カスハラ対策は初期応対から ―クレームを深刻化させない「応対」と「対応」の違い―
【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第5回】
カスハラ対策は、声にならない不満を放置しないことから
―気づきと声かけで、不満の積み重なりを防ぐ―
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
前回の第4回では、
通常のクレーム応対について、傾聴と心情理解を中心に6つの手順をご紹介しました。
(通常クレームの基本応対とは?―傾聴と心情理解から考える6つの手順―)
カスタマーハラスメント対策には、従業員を守る組織対応とともに、不満を必要以上に深刻化させない取り組みも大切です。
今回は、声にならない不満に気づき、その場で受け止め、不満を積み重ねないための初期応対について考えます。
声にならない不満は、次の利用時にも持ち越される
「言っても仕方がない」
「直接伝えるのは気が進まない」
「次から利用しなければいい」
そう思い、不満を口にせず帰られるお客様もいらっしゃいます。
そのまま利用されなくなったり、周囲に不満を話されたり、口コミやSNSに投稿されたりすることもあります。
一方、「近くにほかの医療機関がない」「不満はあるけれど、利用するには便利」といった事情から、不満を抱えたまま再び利用される方もいらっしゃいます。
再び説明不足や不快な応対に接すれば、
「前回もそうだった」
「また同じことをされた」
と、不満が重なります。現場には初めてのお申し出でも、お客様の中では何度もの利用を通して怒りが積み重なっていることがあるのです。
何も言われなかったことも、再び利用してくださったことも、前回の応対への満足や納得を意味するとは限りません。
蓄積した不満が大きなクレームとなり、場合によっては、カスタマーハラスメントに当たる言動へ発展する可能性もあります。
もちろん、不満があるからといって、不当な言動が正当化されるわけではありません。
第2回でご紹介した、ANAの「クレームは宝物」という教えも、お客様の声を改善につなげる考え方です。
お客様がお話しくだされば、私たちはお詫びや説明をし、改善に向けて働きかけることができます。
しかし、私たちが不満に気づかず、お客様が何もおっしゃらないまま帰られてしまうと、直接働きかける機会を失ってしまうのです。
不満は、その場で伝えられるとは限らない
ANAで客室乗務員として勤務していた頃、
空港での応対へのご不満を、搭乗後に機内で初めてお話しになるお客様がいらっしゃいました。
反対に、機内でのご不満を、到着後にグランドスタッフ(空港係員)へ伝えられるお客様もいらっしゃいました。
時間的な制約もありますが、お客様には「本人には直接言いにくい」「その場で気まずくなりたくない」というお気持ちもあるでしょう。
ただ、客室乗務員は空港でのやり取りを、グランドスタッフは機内での状況を、直接見ているわけではありません。
お気持ちは受け止められても、事情が分からなければ、十分にご説明することは難しくなります。
タクシーの運転や応対への不満を、運転手には言わず、降車後に会社のコールセンターへ伝える。
ショップでの不満を、店員には伝えず、後から本部のお客様相談窓口へ電話する。こうした場面も同じです。
後から相談できる窓口も大切です。
ただ、お話を伺うだけで十分な説明ができなければ、お客様に事情をご理解いただけず、不満が残ってしまうこともあります。
だからこそ、現場で直接お話しし、説明や納得につなげる機会を大切にしたいのです。
業務に追われて不満に気づかないこともあれば、気づいても声をかけられないこともあります。
一方、お客様には、自分からは言い出せなくても、不快に感じていることには気づいてほしいという方もいらっしゃいます。
その場が収まっていても、不満が解消されたとは限りません。
待ち時間は変えられなくても、応対できることはある
医療機関の研修で、待ち時間への不満と声かけについて、受付スタッフの方々と話し合ったことがあります。
患者さんが何度も時計を見ている。
「予約時間を過ぎているのに、何の説明もない」
「いつまで待つのだろう。誰も声をかけてくれない」
患者さんがそう感じていらっしゃるかもしれない場面で、ご様子に気づいたら、こちらからお声をかけることの大切さをお伝えしました。
すると、スタッフの方から、
「お話が長くなって、時間を取られたらどうしよう」
「大きな声で言われたらどうしようと思うと、声をかけられません」
という声がありました。
気づいていても、その後の応対への不安から一歩を踏み出せない。現場には、そうした難しさもあるのです。
けれども、声をかけられないままでは、待ち時間の長さに、「誰も気にかけてくれなかった」という不快な思いが重なります。
そのご様子に気づき、
「長くお待たせして申し訳ございません。診察の順番を確認してまいります」
とお声をかければ、状況を確認し、遅れている事情や、分かる範囲での見通しをお伝えすることができます。
もちろん、その方だけ順番を早めることはできなくても、事情を説明し、ご理解や納得につなげることはできます。
やり取りがないまま帰られれば、事情をお伝えできず、不快だったという思いのみが残ります。
声かけは、不満が積み重なって深刻化するのを防ぐための働きかけでもあるのです。
声をかけた後も、気にかける
この土台が、以前のコラムでお伝えした「目配り=観察する、気配り=想像する、心配り=行動する」です。
相手の様子に気づき、気持ちを決めつけずに想像し、声をかけます。
ANA時代、私もご様子が気になるお客様には、
「何か私どもの不手際がございましたでしょうか」
とお声をかけることを心がけていました。すると、「実はね……」と話してくださることがあります。
「何でもないよ」とおっしゃった場合も、その言葉だけで「問題はない」と判断せず、声の調子や表情、態度にも心を配ります。
無理に聞き出す必要はありませんが、その後もさりげなくご様子を見守り、必要に応じてお声をかけることが大切です。
一度声をかけて終わりではなく、「その後もあなたのことを気にかけています」という姿勢を、言葉と行動で示すのです。
相手の心をプラスにするために、自ら考え、自発的に働きかける。これがホスピタリティの実践です。
「希望がかなった」だけが、満足ではない
予約状況や設備、システム、安全上の理由などから、ご希望に応えられないこともあります。
それでも、「ほったらかされた」と感じるのか、「気にかけてくれた」「何とかしようと確認してくれた」「寄り添ってくれた」と感じるのかでは、心に残るものが違います。
お客様の満足には、「希望がかなったか」だけでなく、「自分を大切に扱ってくれたか」という心の受け止め方も関わっています。
必ず納得していただけるとは限りません。
それでも、事情を説明し、誠意をもって応対することが、「希望どおりではなかったけれど、理由は分かった」「誠意が感じられた。またここを利用しよう」という気持ちにつながります。
変えられない条件があっても、相手の気持ちに向き合うことはできます。
その積み重ねが信頼を育み、リピーターになっていただくきっかけになるのです。
初期応対も、カスハラへの対応も、チームで支える
声をかけることへの不安を和らげるのは、チームの連携です。気づいた人が、すべてを解決する必要はありません。
一人がお話を伺う間は、周囲がほかの業務をフォローする。
難しい場合は、担当者や上司へつなぐ。
お気持ちや状況を共有し、チームで心を合わせて応対します。
声をかけた人に任せきりにせず、チームでお客様の声を受け止める。
この連携が、安心して声をかけられる現場を支えます。仲間を支えることもホスピタリティです。
「不満を持ち帰らせない」とは、すべての要求に応えることではありません。
不満を放置せず、受け止めたことを言葉と行動で示すことです。
一方、暴言や威圧的な言動などが生じたときは、接遇力だけで収めようとせず、上司や責任者へ共有し、組織として対応します。
カスハラを防ぎきれなかった責任を、従業員に負わせてはいけません。
防げる不満の深刻化は初期応対で防ぐ。
不当な言動には、組織として従業員を守る。
この両方が、カスタマーハラスメント対策には必要です。
次回は、応えられない要求への伝え方
では、受け入れることが難しい時、具体的にどのように相手の方にお伝えするといいのでしょうか。
第6回では「DESC法」をもとに、相手の気持ちを尊重しながら、できること・できないことを伝える方法を考えてまいります。
研修内容や実績は、ホームページでもご紹介しております。ぜひご覧ください。
ホスピタリティ&マナー・ラボ 公式ホームページ
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