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通常クレームからカスハラ対応へ―どこで切り替える?判断基準と具体的な伝え方―⑺

長澤さおり

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テーマ:カスタマーハラスメント対策・クレーム応対

【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第7回】

通常クレームからカスハラ対応へ―どこで切り替える?判断基準と具体的な伝え方―

ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。

これまでのカスタマーハラスメント対策連続コラムでは、
正当なクレームには誠実に向き合い、傾聴し、心情を理解し、できることを考えていくことの大切さをお伝えしてきました。

前回の第6回では、相手のご要望に応えられない場合にも、「できません」だけで終わらせず、相手を尊重しながら必要なことを伝える方法について考えました。(https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5238375)

では、丁寧にお話を伺い、必要な説明をし、できることを提案してもなお、大声で威圧される、土下座を求められる、過度な金銭補償を要求される、脅すような言葉を向けられる――。

そのような場合も、接遇としてお客様のご要望を受け止め続けなければならないのでしょうか。

正当なクレームには誠実に向き合う。
一方で、社会通念上許容される範囲を超えた言動からは、従業員を守る。


この二つを分けて考えることが、カスタマーハラスメント対策では重要です。

「要求内容」と「手段・態様」の両方を見る

第2回でもお伝えしたように、正当なクレームとカスタマーハラスメントを考える際には、
「何を要求しているのか」だけではなく、「どのような方法で要求しているのか」を捉える必要があります。

例えば、

「商品に不具合があったので交換してほしい」

というお申し出には、正当な理由があるかもしれません。

けれども、その要求を通すために、大声で従業員を威圧する、
人格を否定するような暴言を繰り返す、土下座を強要するとなれば、問題は別です。

厚生労働省の指針でも、大きな声を上げて従業員や周囲を威圧すること、土下座を強要すること、脅迫・侮辱・暴言、継続的・執拗な言動などが、社会通念上許容される範囲を超えた言動の例として示されています。

「お客様に言い分があるか」と「その言い方や要求の仕方まで許容されるか」は、分けて考える必要があります。

カスハラ対応へ切り替えるとは、「急に冷たくなる」ことではない

ここで誤解していただきたくないのは、「これはカスハラだ」と感じた瞬間に、応対者が急に強い態度へ変わるということではありません。

まずは落ち着いて、相手の言動に対して「それはおやめください」と境界線を示します。

それでも続く場合には、

「この状態ではお話を続けることができません」

と毅然と伝える。

さらに改善されなければ、上司・責任者への交代や、組織として定めた対応へ切り替えていきます。

大切なのは、我慢し続けることでも、感情的に言い返すことでもありません。 相手の言動に対して、段階的に境界線を示すことです。

大きな声で威圧されたら、どう伝える?

例えば、お客様から突然大きな声で、

「ふざけるな!」
「責任者を出せ!」

などと怒鳴られたとします。

このようなとき、

「そんな大きな声を出さないでください!」

と同じ強さで返してしまえば、対立がさらに大きくなる可能性があります。

一方で、何も言わず耐え続ける必要もありません。

まずは落ち着いた声で、

「お話はきちんと伺いますので、恐れ入りますが、大きな声でのお話はお控えいただけますでしょうか」

と伝えます。

それでも続く場合には、

「申し訳ございませんが、大きな声での言動が続く場合には、これ以上お話を伺うことができません」

と、次の段階を明確にします。

「あなたはカスハラです」と相手を決めつけるのではなく、「この言動はお控えください」と、問題となっている行為に対して伝えることがポイントです。

「土下座しろ」と要求されたら?

土下座の強要は、厚生労働省の指針でも社会通念上許容される範囲を超えた言動の具体例として示されています。

「土下座して謝れ」
「そこにひざまずけ」

と言われても、従う必要はありません。

例えば、

「ご不快な思いをおかけしたことについてはお詫び申し上げます。ただ、土下座のご要求には応じることができません」

と、お詫びすべきことと、応じられない要求を分けて伝えます。

さらに繰り返された場合には、

「先ほどお伝えしましたとおり、土下座のご要求には応じることができません。このご要求が続く場合には、これ以上の対応はいたしかねます」

と、境界線を明確にします。

相手のお気持ちを受け止めることと、相手の要求に従うことは同じではありません。

「金を払え」「補償しろ」と言われたら?

金銭補償については、注意が必要です。

「補償してほしい」と言われたことだけで、直ちにカスタマーハラスメントと判断するものではありません。

実際に商品やサービスに問題があり、相当な補償を求めている場合もあるからです。

一方で、提供した商品・サービスや実際に生じた損害などに照らして不相当な金銭を要求したり、
金銭を支払わせるために威圧や脅迫を行ったりする場合には、カスハラに該当し得ます。

その場で応対者が判断できない場合には、

「補償につきましては、私の判断でお約束することができません。事実関係を確認したうえで、責任者よりご回答いたします」

と伝えます。

すでに組織として対応できないことが決まっている要求であれば、

「ご要望については承りました。ただ、その補償については応じることができません」

と明確に伝えることも必要です。

その場を収めるために、安易に金銭や補償を約束しない。
個人で判断せず、組織として確認・判断することが大切です。

「あなたの名前、覚えましたからね」と言われたら?

「あなたの名前、覚えましたからね」

この一言だけでは、状況によって意味合いが異なります。

単に担当者の名前を確認している場合もあれば、その言い方や前後の発言によっては、相手を不安にさせる威圧や脅しとして受け取られる場合もあります。

だからこそ、言葉だけを切り取るのではなく、前後の状況や繰り返しの有無なども含めて判断します。

もし、

「名前を覚えたからな。どうなるか分かっているだろう」
「SNSに名前を出してやる」

など、明らかに不安を与えるような言動へ発展した場合には、

「そのような威圧的な発言はお控えください」
「そのような発言が続く場合には、これ以上の対応はいたしかねます」

と明確に伝え、必要に応じて上司や責任者へ引き継ぎます。

曖昧な言葉を一つ聞いただけでカスハラと決めつけない。
一方で、従業員が恐怖や危険を感じる言動を、接遇だからと我慢させ続けない。


この両方が大切です。

「やめてください」を言える組織であること

カスタマーハラスメント対応で難しいのは、従業員一人ひとりの言葉遣いだけではありません。

現場の従業員が、

「ここまでは私が応対する」
「ここからは責任者へつなぐ」
「この言動が続けば対応を終了する」

という判断基準を持っているかどうかです。

厚生労働省の2026年改訂版マニュアルでも、
企業には、報告先や上司への引継ぎ、一人で対応させないこと、
必要に応じて管理監督者が代わること、
犯罪に該当する場合には警察へ通報することなどを、あらかじめ定めて従業員へ周知することが示されています。

「毅然と対応してください」と従業員個人に任せるだけでは、カスハラ対策にはなりません。

どの言動があったら注意するのか。
何回繰り返されたら責任者へつなぐのか。
誰に報告するのか。
どの段階で対応を終了するのか。

こうした具体的なルールを組織で共有しておくことが必要です。

ホワイトをグレーにしない。そして、ブラックを一人で抱え込ませない

この連続コラムでは、

「ホワイトをグレーにしない。グレーをブラックにしない」

ということをお伝えしてきました。

正当なクレームには、初期段階から誠実に向き合う。
傾聴し、心情を理解し、できることを考える。

それでも、社会通念上許容される範囲を超えた言動が行われるのであれば、そこから先は従業員一人の接遇力だけで解決しようとする問題ではありません。

丁寧な接遇と、毅然としたカスハラ対応は、決して矛盾するものではありません。

相手を一人の人として尊重するからこそ、こちらも働く人の尊厳を大切にする。

私は、その両方があってこそのホスピタリティだと考えています。

判断できるためには、「知っている」だけでは足りない

実際の現場では、

「これはまだ通常クレームなのか」
「もう責任者へつないでよいのか」
「この言葉を言っても失礼にならないだろうか」

と迷うものです。

だからこそ研修では、単にカスタマーハラスメントの定義を学ぶだけではなく、

「大声で怒鳴られた」
「土下座を求められた」
「過度な補償を要求された」
「個人を威圧するような発言をされた」

といった具体的な場面を想定し、どの段階で切り替え、実際にどの言葉で境界線を伝えるのかまで練習しておくことが重要です。

知識として「カスハラには毅然と対応する」と知っていても、目の前で大声を出された瞬間に言葉が出なければ、現場では使えません。

対応者個人の経験や度胸に任せるのではなく、組織として判断基準と言葉を準備しておく。

それが、従業員を守ることにつながります。

次回は「従業員を守る管理職と組織の対応」へ

今回は、通常クレームへの応対からカスタマーハラスメントへの対応へ、どのように切り替えていくのかを考えました。

では、実際にカスハラが発生したとき、管理職や組織は何をすればよいのでしょうか。

対応者を交代する。
複数名で対応する。
記録を残す。
必要に応じて対応を終了する。
そして、カスハラを受けた従業員を一人にしない。

カスタマーハラスメント対策は、現場の従業員に「うまく対応してください」と任せて終わるものではありません。

次回のカスタマーハラスメント対策連続コラム第8回では、
従業員を守るために管理職と組織に求められる対応について考えてまいります。

研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
ホスピタリティ&マナー・ラボ公式ホームページ
https://www.hospitality-m-l.com/

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専門家

長澤さおり(マナーコンサルティング)

ホスピタリティ&マナー・ラボ

元ANA客室乗務員の経験を生かし、接遇・ビジネスマナー・コミュニケーションなど幅広い研修を実施。ホスピタリティを軸に人財を育成し、顧客・患者様満足度の向上と、相互に尊重し合える組織づくりを支援します。

長澤さおりプロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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