院で必要な労務管理です。美容師は一般的に仕事が終わった後に、カットやメイクの練習をするケースが大半です。この練習を「労働時間に含めるかどうか」が争われることもあります。
ここで問われるのは、その練習が「自主的であるかどうか」です。例えば、美容師がこちらの意図とは関係なく、自主的に練習している場合は労働時間としてカウントする必要はありません。しかし、「研修」などと称して、強制的に練習させる場合は、労働時間に含めなければならないことをしっかりと覚えておきましょう。
変形労働時間制や社会保険未加入の美容院は要注意
近年、美容院の営業時間は徐々に長くなっており、都市部では23時まで開店している事業所もあります。
そうした事業所のなかには、「変形労働時間制」を採用して労務管理を行っているケースがあります。「変形労働時間制」については、前回の記事でも解説していますが、採用したからといって、「残業代の支払い義務」を逃れるわけではないことに注意しましょう。
また、美容院の社会保険未加入問題は深刻です。建設業を中心に、厚生労働省は社会保険未加入問題にメスを入れるようになってきました。
個人経営かつ中小零細が多い美容院の場合、社会保険料の負担を嫌って、社会保険を逃れようとする悪質なケースが目立っています。
社会保険(健康保険と厚生年金)は、保険料率が年々上昇しているため、負担は大きいですが、適正に運用が求められるようになっています。社会保険未加入で美容師から訴訟を提起された場合、2年間さかのぼって支払う義務が生じる恐れがあります。相応の金額になるため、社会保険が未加入にならないよう注意しましょう。社会保険は労働時間が30時間以上の美容師を加入させなければなりません。
個人経営の事業所の場合、「就業規則」がないケースも見られますが、労務トラブルを避けるためには「就業規則」の作成は必要不可欠です。というのも、「就業規則」は、事業所の基本的なルールであり、規則なしでは、美容師を管理することはままならないからです。「就業規則」にはどの業界にもひな形がありますが、それにとらわれず、自分の店舗に適したものにするよう気を配りましょう。
最後に美容院経営でありがちな問題である「独立経営」について書きます。美容師は職人であり、「いつか自分の店を持ちたい」と長い下積み生活に耐えています。美容院の経営者と話をすると、「うちで働いている美容師が独立して店を持ちたいと言っている。しかし、抜けられると困る」という悩みがよく出てきます。
難しいかもしれませんが、ぜひそうした美容師を応援してあげてほしいものです。残業時間を増やすなどして、独立を邪魔しようとする美容院の経営者もいますが、後々訴訟など、大きな労務トラブルに発展しかねないので、個人的な感情は極力排除するのがよいでしょう。