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カスハラが深刻化したらどうする? ―録音・録画、警備員、警察、対応打切りの判断―⑼

長澤さおり

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テーマ:カスタマーハラスメント対策・クレーム応対

【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第9回】

カスハラが深刻化したらどうする? ―録音・録画、警備員、警察、対応打切りの判断―

ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。

前回の第8回では、クレーム応対が長引いたときに「人を変える・場所を変える・時を変える」、そして上司・責任者へつなぎ、組織として対応することの大切さについてお伝えしました。(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5239691)

では、それでも威圧的な言動や執拗な要求が続いたら、どうすればよいのでしょうか。

録音・録画はいつ始めるのか。
警備員や警察には、いつ連絡するのか。
そして、どの段階で対応を打ち切るのか。

「丁寧に応対すること」と、「どこまでも応対し続けること」は違います。

今回は、通常のクレーム応対では対応しきれない段階に入ったとき、従業員と現場を守るために必要な対応について考えます。

録音・録画は、いつ始める?

厚生労働省の指針では、カスタマーハラスメントへの対処例として、顧客等とのやり取りを録音・録画することが示されています。

例えば、

威圧的な言動が始まった。
同じ要求が繰り返されている。
責任者による対応へ切り替えた。
後から事実関係について認識の相違が生じる可能性がある。

こうした状況は、録音・録画を始める判断材料になります。ただし、これらは厚生労働省が一律に定めた開始基準ではありません。通常時から記録する場合も含め、いつ、誰の判断で行うのかを、組織として決めておくことが大切です。

録音・録画の目的は相手を威圧することではなく、やり取りを正確に記録し、事実関係を確認するとともに、従業員と組織を守ることです。

ただし、危険が迫っている場合には、記録を残すことよりも、その場から離れるなど、安全確保を優先します。

録音は、お申し出をされるお客様を守る記録にもなる

録音は、従業員や企業だけを守るものではありません。

お客様が何を申し出られたのか。
こちらがどのような説明をし、何を約束したのか。

双方の発言が残ることで、お客様の正当なお申し出を確認できるだけでなく、企業側の説明や応対に問題がなかったかを振り返ることもできます。

私自身が客としてクレームを伝える立場であれば、

「どうぞ録音してください。その方が、私がお伝えした内容も正確に残りますので」

と考えます。

また、録音されていることを意識することで、お客様と応対する側の双方が言葉を選び、冷静に話すきっかけになる場合もあると考えています。

録音は、お客様を一方的に疑うためではなく、双方のやり取りを正確に残すための記録として捉えることが大切です。

相手の同意がなければ録音・録画できない?

「相手の了承を得なければ録音・録画できないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

厚生労働省の説明では、個人情報に該当する場合には利用目的を本人に通知するか、公表する必要がありますが、必ずその場で「録音・録画しています」と伝える義務まで含むわけではありません。ただし、録画では、撮影されていることが本人に容易に分からない場合に、分かるようにする措置も必要です。

つまり、「相手の同意がなければ一切できない」というわけではありませんが、「どのような方法でも自由に記録してよい」ということでもありません。

私は、通常のクレームで安全に説明できる状況であれば、録音・録画の目的をお伝えし、了承を得ながら進めることが、接遇上の配慮として大切だと考えています。

例えば、

「お申し出と私どもの説明を正確に記録するため、このやり取りを録音してもよろしいでしょうか」

とお伝えする方法があります。

ただし、録音を嫌がられたことだけで、悪意がある、カスハラに当たると決めつけてはいけません。保存方法や利用目的、発言の一部分だけを切り取られることなどに、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。

録音への反応だけで判断せず、実際の要求や言動、その経緯を確認することが大切です。

録音・録画は、保存・管理までルールを決めておく

どの機器を使うのか。
記録を何に使うのか。
誰が確認でき、いつまで保存するのか。

録音・録画は、取得後の取扱いまで組織として決めておきます。個人情報に該当する場合は、事実関係の確認に使うことも含めて利用目的を特定し、本人に通知するか、公表する必要があります。

個々の従業員が自己判断で個人のスマートフォンに保存したり、関係のない人へ共有したりすることは避けなければなりません。

記録を残すことと、その記録を適切に扱うことは、あわせて考える必要があります。

警備員は「暴力が起きてから」呼ぶものではない



警備員が配置されている施設では、暴力が発生してから初めて連絡するのではなく、その前の段階から連携することも考えておきたいものです。

大声や威圧的な言動が続いている。
興奮が強くなっている。
退去をお願いする可能性がある。
周囲のお客様や患者さんへの影響が出ている。

このような状況であれば、施設のルールに沿って警備員に情報を共有し、必要に応じて近くで待機してもらうことも考えられます。

警備員との連携は、相手を排除するためだけではありません。万一に備え、従業員や周囲の方の安全を確保するためでもあります。

カスハラの中には、犯罪に該当する可能性のある行為もある

カスタマーハラスメントの中には、「厳しいクレーム」という範囲を超え、行為の内容や状況によっては犯罪に該当する可能性のあるものがあります。

例えば、
人を突き飛ばすなどの行為は「暴行罪」、
けがを負わせる行為は「傷害罪」、
危害を加える旨を告げて脅す行為は「脅迫罪」に該当する可能性があります。

また、
暴行や脅迫によって義務のない土下座などをさせる行為は「強要罪」、
威力を用いて業務を妨害する行為は「威力業務妨害罪」、
退去を求められても正当な理由なく施設などに居座り続ける行為は「不退去罪」などに該当する可能性もあります。

もちろん、実際に犯罪が成立するかどうかは、具体的な言動や状況によって判断されます。
現場の従業員が、その場で罪名や犯罪の成立を判断し切る必要はありません。

大切なのは、犯罪に該当する可能性のある行為まで、「自分の接遇力で何とかしなければならない」と思わないことです。

厚生労働省の指針でも、暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動について、警察へ通報することが対処例として示されています。

「お客様だから」
「自分が担当だから」

という理由で、暴力や脅迫まで我慢する必要はありません。

接遇だけで収めようとする段階を超えている場合がある。
そのときには、安全を確保し、警察などの専門機関へつないでよい。

そう理解しておくことは、対応する側が必要以上に自分を追い込まず、身を守る行動を取る支えになると考えています。

警察への連絡は「何分後」ではなく、危険性で判断する

警察へ連絡する判断で大切なのは、「何分経過したか」ではなく、行為の内容と危険性です。

暴力を振るう。
物を投げる、壊す。
危害を加えることを明確に示唆する。
退去を求めても応じず、居座り続ける。
従業員や周囲の人の安全が脅かされている。

このような場合には、相手を長時間説得し続けることよりも、安全確保や警察との連携を優先します。

状況に応じて、

「これ以上、威圧的な言動が続く場合には、警察へ連絡させていただくことがございます」

「退去をお願いしております。応じていただけない場合には、警察へ連絡いたします」

と伝えることも考えられます。

ただし、すでに暴力が発生している、あるいは身の危険が迫っている場合には、事前の警告にこだわる必要はありません。

危険が迫っているときには、「まず何分間か応対してから」という順番ではありません。従業員と周囲の方の安全を最優先にします。

対応を打ち切ることも、組織としての判断

十分に話を伺い、必要な説明を行い、できること・できないことも伝えた。

それでも同じ要求が繰り返され、話が膠着している。

このような場合には、対応を終了する判断も必要になります。

総務省が自治体向けに示した「職員向けカスタマーハラスメント対策マニュアル」作成のポイント集では、対応打切りの目安例として「状況が膠着してから15~30分」が示されています。

ただし、正当な苦情や正当な理由がある場合に一律の時間で打ち切る運用は不適切とされ、暴行等の犯罪に該当し得る言動が生じている場合には、即時打切りとされています。

これは、すべての企業や現場に一律に当てはめる時間基準ではありません。また、「15~30分は我慢する」という意味でもありません。

第8回でお伝えした通常クレームの応対を見直す目安と、ここでいう「状況が膠着してから」の打切り目安は、区別して考える必要があります。

時間は従業員に我慢を求めるためではなく、組織として対応を終了する判断材料の一つです。

必要な説明や確認が済んでいるか、相手への配慮に不足がないか、業務や安全へどのような影響が出ているかも踏まえ、現場の特性に応じた基準を定めておきます。

対応を終了するとき、何と伝える?

例えば、

「これまでご説明申し上げましたとおり、当方としてお伝えできる内容は以上でございます」

それでも同じ要求が続けば、

「同じご要望について、これ以上お答えすることはできません。恐れ入りますが、本日の対応はここまでとさせていただきます」

電話であれば、

「これ以上同じ内容でのお話を続けることはできませんので、本日のお電話は終了させていただきます」

退去をお願いしても応じていただけない場合には、

「これ以上の対応はいたしかねますので、ご退去をお願いいたします。応じていただけない場合には、警察へ連絡いたします」

と、組織としての判断を明確に伝えます。

対応を打ち切ることと、感情的に相手を突き放すことは違います。最後まで冷静に、組織としての判断を伝えることが大切です。

「お客様を大切にすること」と「従業員を守ること」は両立できる

私は、接遇やホスピタリティをお伝えする立場として、正当なクレームには丁寧に耳を傾けることが大切だと考えています。

お客様からいただくご意見の中には、企業や組織が改善するための大切な声もあります。だからこそ、正当なクレームとカスタマーハラスメントを一緒にしてはいけません。

一方で、暴力や脅迫、著しく威圧的な言動まで「お客様だから」と受け入れることも違います。

お客様を大切にすることと、働く人の尊厳と安全を守ることは、決して相反するものではありません。

どこまで丁寧なクレーム応対を行うのか。
どのような場合に対応を終了するのか。
そして、どの段階で警察など外部の力につなぐのか。

その基準を平時から明確にしておくことが、実際に機能するカスタマーハラスメント対策につながります。

次回は「その後、従業員をどう守るか」

録音・録画をした。
警備員や警察へつないだ。
対応を終了した。

では、それでカスハラ対応は終わりでしょうか。

カスハラ対応は、相手が帰ったところで終わりではありません。

怖い思いをした従業員に、管理職や周囲はどのような言葉をかけるのか。
休息や、その後の業務への配慮は必要か。
何を記録し、組織でどう共有するのか。

次回の連続コラム第10回では、「従業員を守る管理職と組織の対応」をテーマに、対応後のフォロー、記録、情報共有、再発防止について考えてまいります。

研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。

ホスピタリティ&マナー・ラボ公式ホームページ
https://www.hospitality-m-l.com/


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長澤さおり
専門家

長澤さおり(マナーコンサルティング)

ホスピタリティ&マナー・ラボ

元ANA客室乗務員の経験を生かし、接遇・ビジネスマナー・コミュニケーションなど幅広い研修を実施。ホスピタリティを軸に人財を育成し、顧客・患者様満足度の向上と、相互に尊重し合える組織づくりを支援します。

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