「糖尿病だから痩せましょう」はなぜ間違っているのか
はじめに
妊娠に伴い、血糖値が上昇しやすくなることをご存じでしょうか。実は、妊婦さんの7~9%が「妊娠糖尿病」と呼ばれる状態になります。一方で、もともと糖尿病であった方が、妊娠された場合は、「糖尿病合併妊娠」と呼ばれ、区別して扱われます。今回は、妊娠と糖尿病についてまとめてみたいと思います。
なぜ「妊娠糖尿病」と診断するのか
「妊娠糖尿病」に注意すべき理由は、大きく3つあります。
1.周産期のトラブルが増える
妊娠時に、血糖値が上昇することで、お母さんおよび赤ちゃんの周産期のトラブルが増えることが知られています。
2.お母さんの将来の糖尿病発症リスク因子である
妊娠に伴い血糖値が上昇しやすくなる要因は、胎盤にあります。胎盤から分泌されるホルモンには、インスリンの働きを抑制する作用があります。さらには、胎盤では、インスリンを分解する酵素が出来ることも知られています。これらの理由より、胎盤が大きくなり、完成する妊娠中期から後半にかけて、血糖値は上がりやすい状態となります。これは、全ての妊婦さんで起こっている現象ですが、実際に血糖値が上がるかどうかは、元々のお母さんの素因や状態に依存することになります。つまり、妊娠糖尿病になったお母さんは、産後(胎盤が体内からなくなった状態)には血糖値が正常化したとしても、未来に糖尿病になりやすい体質や状態であると言えます。
赤ちゃんの将来の糖尿病発症リスク因子である
妊娠糖尿病は、お母さんの将来の糖尿病になりやすさと関連するのみならず、赤ちゃんの将来の糖尿病発症リスク因子でもあります。その理由の1つは、お母さんの体質(血糖があがりやすい)を遺伝子レベルで引き継ぐからです。一般的な糖代謝異常(血糖値が上がりやすくなる状態)には、遺伝素因があることが知られています。もう1つの理由は、お母さんの胎内で高血糖にさらされていたという赤ちゃんの経験が、その赤ちゃんの遺伝子の発現変化に影響を及ぼすということです。
妊娠中の糖代謝異常とは
周産期のトラブルを予防するためには、妊娠糖尿病だけではなく、妊娠中に血糖値が上昇している(糖代謝異常)全てのケースで注意が必要です。妊娠中の糖代謝異常を分類してみましょう。
それぞれの状態の診断基準は、下記の様になっています。
診断基準
1)糖尿病合併妊娠
A, 妊娠前にすでに診断されている糖尿病
B, 確実な糖尿病網膜症があるもの
2)妊娠糖尿病 gestational diabetes mellitus(GDM)
75gOGTT において次の基準の 1 点以上を満たした場合に診断する。
A, 空腹時血糖値 ≧92 mg/dl
B, 1 時間値 ≧180 mg/dl
C, 2 時間値 ≧153 mg/dl
3)妊娠中の明らかな糖尿病 (妊娠時に診断された糖尿病)
以下のいずれかを満たした場合に診断する。
A, 空腹時血糖値 ≧126 mg/dl
B, HbA1c 値 ≧6.5 %
妊娠中の糖代謝異常のマネージメント
妊娠時の血糖値は、糖尿病ではない状態と同様のレベルが求められます。
具体的には、
〇食前血糖値:60~100 mg/dl
〇食後1時間血糖値:140 mg/dl以下
〇食後2時間血糖値:120 mg/dl以下
〇HbA1c 5.8 %以下
これらを達成するために、まずは食事を分割食とします。1日に必要な食事量を確保しつつ、1回の食事量を減らして、食後の高血糖を抑制するための手段です。
分割食でも血糖値が目標を達成できない場合は、インスリン注射で血糖管理を行います。
いきなりインスリンの注射と思われるかもしれませんが、赤ちゃんにとっては、お母さんが内服薬を摂取するより、もともと膵臓から出ているホルモンであるインスリンを注射で補うことの方が、危険性が少ないからです。
上記も目標値を完全に達成するために、食事を極端に制限される妊婦さんもみかけます。実は、お母さん(母体)が栄養不足であっても、お母さん(母体)が高血糖の時と同様に、
赤ちゃん(胎児)が大人になってからの疾患に影響を及ぼすことが知られています。
やはり、お母さんが健やかでいることが、赤ちゃんにとっても大切だということです。
まとめ
妊娠糖尿病とは、妊娠中に明らかになった糖尿病には至っていない軽度の糖代謝異常のことを意味しています。
妊娠糖尿病は、お母さんと赤ちゃんの周産期のトラブルのため、お母さんの将来の糖尿病発症のリスクとなること、さらには、赤ちゃんの将来の健康のために、しっかりと把握して、マネージメントする必要があります。