カスハラ対策は初期応対から ―クレームを深刻化させない「応対」と「対応」の違い―
【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第4回】
通常クレームの基本応対とは?―傾聴と心情理解から考える6つの手順―
ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
カスタマーハラスメント対策について考える連続コラム。
前回の第3回「カスハラ対策は初期応対から ―クレームを深刻化させない『応対』と『対応』の違い―」では、
応対とは、人に向き合うこと。 対応とは、事柄や問題に対して行動すること。
とお伝えしました。
では実際に、お客様や患者様から不満を伝えられたとき、
どのような順序で向き合えばよいのでしょうか。
今回は、通常クレーム応対の基本となる6つの手順について、
特に大切な「傾聴」と「心情理解」を中心に考えてまいります。
クレームを受けたら、すぐに事実確認を急がない
クレームを受けると、私たちはつい、
「少々お待ちください」
とお伝えしてその場を離れ、
「何があったのか」
「誰が対応したのか」
「こちらに非があったのか」
と、すぐに事実確認へ向かってしまいがちです。
もちろん、事実確認は必要です。
ただ、その前に大切にしたいことがあります。
相手がまだ「困っている」「不安だった」「不快だった」という思いを抱えている段階で、
十分にお話を伺わないまま事実確認を急いでしまうと、
「私の気持ちは分かってもらえていない」
「私の話を受け止めてもらえていない」
「気持ちだけが置き去りにされている」
「面倒な人が来たと思われているのではないか」
と、クレームを伝えてくださったお客様が、
私たちの応対によって、さらに不安や不満を抱くことにつながります。
だからこそ、
事実を確認する前に、まず目の前の「人」に向き合う。
これが、通常クレームの初期応対でとても大切なことなのです。
では、具体的にどのような順序で相手に向き合えばよいのでしょうか。
通常クレーム応対の基本となる6つの手順
私がクレーム・苦情応対研修でお伝えしている基本的な流れは、次の6つです。
① お詫び・当事者意識を持つ
② 傾聴・状況把握
③ 心情理解
④ 原因・事実確認
⑤ 解決策・代替案の提示
⑥ お詫びと感謝
そして、クレーム応対は言葉だけで行うものではありません。
不満の声を伝えられたその瞬間から、
相手に身体を向ける、
目線を合わせる、
落ち着いた表情で向き合う、
適度にうなずく、
相手の感情に合わせた声のトーンで話すなど、
表情・視線・姿勢・うなずき・声の調子といったノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)も大切です。
どれほど丁寧な言葉を使っていても、
相手を見ず、事務的な口調で伝えてしまえば、受け取られ方は変わります。
何を言うかだけではなく、どのように相手に向き合うか。
この姿勢を土台として、6つの手順を進めていきます。
① お詫び――まず当事者意識を持って向き合う
最初に大切なのが、お詫びです。
「ご不便をおかけして、申し訳ございません」
「ご不快な思いをおかけして、申し訳ございません」
「長い時間お待たせして、申し訳ございません」
と、まず相手に生じている不便や不快などに対してお詫びをします。
この段階では、まだ事実関係が確認できていないこともあります。
そのため、全面的にこちらの非を認めるのではなく、
相手に生じている不快・不便などに対して「限定的なお詫び」をする
ことが大切です。
また、最初にクレームを受けた人は、
「私の担当ではありません」と切り離すのではなく、
【太字】「組織の代表」として当事者意識を持って向き合うことが重要です。【/太字】
ただし、一人ですべてを解決するという意味ではありません。
担当者が明確ですぐにつなげる場合には、必要なお詫びをして速やかに引き継ぐ。
すぐにつなげない場合には、
「私でよろしければ、お話を聞かせていただけますでしょうか」
と、まずお話を伺います。
組織の代表としてまず受け止め、必要な人へ適切につなぐ。
これも大切な当事者意識です。
② 傾聴――まず相手の話を聴く
担当者へすぐにつなげない場合や、
その場で状況を伺う必要がある場合には、
こちらの事情や言い分を説明することを急がず、
「よろしければ、詳しくお話を聞かせていただけますか」
と、相手が安心して話せる状況をつくります。
クレーム応対では、まず相手が話の主役。こちらは聴き役です。
ここでも、身体を向け、目線を合わせ、適度にうなずきながら、途中で遮らずに聴くことが大切です。
こうした姿勢そのものが、「あなたのお話をきちんと聴いています」というメッセージになります。
実際のクレーム応対でも、十分にお話を伺った後、
「話を聞いてもらっただけでも、すっきりしました」
というような反応をされる方もいらっしゃいます。
話を聴くだけで問題が解決するわけではありませんが、
「きちんと向き合ってもらえた」という実感は、
その後の事実確認や問題解決へ進むための大切な土台になります。
③ 心情理解――「気持ち」と「主張」を分けて受け止める
傾聴しながら大切にしたいのが、心情理解です。
「それはご心配でいらっしゃいましたね」
「長い時間お待ちになり、ご不安でいらっしゃいましたね」
「そのような状況では、ご不快に感じられたことと思います」
など、相手の心情を言葉にして受け止めます。
自分の気持ちを言葉にして返してもらうことで、
「この人は私の気持ちを分かろうとしてくれている」
「きちんと受け止めてもらえている」
という安心感につながります。
クレームを伝える側も、
「面倒な人だと思われるのではないか」
「嫌な顔をされるのではないか」という不安を抱えていることがあります。
だからこそ、心情を言葉にして返すことは、「あなたの気持ちを受け止めています」という大切なメッセージになるのです。
ただし、ここで大切なのは、
心情を理解することと、相手の主張をすべて認めることは同じではありません。ということです。
事実関係が確認できていない段階で、こちらの非や相手の要求をすべて認める必要はありません。
まず心情を受け止め、そのうえで事実確認へ進みます。
④ 原因・事実確認――感情と事実を整理する
相手のお話を聴き、心情を受け止めたうえで、
「確認させていただきたいのですが」
「そのときの状況について、もう少し詳しくお聞かせいただけますでしょうか」
と、「いつ」「どこで」「何があったのか」「どのような状況だったのか」を整理します。
必要に応じて、関係するスタッフや担当部署にも確認します。
最初から事実確認を優先するのではなく、まずお詫びをし、傾聴、心情理解を経てから事実確認へ進む。
相手の気持ちと、確認すべき事実。その両方を大切にします。
⑤ 解決策・代替案――「できない」で終わらせない
事実を確認した後は、できることを考え、解決策を提示します。
相手のご要望にそのまま応えられない場合にも、
「できません」
だけで終わらせるのではなく、
「何ならできるのか」「代わりに何をご提案できるのか」を考えます。
できないことまで約束する必要はありません。
できることとできないことを整理し、可能であれば代替案を提示します。
相手のご要望に応えられないときの具体的な伝え方については、
今後のコラムで「DESC法」も含めて取り上げてまいります。
⑥ お詫びと感謝――最後の印象まで大切にする
最後に改めて、
「このたびはご不快な思いをおかけし、申し訳ございませんでした」
「貴重なご意見をお聞かせいただき、ありがとうございました」
と、お詫びと感謝を伝えます。
クレーム応対は、問題を解決することだけではなく、最後にどのような印象を残して終えるかも大切です。
具体的なクロージングについても、今後のコラムで改めて取り上げてまいります。
「皆さんお待ちいただいているので」で終わらせない
ここで、一つの事例から考えてみたいと思います。
以前、知人がSNSに投稿していた、ある医療機関での出来事が印象に残っています。
長時間待っていた知人が受付で、
「ずいぶん待たされているんですけど」
と伝えたところ、
「皆さんお待ちいただいているので」
とだけ事務的に言われ、受付の方が待ち時間や順番を確認してくださる様子もなかったそうです。
その後しばらくして診察に呼ばれたそうですが、
知人はこの受付での応対に強い不満を感じ、
SNSに「もうこの医療機関には行かない」と投稿していました。
ここで考えたいのは、知人が受付に何を求めていたのかということです。
必ずしも、「自分だけ先に診てほしい」ということではなかったと思います。
「あとどのくらい待つのだろう」
「忘れられていないだろうか」
「これだけ待っていることを分かってもらえているのだろうか」
そのような不安や不満を、まず受け止めてもらいたかったのではないでしょうか。
もしこのとき、受付の方が
「大変お待たせして申し訳ございません」
とお詫びをし、お話を伺ったうえで、
「ただいま確認してまいります」
と実際に確認されていたら、受け止められ方は違っていたかもしれません。
そして確認後、
「お待たせいたしました。あと○名ほどでございます。申し訳ございませんが、もうしばらくお待ちいただけますでしょうか」
とお伝えする。
確認したからといって、待ち時間そのものが短くなるわけではありません。
それでも、
「自分の言葉を受け止めてもらえた」
「確認してくれた」
「自分のために実際に動いてくれた」
こうした一つひとつの応対と行動が、患者さんの納得感につながるのです。
まず、患者さんの気持ちに「応対」する。 そして、必要な「対応」へつなげる。
これが、前回お伝えした「応対」と「対応」を実践につなげるということです。
ホワイトクレームをグレーにしないために
第2回「カスハラ対策で重要な『正当なクレームとカスハラの線引き』とは? ―『要求内容』と『手段・態様』から考える判断基準―」でもお伝えしたように、
正当なクレームとカスタマーハラスメントは、同じものではありません。
先ほどの知人の言葉も、
最初は「待ち時間が長い」という正当な不満、いわばホワイトクレームです。
ところが、その声に「皆さんお待ちいただいているので」とだけ事務的に返し、何も働きかけなければ、
「話を聞いてもらえなかった」
「気持ちを受け止めてもらえなかった」
「何もしてくれなかった」
という、本来の待ち時間への不満に、「応対そのものへの新たな不満」まで加わってしまったのではないでしょうか。
実際に知人は、その後SNSに「もうこの医療機関には行かない」と投稿していました。
最初は一つの正当な不満だったものが、
その後の応対によって、医療機関そのものへの不信や、今後の利用にも影響するほどの不満へと大きくなることもあるのです。
ホワイトをグレーにしない。 グレーをブラックにしない。
そのためにも、正当なクレームには初期段階から誠実に向き合うことが大切です。
正当なクレームに向き合う力も、カスハラ対策の一つ
カスタマーハラスメント対策では、
「どこからカスハラなのか」
「どこで通常クレームからカスハラ対応へ切り替えるのか」という判断基準や、
従業員を守るための組織対応が必要です。
その一方で、
正当なクレームに誠実に向き合う力を身につけることも、 クレームを必要以上に深刻化させないために大切です。
基本的な流れはシンプルでも、相手が不満や怒りを抱えている場面で実践することは簡単ではありません。
研修では、実際の現場を想定し、
言葉の選び方だけではなく、表情・姿勢・声の調子、担当者や上司へつなぐタイミング、
解決策や代替案の伝え方などを、ロールプレイングを通して実践的に身につけていきます。
では、まだ不満を言葉にされていなかったら?
今回は、お客様や患者様がすでに不満を声にされた後の、
通常クレーム応対についてお伝えしました。
では、相手がまだ何も言っていなかったら、私たちはどうすればよいのでしょうか。
表情が曇っている。
何か言いたそうにされている。
明らかにいつもとは様子が違う。
まだ言葉になっていない不満に、私たちはどう気づき、どう働きかければよいのでしょうか。
次回のカスタマーハラスメント対策連続コラム第5回では、
私が大切にしている【太字】「不満を持ち帰らせない」【/太字】という考え方から、
まだ声になっていない不満への初期応対について考えてまいります。
研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
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