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カスハラ対策は初期応対から ―クレームを深刻化させない「応対」と「対応」の違い―

長澤さおり

長澤さおり

テーマ:カスタマーハラスメント対策・クレーム応対

【カスタマーハラスメント対策 連続コラム|第3回】

カスハラ対策は初期応対から
―クレームを深刻化させない「応対」と「対応」の違い―

ホスピタリティ&マナー・ラボ 代表
ホスピタリティコンサルタントの長澤さおりでございます。

前回のコラムでは、正当なクレームとカスタマーハラスメントの違いについて、
「要求内容」と「手段・態様」という二つの視点から考えました。
https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5234976

そして、「ホワイトクレームをグレーにしない。グレーをブラックにしない」
ということにも触れました。

もともとは正当なご意見や小さな不満だったものが、
話を十分に聴いてもらえない、
説明が不足している、
ぞんざいな態度を取られた、
といった初期応対によって、必要以上に大きくなってしまうことがあります。

もちろん、接遇が悪いからカスタマーハラスメントが起こる、ということではありません。

暴言や脅迫、人格否定など、社会通念上許容される範囲を超えた言動の責任を、応対した従業員に負わせてはいけません。

その一方で、誠実な初期応対によって、不必要な不満の深刻化を防ぐことはできます。

そのために大切なのが、「応対」と「対応」の違いです。

「応対」と「対応」は何が違うのでしょうか

以前のコラム「『対応』と『応対』の違いとは?」でもお伝えしましたが、
私は接遇研修やクレーム応対研修の中で、この二つを意識して使い分けています。
https://mbp-japan.com/okayama/nagasawa-s/column/5231251

応対とは、人に向き合うこと。 対応とは、事柄や問題に対して行動すること。

例えば、お客様から、
「注文した商品と違う」
とお申し出があったとします。
正しい商品に交換することは「対応」です。

一方で、
「ご不快な思いをされたのですね」
「ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」
と、相手の心情を受け止めることは「応対」です。
問題を早く解決しようとするあまり、私たちはすぐに「対応」へ進みがちです。
けれども、お客様が求めているのは、問題の解決だけとは限りません。
「まず、話を聴いてほしい」
「困った気持ちを分かってほしい」
という思いが、その言葉の奥にあることもあります。

人には「応対」を、事柄には「対応」を。

この両方があってこそ、適切なクレームの初期応対につながります。

相手の心に目を向ける「応対」とは


ANAの客室乗務員として勤務していた新人の頃のことです。

お客様から、
「今日はこの便、満席なの?」
と尋ねられると、私は、
「はい、あいにく本日は満席なんです」
と恐縮した様子でお答えしていました。

事実としては、何も間違っていません。
けれども、お客様から、
「そうなんだ…」
「今日は疲れそうだね」
と返ってくることがありました。
満席の機内で、お客様もどこか窮屈そうなご様子です。

私は、そのようなやり取りを少し寂しく感じていました。

そこで、あるときから伝え方を変えました。
マイナスを否定せず、その先にプラスを添える。

ただし、いきなり明るく前向きな言葉を返せばよいわけではありません。

お客様の「今日は満席なの?」という言葉の奥には、
「空いていてほしかった」「残念だな」というお気持ちが含まれています。
まず大切なのは、目の前のお客様が今どのようなお気持ちなのかを想像し、そのお気持ちを受け止めることです。

「はい、そうなんです。本日は満席なんです」
と、まずはお客様の表情やお気持ちに寄り添いながら、
少し申し訳ない気持ちを表情にも込めてお答えする。

そのうえで、
「ANAにご搭乗くださりありがとうございます。
おかげさまでANAも多くのお客様にお選びいただいております。
私どももしっかりサービスさせていただきますので、どうぞごゆっくりおくつろぎくださいね」
と、にこやかな表情でプラスの言葉を添えるようにしました。

すると、「満席」という事実は何も変わっていないのに、
お客様の表情が少し和らぎ、反応も変わるのです。

大切なのは、相手の気持ちを置き去りにして、
こちらだけが前向きな言葉を伝えることではありません。

まず相手の心を受け止め、そのうえで、その心が少しでもプラスになるように働きかけること。

そして、その働きかけを言葉だけで終わらせてはいけません。
フライト中、通路を通るたびにそのお客様へ目線を配る。
「何かお飲み物をお持ちいたしましょうか?」
とお飲み物をお勧めしたり、
「ごゆっくりお過ごしいただけていますか?」
とお声をかけたりする。
例えば、観光でご利用のお客様であれば、
「観光はどちらを回られたのですか?」
と、お客様のお話を伺うこともありました。

最初に感じ取った「窮屈そうだな」「少し残念そうだな」というお客様のお気持ちをきちんと受け止めたうえで、
少しでも心地よくお過ごしいただき、プラスのお気持ちになっていただけるように
その後も言葉や行動で働きかけていくのです。

そのように接することで、お降りの際にお客様から、にこやかに、
「ありがとう。お世話になりました。快適でした」
とおっしゃっていただけると、私自身もとてもうれしく感じたものです。

変えることのできない事実があっても、相手の心を想像し、言葉と行動で働きかけることはできます。
これが、私が考えるホスピタリティです。

そして、このようなプラスの働きかけの積み重ねが、お客様の心に不必要な不快感を残さず、
「クレームの種」を育てないことにもつながるのではないでしょうか。

小さな不快感を「クレームの種」にしないために

初期応対では、言葉の内容だけでなく、どのような言葉を選び、何を先に伝えるかによっても、
相手が受け取る印象は変わります。

例えば、忙しい時にお客様から、
「すみませーん」
と呼ばれた際、
「はい、少々お待ちください」
と返事をしていませんか?

もちろん、この言葉自体が間違っているわけではありません。
ただ、お客様のお申し出を受け止める前に「お待ちください」とお伝えすると、
お客様からすれば、
「応じてもらえない」
「自分の申し出を受け止めてもらえなかった」
と、少し否定されたように感じることもあります。

そこで、こちらの都合から入るのではなく、まずはお客様のお申し出を受け止める。
「はい、かしこまりました。伺います。少々お待ちいただけますか」と。

「かしこまりました」という一言には、
「あなたのお申し出を、きちんと受け取りましたよ」
「あなたの言葉を受け止めていますよ」

というメッセージが込められています。
まず相手の言葉を受け止め、承認する。
そのうえで、「少々お待ちいただけますか」とこちらの事情をお伝えする。

どのような言葉を選び、どのような順番で伝えるのか。

私は研修の中で、
言葉を単に用件を伝えるための「道具」として使うと「言葉使い」、
相手への気遣いや心遣いといった配慮を伝えるために使うと「言葉遣い」とお伝えしています。

「かしこまりました」も、単に丁寧な言葉を使うということではなく、
相手を受け止める気持ちを伝えるための言葉の一つです。

また、少しお待ちいただいた際には、
「お待たせいたしました」
とお詫びするだけではなく、状況に応じて、
「お待ちいただき、ありがとうございます」
と感謝をお伝えすることもできます。
もちろん、お詫びすべき場面では、きちんとお詫びをすることが必要です。
そのうえで、待ってくださったことへの感謝を伝える。

こうした一つひとつの言葉選びと行動の積み重ねも、
「あなたを大切にしています」という気持ちを伝える「応対」になるのではないでしょうか。

何気なく交わしている一言や応対は、クレームとは無関係に見えるかもしれません。
けれども、お客様の中に生まれた小さな不快感が積み重なれば、
それがやがて不満となり、クレームにつながることもあります。
だからこそ、クレームになってから適切に応対するだけではなく、
一つひとつの接点で、相手に不必要な不快感を残さないことも大切です。

言葉一つ、応対一つで、お客様の心に生まれる小さな「クレームの種」を育てない。
これもまた、「ホワイトクレームをグレーにしない」ための初期応対の一つだと私は考えています。

良い接遇と「何でも受け入れること」は違う

ただし、ここで誤解してはいけないことがあります。
初期応対を大切にすることと、お客様の要求を何でも受け入れることは、まったく別のことです。

正当なご意見やご要望には、相手を尊重し、誠実に応対する。
一方で、暴言、脅迫、人格否定、過度な要求など、
社会通念上許容される範囲を超えた言動には、一人で抱え込まず、組織として対応する。
「応対力を高めること」と「従業員を守ること」。 カスタマーハラスメント対策には、その両方が必要です。

だからこそ、現場の従業員だけに「もっと上手に接客してください」と求めるのではなく、
企業として、通常のクレームへの初期応対と、
カスタマーハラスメントへ切り替える判断基準の双方を共有しておくことが重要です。

カスハラ対策を「知る」から「できる」へ

カスタマーハラスメント対策では、
制度やカスハラの判断基準を知っているだけでは十分ではありません。
実際の現場で、
「この場面では、まず何と言うのか」
「どこまで自分で応対するのか」
「いつ上司へつなぐのか」
を具体的に判断し、行動できることが大切です。

ホスピタリティ&マナー・ラボでは、企業・組織の課題に合わせた
カスタマーハラスメント対策研修・クレーム応対研修をご提案しています。
カスハラの基礎知識や判断基準だけではなく、
不満を深刻化させない初期応対、お客様心理、傾聴と心情理解、通常クレームへの応対、カスハラへの切り替え判断、上司への報告や組織対応まで。
ケーススタディやロールプレイングを交えながら、
「知っている」から「現場でできる」へつなげる実践的な研修を大切にしています。

正当なご意見には、誠実に向き合う。
守るべき場面では、組織として従業員を守る。
その両方を現場で実践できることが、
これからのカスタマーハラスメント対策には必要ではないでしょうか。

次回は「傾聴」と「心情理解」へ


今回は、クレームを必要以上に深刻化させないための「応対」と「対応」、
そして初期応対についてお伝えしました。
それでも、実際にクレームが発生することはあります。
そのとき、すぐに事情説明や問題解決へ進むのではなく、
まず相手のお話をどのように聴き、そのお気持ちを受け止めればよいのでしょうか。

次回、カスタマーハラスメント対策連続コラム第4回では、
クレーム応対の第一歩となる「傾聴」と「心情理解」
について、ANA客室乗務員時代の経験も交えながら考えてまいります。

研修内容や実績につきましては、ホームページでもご紹介しております。
よろしければぜひご覧ください。
https://www.hospitality-m-l.com/

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専門家

長澤さおり(マナーコンサルティング)

ホスピタリティ&マナー・ラボ

元ANA客室乗務員の経験を生かし、接遇・ビジネスマナー・コミュニケーションなど幅広い研修を実施。ホスピタリティを軸に人財を育成し、顧客・患者様満足度の向上と、相互に尊重し合える組織づくりを支援します。

長澤さおりプロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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