熱中症と糖尿病の関係
はじめに
様々な治療薬の進歩もあり、糖尿病を持つ人の血糖値はマネージメントができるようになってきています。その一方で、高齢化の影響もあり、糖尿病を持つ人に併発する慢性腎臓病や慢性心不全が、大きな問題となっています。少し前までは、糖尿病を持つ人の腎臓や心臓を守るためには、「血糖値をしっかりと管理する」という選択肢しかありませんでしたが、最近は、血糖値と独立して腎臓や心臓を守る効果がある新薬が登場してきています。今回は、その中の1つである、ケレンディア(一般名:フィネレノン)というミネラルコルチコイド受容体拮抗薬をご紹介させていただきます。
ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬とは
実は、腎臓に対する効果が確認される前から、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬は、慢性心不全や血圧に対して有効であることがわかっていました。ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬のいくつかの種類は、慢性心不全や高血圧症に適応がある薬として、実績を積み重ねています。
ミネラルコルチコイド受容体(MR)は、アルドステロンというホルモンに刺激されます。高血圧や糖尿病などにより、このアルドステロンのMRに対する作用が過剰になってしまいますと、心臓や腎臓に炎症や繊維化をもたらしたり、電解質調整の異常を引き起こしたりすることが知られています(下図参照)。
このミネラルコルチコイド受容体(MR)の働きを抑える薬である、ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬は、心不全や心筋梗塞後において予後を改善させることが、たくさんの大規模臨床研究によって報告されています。そのため、日本循環器学会や日本高血圧学会のガイドラインにおいても、心不全の治療薬として推奨されています。
また最近では、心不全の標準治療として、効果が期待される4つの治療薬が注目されており、心不全治療薬の「ファンタスティック・フォー」と呼ばれています。このミネラルコルチコイド受容体拮抗薬も、その1つに挙げられています。
2型糖尿病を合併する慢性腎臓病に対するMR拮抗薬の登場
慢性腎臓病に対しても有効性が期待されていたミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬でしたが、ようやく2020~2022年にかけて、フィネレノンという名前のミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬の大規模臨床試験の結果が報告されました。
これらの試験の結果を下記にまとめます。
(Eur Heart J 43:474-484,2022からの引用)、
・フィレネノンは、心血管複合アウトカム(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全による入院)のリスクを対象と比較して、14%減らした。
・フィネレノンは、心不全による入院を22%減らした。
・フィネレノンは、腎複合アウトカム(腎不全、腎機能の低下、腎臓関連死)のリスクを23%減らした。
・フィネレノンは、末期腎不全(透析導入、腎移植)のリスクを20%減らした。
これらの結果を受けて、フィネレノンは2022年3月に2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の適応を持つミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬として、日本で初めて保険適用が承認されました。商品名ケレンディアとして、2023年6月からは、長期処方も解禁となっており、慢性腎臓病と糖尿病を持つ方に広く使っていただけるようになっています。
最後に
慢性腎臓病や慢性心不全に対する治療方法は、非常に進歩してきています。同時に、慢性腎臓病ではあれば、検尿で測定するアルブミン尿や、慢性心不全あれば、採血によってわかるBNPなど、早期に診断する方法も充実してきています。
糖尿病を持つ方々も普段の検査にて、血糖値だけに注目するのではなく、ご自身の腎臓や心臓の状態にも気を配りながら、元気に長生きする方法を一緒に考えていきましょう。