飲食業界における労務トラブル事例

鈴木圭史

鈴木圭史

テーマ:労務トラブル

飲食業界は、労務トラブルが発生しやすい業界です。一般的に飲食店の場合、パートやアルバイトが主な戦力となります。「働き方改革」が声高に叫ばれるなか、労務管理の意識が高まりつつありますが、飲食店では労務トラブルが後を絶ちません。

労働時間管理の甘さや労働法への知識不足が労務トラブルを招いています。この記事では、労働時間のほか、社会保険料の不払い、年次有給休暇など、飲食店にまつわる労務トラブルの事例を紹介します。

慢性的な長時間労働が労務トラブルを招く

飲食店の大半は、個人経営で零細です。店主ひとり、もしくは家族経営で切り盛りしているケースが多いですが、パートやアルバイトを適宜雇用して経営しているケースも見受けられます。

一般的に飲食店は、労務トラブルが発生しやすいと言われています。その原因はさまざまですが、労務管理への意識の低さが最も大きいでしょう。飲食店の場合、朝から晩まで長時間開店しているケースも多くため、長時間労働が慢性化しています。昨今、大手居酒屋チェーンを中心に労務トラブルが相次いでいるのは、その象徴といえるでしょう。

労務トラブルを起こさないためには、飲食店における労務管理の基礎事項をしっかりと学ぶ必要があります。とはいえ、すべてを網羅的に抑える必要はありません。この記事では、いくつかの事例を紹介しますので、その内容を通して、理解してください。

飲食店の労務トラブル事例から学ぶ

最も問題となりやすい労働時間管理の事例を紹介しましょう。

飲食店の場合、正規雇用は多くなく、パートやアルバイトが大半を占めています。こういう場合、労働時間はタイムカードで管理しているケースが多いでしょう。

労働時間管理でトラブルになりやすいのが「研修時間」と「休憩時間」です。例えば、採用時に、仕込みなど、業務にまつわる研修を行うこともあるでしょう。この「研修時間」は、労働時間なのですが、そのような扱いにせずに給料を支払わないケースが見られます。

雇用主の指揮命令のもと、労働者の自由がない状態は、労働時間に換算されます。労務管理における休憩とは、労働者が自由に自分の時間を使える状態にあることをいうからです。昼休み中に任意で電話番をしている場合に、これが労働時間に換算されるかどうか問われた事例がありますが、このケースでは「労働時間に算入しなければならない」という結論が出ています。

休憩とは、労働者を完全に仕事から自由な状態にしないといけないのです。また、いくら仕込みが業務につくうえでの必須の研修だとしても、それは筋が通らないので注意しましょう。

労働局において休憩時間は、労働時間が6時間超で45分、8時間超で60分与えなければならないと規定されています。とはいえ、飲食店の場合、昼のピーク時など、忙しい時間が決まっているケースもあり、60分まとめて休憩時間を与えることができないこともあるでしょう。この場合は、例えば30分を2回といったように、分割して与えることができると覚えておきましょう。

社会保険料や年次有給休暇のトラブルも見られる飲食業界

飲食店のパートやアルバイトの労務管理で発生しやすい労務トラブルは、ほかにもあります。それは、雇用保険や社会保険への適用と年次有給休暇です。特に、長時間勤務するパートやアルバイトがいる場合、注意が必要です。

雇用保険は、週20時間以上勤務する労働者がいる場合、加入させなければなりません。ただし、学生アルバイトは、その限りではないことを覚えておきましょう。案外、雇用保険を適用していないケースは多く見られます。もし、労働者から訴えられた場合、過去2年にさかのぼって支払う義務がありますので、注意しましょう。

一方、社会保険は週30時間以上勤務する労働者がいる場合、加入させなければなりません。社会保険は、厚生年金と健康保険がありますが、双方に加入させる必要があります。1日8時間で週に4日間働いているパートの合計労働時間は32時間。30時間を超過しているので、加入させる義務が発生するわけです。

しかしながら、社会保険料は、雇用主と労働者が折半する仕組みですが、料率の高まりにより、年々負担が重くなっています。そのため、社会保険料を逃れようとする事業主が後を絶ちません。このような悪質なケースでは、労働者から訴えを提起されるおそれがあることはもちろんですが、労働基準監督署から指導される場合も見受けられます。

年次有給休暇については、いまだに「パートに有給休暇はない」と説明している事業主がいます。有給休暇は、雇用形態にかかわらず、要件をクリアすれば誰にでも与えられるものです。

その要件は「雇い入れの日から6カ月経過していること」「その期間の全労働日の8割以上出勤したこと」です。例えば、1月1日に週4日8時間勤務で雇い入れたパートがいるとしましょう。この場合、7月2日にまで在籍し、週2日以上出勤していれば、有給休暇を与えなければなりません。

飲食店の労務管理は、パートやアルバイトなど、いわゆる非正規雇用の問題が多くを占めます。飲食店における労務管理のトラブルは、労働時間と社会保険料、年次有給休暇に集中しています。注意すべきポイントをおさえて、労務トラブルに発展しないようにしましょう。

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鈴木圭史
専門家

鈴木圭史(特定社会保険労務士)

ドラフト労務管理事務所

社労士として20年以上の経験を誇り、労務相談から発展した、労務リスクの回避につながる労務監査を推進。IPOやM&A支援でも実績があります。「船員の働き方改革」に対応する海事代理士業も。

鈴木圭史プロは朝日新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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