インスリン抵抗性と関連疾患 ~糖尿病、心血管疾患、癌(がん)~
糖尿病と歯周病は互いに影響し合うことはよく知られています。歯周病だけでなく、糖尿病と口腔内環境は互いに影響を及ぼすことも明らかになってきています。さらに、最近では糖尿病の有無にかかわらず、口の健康を保つことがその人自身の健康を保つことに繋がるということもわかってきました。そこで、「オーラルフレイル」という考え方について考えてみたいと思います。
オーラルフレイルとは
「フレイル」とは英語の医学用語である「frailty(フレイリティ)」の日本語訳です。明らかな病気ではないけれど、年齢とともに、筋力や心身の活力が低下し、介護の必要性が高まってきているような状態を意味しています。つまり、健康と要介護の間の「弱った状態」のことです。このフレイルと英語で口を意味するオーラルをつなぎ合わせた言葉が、「オーラルフレイル」です。
オーラルフレイルは、口の機能が低下しかかっている(口の機能が衰えてきている)状態を指します。オーラルフレイルであると、口の機能だけでなく、その人自身の将来のフレイル、要介護認定、死亡のリスクが高いことがわかっています。
そこで、日本老年歯科医学会、日本老年医学会、日本サルコペニア・フレイル学会が合同で、
オーラルフレイルの啓蒙活動をスタートしています。
下の図は、これら3つの学会が合同で公開しているポスターです。
口の中が健康な状態(健口)から、「固い食べものが噛めない」「むせやすい」「口が渇く」「歯が少なくなっている」「滑舌が悪い」などの軽微な衰えが積み重なった状態がオーラルフレイルであり、将来の全身の健康状態の悪化の前触れであることを示しています。
オーラルフレイルをチェックする
オーラルフレイルのチェックリストを下記に示しています。
5項目のうち,2項目以上に該当する場合には,オーラルフレイルに該当します。
日本老年歯科医学会ホームページ参照
オーラルフレイルと糖尿病の関係
大阪大学の研究グループが、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症のいずれか1つ以上の疾患で通院中の1,000人を対象に、口腔機能の指標である「歯で噛み砕く機能」と「舌と唇を動かす機能」を調査した結果を報告しています(Obesity Research & Clinical Practice: 15(3),243-248,2021)。
その結果、2型糖尿病や肥満がある人は、オーラルフレイルのリスクが高いことが明らかになりました。高齢であることや体の筋力の低下だけでなく、2型糖尿病や肥満も、こうした口腔機能の低下のリスクを高めてしまうということです。
歯周病菌と糖尿病の関係
最近報告された興味深い研究結果を紹介します。
こちらも大阪大学の研究グループの報告です。研究グループは、2型糖尿病患者がマウスウォッシュ(クロルヘキシジン配合)を用いてうがいを行うことで、口腔内に存在する悪性度の高い歯周病菌種が減少するとともに、血糖コントロール状態が改善することを明らかにしました(2024年2月Scientific Reportsに掲載 DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-024-53213-x)。
マウスウォッシュを用いたうがいによる口腔ケアを行うことで、口腔内の環境改善だけでなく、歯周病によって惹起される血糖値上昇の改善にも繋がることが期待される研究結果として注目されています。
さいごに
「8020(ハチ・マル・二イ・マル)運動」をご存じの方はいらっしゃいますでしょうか。1989年に厚生省と日本歯科医師会が提唱した、「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という運動です。
この運動のおかげなのか、「8020」を達成している高齢者は増加しています。しかし、歯の数だけでなく、口腔内環境を整えておくことが将来の元気で長生きにつながっていくということは、糖尿病を持つ人にとっても、持たない人にとっても、「8020運動」の始まりから四半世紀経過した今も大切であることに間違いはなさそうです。