糖尿病性神経障害(2)
はじめに
RS3PE症候群という疾患名をご存じの方はいらっしゃるでしょうか。今回は、糖尿病との関連も含めて、RS3PE症候群という疾患をご紹介させていただきます。
RS3PE症候群とは
Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edemaの頭文字から名付けられた疾患群です。直訳しますと、圧痕性浮腫を伴う寛解型の血清陰性の対称性の滑膜炎となります。
圧痕性浮腫とは、圧迫すると痕が残る浮腫です。
関節内の滑膜と呼ばれる組織に炎症がおこることを滑膜炎といいます。
1985年にMcCarty DJらが、高齢男性8名(59歳から82歳)、高齢女性2名(65歳と66歳)に生じた病態の共通の特徴である、
・軽快する(remitting)
・リウマチ因子陰性(seronegative)
・対称性(symmetrical)
・手背足背の圧痕浮腫を伴う滑膜炎(synovitis with pitting edema)
の頭文字をとって、RS3PE(R=remitting,S3=seronegative,symmetrical,synovitis,PE=pitting edema)と名付けました(日本内科学会雑誌 106:2131~2135,2017)。
RS3PE症候群の症状とは
対称性の滑膜炎による末梢関節痛、両側手背・足背の圧痕を残す浮腫、手指屈筋腱の炎症による疼痛がみられます。これらの症状は急に起こることが多いようです。
RS3PE症候群の治療とは
名前に軽快する(寛解する)とあるように、比較的少量のステロイドの内服が著効します。再燃は少ないとされていますが、ステロイドの減量や中止に伴い再燃する例もあります。
左:手足の圧痕性浮腫
右:ステロイド治療に改善
糖尿病56(11):874~880,2013より引用
RS3PE症候群と糖尿病の関係
実は、糖尿病を持つ人がRS3PE症候群を合併したという症例を多数報告されています。糖尿病があってもなくてもステロイドがよく効くという点では共通していますが、ステロイドを内服すると、内服している間は血糖値が上昇しますので、注意が必要です。さらに、RS3PE症候群を発症する前に、血糖値の上昇を認めていた症例の報告もあります(糖尿病56(11):874~880,2013)。
また、糖尿病の治療薬として汎用されているDPP-4阻害剤という種類の内服薬に関連してRS3PE症候群が発症したという報告が散見されています。いずれも内服開始数か月以内に発症しているようです。頻度が高いわけでもありませんし、明確な因果関係も分かっていませんが、副作用として注意が必要です。
さいごに
今回は、1985年に報告された比較的新しい疾患であるRS3PE症候群を紹介しました。50歳以上の方で、手足が急激に浮腫んできた場合には、RS3PE症候群の可能性があります。基本的には、適切に対処すれば治る疾患です。ただし難治性の場合は、悪性腫瘍の随伴症状である症例も報告されていますので、悪性腫瘍の検索が必要となります。比較的稀な疾患ですが、過度に恐れることなく、頭の片隅においていただければと思います。