カスハラ対策は初期応対から ―クレームを深刻化させない「応対」と「対応」の違い―⑶
【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第10回】
カスハラ対応後、従業員をどう守る?―管理職・同僚の声かけと、フォロー・記録・共有―⑽
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
前回の第9回では、カスタマーハラスメントが深刻化したときの録音・録画、警備員や警察との連携、そして対応を打ち切る判断についてお伝えしました。(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5239695)
では、お客様がお帰りになり、その場が収まったら、カスハラ対応は終わりなのでしょうか。
いつもの仕事に戻ったように見えても、応対した従業員には、怖さや不安が残っているかもしれません。「自分の応対が悪かったのではないか」と、自分を責めていることもあります。
カスハラ対応は、お客様への対応が終わったところで終了ではありません。対応した従業員を、その後も組織として支えていくことが必要です。
今回は、私自身の経験も交えながら、対応後の声かけ・フォローと記録・共有について考えます。
20年以上たった今も覚えている、客室乗務員時代の経験
客室乗務員として働き始めて2年目、フライトにもひととおり慣れてきた頃のことです。東京発大阪行きの便で、私はジャンボジェット機(B747)の2階席にあるスーパーシート(現在のファーストクラスに当たる座席)を、一人で担当していました。
ある男性のお客様は、ご搭乗後すぐにお休みになり、機内サービスはお受けになりませんでした。着陸態勢に入り、シートベルト着用サインが点灯したため、私はリクライニングを深く倒してお休みのお客様にお声をかけました。
「お休みのところ恐れ入ります。まもなく着陸いたしますので、リクライニングを元の位置にお戻しいただけますか」
すると、お客様は面倒そうに目を覚まされ、「俺はリクライニングを倒していないっ!」と、突然怒鳴られたのです。
その瞬間、後ろの席の女性のお客様が、「あんた、リクライニングを倒していたでしょう!」と、男性のお客様の頭をたたくではありませんか。男性のお客様は「なんだとっ!」と、大変な剣幕で後ろを振り返られました。
言い争いになるのではないかと慌てた私は、急いで1階へチーフパーサーを呼びに行きました。
ところが、2階へ戻ると、お二人は談笑していらっしゃいました。どうやら、お知り合いだったようです。
それでも、男性のお客様が私に向ける視線は厳しく、にらみつけるような表情や舌打ちに、強い怖さを感じました。そして降機される際、私をにらみつけ、「後で覚えてろよっ!」とおっしゃったのです。
怖くなった私は、チーフパーサーに相談しました。
「この後、二度と会うことはないのだから、気にしなくて大丈夫。あなたのしたことは、何も間違っていないのだから」
その言葉に、まずは安堵しました。また、同期にも「こんなことがあった」と話をし、しっかり聞いてもらいました。怖かった気持ちを身近な仲間に受け止めてもらえたことも、安心感につながりました。
けれども、怖さはすぐには消えませんでした。その後、数か月は、2階席のスーパーシートを一人で担当することができなくなってしまいました。
当時の私には、「カスタマーハラスメント」という概念はなく、お客様との間で起きたことは、その場の応対で何とか収めなければならないという受け止め方がありました。
その後の支援や業務上の配慮を求めることには思いも及ばず、「自分の応対が悪かったのではないか」と、自分を責めた記憶も残っています。
20年以上たった今も、その場面を鮮明に覚えています。その場の対応が終わっても、応対した側の怖さや不安までなくなるわけではありません。
最初の声かけを、応対の反省会にしない
私の経験では、チーフパーサーの言葉と、同期に話を聞いてもらえたことが支えになりました。一方で、その後の業務への不安は残りました。
では、現在の職場では、どのように従業員を支えていけばよいのでしょうか。
まず管理職や責任者に大切にしていただきたいのは、本人の安全と心身の状態を確かめ、話を受け止めることです。
「怖い思いをしましたね。相談してくれてありがとう」
「一人で抱えず、責任者を呼んでくれてよかったです」
けがや体調の変化はないか、休息が必要ではないかを確認します。
最初から「あなたの言い方にも問題があったのでは?」と問われれば、本人は責められたと感じ、次の相談をためらうかもしれません。
事実確認をするときには、
「今後の対応を組織で考えるために、落ち着いてから状況を教えてください」
と目的を伝えます。安全確保のために直ちに確認することと、後から詳しく振り返ることを分ける配慮も必要です。
応対に改善点があれば検証は必要です。ただし、その検証と、怖い思いをした従業員への支援を混同してはいけません。
同僚や同期の「話を聞きますよ」も支えになる
管理職による対応に加え、同僚や同期の声かけも大切です。
「今日はお疲れさまでした。大変でしたね」
「よかったら、話を聞きますよ」
「今、代われる仕事はありますか」
すぐに解決策を示せなくても、話を聞く姿勢を示したり、仕事を手伝ったりすることで、支えられることがあります。
ただし、本人が話したくないときに無理に聞き出したり、「接客ではよくあること」と、つらさを小さく扱ったりしないようにします。
身近な仲間が気にかけ、話を受け止めることも、「一人ではない」と感じられる支えになります。
同僚だけで抱え込まず、必要な支援は、本人の意向を確かめながら管理職や相談担当者へつなぎます。
「大丈夫です」で終えず、その後の業務にも配慮する
声をかけてもらって安心できることと、再び同じ状況で働けることには、違いがあります。
「周りも忙しいから」「自分だけ担当を外してもらうわけにはいかない」と、無理をしている可能性もあります。
「今の持ち場に戻ることに、不安はありませんか」
と確かめ、必要に応じて休息や担当を調整します。「休んでよい」と伝えるだけでなく、実際に業務を引き継げるようにすることが大切です。
また、同じお客様から連絡や来店があった場合の対応も決めておきます。
「次に連絡があったら、一人で説明を続けず、責任者へつないでください」
誰へ連絡し、その人が不在の場合は誰が引き継ぐのかまで共有すれば、本人の不安を減らせます。
私の経験のように、相手との再接触だけでなく、同じ場所や一人で応対する状況が怖くなることもあります。本人が何に不安を感じているかを確かめる必要があります。
当日だけではなく、翌日以降も気にかけ、本人の状態と意向に合わせて支援を続けることが大切です。
何度も詳しい説明を求めることは避け、必要に応じて社内の相談窓口や産業保健スタッフ、外部の相談先などにもつなぎます。
記録と共有は、継続した対応と支援のために
担当者が替わるたびに説明が変わる混乱や、本人が何度も経緯を話す負担を減らすためにも、記録と引継ぎが重要です。
いつ、どこで、どのような要求や言動があったのか。こちらは何を説明し、誰が引き継ぎ、今後はどう対応するのかを整理します。
「悪質なお客様だった」という評価だけでは、状況は伝わりません。
「対応できない理由を説明した後も、同じ要求が繰り返された」
「退店時に『後で覚えてろよ』という発言があった」
など、確認できた言動を具体的に残します。正確な発言を覚えていない場合は、その旨が分かるように記録します。
本人が感じた恐怖や業務への影響、実施したフォローについても、確認できた事実と本人の受け止めを区別して残します。作成は本人任せにせず、責任者や同席者も協力し、閲覧・共有の範囲を決めておきます。
事例を振り返る際には、担当者の応対だけでなく、上司を呼びやすかったか、応援や引継ぎが機能したか、対応後のフォローができたかも確かめます。
「もっと上手に応対できたはず」だけで終わらせず、「もっと早く助けられる体制だったか」を振り返ることが必要です。
記録・共有を、個人を責めるためではなく、次に従業員を守るための改善につなげます。
次回は、知識を「言える・動ける」力へ
お客様に丁寧に応対することは大切です。けれども、怖い思いをした従業員に、その後も一人で乗り越えることを求めてはいけません。
管理職が必要な対応を取り、同僚も身近な立場から気にかける。その積み重ねが、「会社が守ってくれる」「この職場には相談できる人がいる」という信頼につながります。
「相談してよい」と伝えるだけでなく、相談した人が「助けを求めてよかった」と思える対応を、職場全体で大切にしていただきたいと思います。
次回の第11回では、カスハラ対策を「知っている」で終わらせず、「言える」「動ける」状態へつなげるための研修やロールプレイングについて考えてまいります。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。よろしければぜひご覧ください。
ホスピタリティ&マナー・ラボ公式ホームページ
https://www.hospitality-m-l.com/


