接遇研修だけではなかなか変わらない?覆面調査(サービスの健康診断)で見える本当の接遇・サービス品質とは
接遇研修は「変わる必要性への気づき」から ーペイン・プレジャー・マトリックスで引き出す、研修への前向きな気持ちー
ホスピタリティ&マナー・ラボ代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。
お客様から選ばれる企業や店舗、患者様やご家族から信頼される医療機関・福祉施設には、共通する姿勢があります。
それは、ホスピタリティを大切にし、接遇やサービスをより良くしようと、学び、改善し続けていることです。
お客様や患者様の価値観、求められる応対は、時代とともに変化します。
だからこそ、私たちも「今よりもっと喜んでいただくにはどうすればよいか」を考え、自分自身の応対を見つめ直すことが大切です。
しかし、研修担当者や責任者が改善の必要性を感じていても、現場のスタッフも同じように感じているとは限りません。
「今のままで十分」と感じている受講生に
「今まで、このやり方でやってきた」
「特に困っていないのに、なぜ変える必要があるの?」
「忙しい中で、研修まで受けなければいけないのか」
研修に対して、このような思いを抱く方もいらっしゃいます。
慣れ親しんだやり方には安心感があります。
新しいことを覚えるには時間や労力が必要ですし、いつもと違う行動をすることに、戸惑いや照れくささを感じることもあるでしょう。
その気持ちを抱えたままでは、研修の内容を自分自身の課題として受け止めることは難しいかもしれません。
実際に、研修のご依頼をいただく際、担当者の方から、
「実は、研修にあまり前向きではないスタッフもいるのですが、どうしたらよいでしょうか」
というご相談を受けることがあります。
そのようなときにおすすめしているのが、研修の導入で行う「ペイン・プレジャー・マトリックス」です。
目的は、受講生自身に、「なぜ変わる必要があるのか」「自分にとって、学ぶことにどのような意味があるのか」に気づいていただくことです。
一方、スタッフの皆様も改善の必要性を理解し、前向きに研修に取り組もうとしている場合には、このワークを行う必要はありません。
周囲が変化する中では、現状維持も後退になり得る
今のやり方を続けることは、一見、安全で確実な選択に思えるかもしれません。
けれども、同業他社や他の病院が、説明のわかりやすさ、声かけ、待ち時間への配慮などを改善している中で、自分たちだけが変わらなかったら、どうでしょうか。
以前は十分だと感じていただけた応対も、相手の経験や期待が変われば、物足りなさや不安につながることがあります。
自分たちは同じ場所にいるつもりでも、周囲が前に進めば、相対的には後れを取ることになります。
周囲が進化・改善し続ける中では、現状維持は、相対的な意味で「退化」につながることもあるのです。
これは、これまでの経験や努力を否定することではありません。
その積み重ねを、今のお客様や患者様に合った応対へと生かしていく必要がある、ということです。
変化について、広く知られている次のような表現があります。
「最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が残るのでもない。
唯一生き残るのは変化する者である」
この一節はダーウィンの言葉として紹介されることがありますが、ダーウィン本人の言葉ではありません。
経営学者レオン・C・メギンソンが1963年にダーウィンの考えを説明した文章に由来するとされており、ここでは、その趣旨を表す日本語表現として紹介しています。※
私は、ここでいう「変化」を、相手や周囲の変化に気づき、自分自身の応対を見直していくことに重ねて考えています。
ペイン・プレジャー・マトリックスで、変化を自分の課題として考える
ただ「変わることが大切です」と伝えるだけでは、自分から変わろうという気持ちは生まれにくいものです。
そこで、ペイン・プレジャー・マトリックスを使い、「変わること」と「変わらないこと」を、四つの視点から整理していただきます。
・変わることのメリット
・変わることのデメリット
・変わらないことのメリット
・変わらないことのデメリット
喜びや得られるものを「プレジャー」、痛みや負担、失うものを「ペイン」として書き出し、自分の考えを見つめます。
変わることの負担だけでなく、その先にある喜びを見る
例えば、接遇やサービスを改善することについて、
「覚えることが増える」
「慣れるまでは大変そう」
「いつもと違う応対をするのは照れくさい」
と感じるかもしれません。
これらは、変わることのデメリットです。
一方、改善によって期待できるメリットもあります。
・お客様や患者様に安心していただける
・感謝の言葉をいただける
・説明の行き違いや苦情が減る
・相手との信頼関係が深まる
・自分自身が自信を持って応対できる
負担だけに目を向けていたときには見えなかった、変わることの意味や喜びが見えてきます。
変わらない安心感と、その先にある課題を見る
変わらなければ、慣れた方法を続けられます。
新しいことを覚える手間もかかりません。
これは、変わらないことのメリットです。
しかし、その一方で、
・相手の不安や困りごとを見過ごす
・同じ行き違いや苦情を繰り返す
・期待に応えられず、信頼を損なう
・同業他社や他の病院との差が広がる
・自分自身の成長の機会を逃す
といった可能性も考えられます。
「自分は今のままで困っていない」としても、お客様・患者様も満足しているとは限らない。
そのことに気づくと、現状維持の見え方も変わってきます。
自分の心の中で、どちらが大きくなっているか
四つの視点を書き出した後は、自分の心の中で、次の関係が成り立っているかを考えていただきます。
変わることのメリット + 変わらないことのデメリット > 変わらないことのメリット + 変わることのデメリット
これは、数値で正解を出すための公式ではありません。
変わることで得られる喜びと、変わらないことで生じる課題。
それらが、今のままでいられる安心感や、変わることへの負担よりも、自分にとって大きなものとして感じられているかを見つめるための考え方です。
「大変そうだと思っていたけれど、改善することで自分も働きやすくなるかもしれない」
「今のままでよいと思っていたけれど、相手の立場では十分ではなかったかもしれない」
「これからも信頼していただくために、自分の応対を見直す必要がある」
そのように自分で気づくことが、変わることの重要性を実感するきっかけになります。
自ら気づくからこそ、前向きに学ぼうと思える
私の研修では、講師が一方的に話を進めるのではなく、受講生に問いかけ、考えを深めていただくことを大切にしています。
「今の応対を続けたら、相手はどう感じるだろう」
「応対を変えると、どのような安心や喜びを届けられるだろう」
「そのために、自分が見直せることは何だろう」
問いかけを通じて、自分の経験や日々の言動を振り返る。
その中で得られた気づきが、「自分から変わろう」という主体的な思いにつながります。
周囲から変わるように言われるだけではなく、自分自身が変わる必要性に気づくこと。
それによって、研修に後ろ向きだった方も、「自分に必要なことを学ぶ機会」として、前向きに取り組むきっかけを得られると考えています。
実際に、受講後のアンケートでも、
「変化することの必要性を実感しました」
「これからは意識して自分自身の行動を変えていきたい」
というお声をいただいています。
自分自身で得た気づきが、変わろうとする気持ちにつながっていることを、こうしたお声からも感じています。
「よろこんでもらうよろこび」を、変化の力に
ホスピタリティとは、相手を思いやり、
「もっと喜んでいただくには、どうすればよいか」と考え、自ら行動する姿勢です。
その出発点にあるのは、相手の思いや、自分自身の応対への気づきです。
いつもの説明を少しわかりやすくする。
相手の表情を確かめる。
困っている様子に気づいたら、こちらから声をかける。
そうした小さな変化も、安心と信頼につながります。
変わることの重要性に気づき、自分から学ぼうと思う。その一歩が、接遇やサービスの改善を支えます。
私はこれからも、「よろこんでもらうよろこび」を原点に、受講生一人ひとりの気づきを引き出し、お客様や患者様から信頼され、選ばれる人と組織づくりをお手伝いしてまいります。
詳しい研修内容は、ホスピタリティ&マナー・ラボのホームページをご覧ください。
https://www.hospitality-m-l.com/
※出典:ケンブリッジ大学「Darwin Correspondence Project」The evolution of a misquotation。
本文の三行の日本語表現は、ダーウィン本人の発言の引用や、メギンソンの原文の逐語訳ではなく、広く流布している趣旨を表したものです。


