「高血圧」を知る~後編:血圧の目標と対処法~
はじめに
4300万人の方が罹患しており(1)、1年間で約10万人の死亡原因(2)となっている疾患が高血圧です。
糖尿病を持っている人の40~60%は、高血圧を持っていると言われています(3)。これは、糖尿病を持っていない人の約2倍の頻度で、高血圧を持っていることを意味しています。
糖尿病と高血圧はいずれも血管にダメージ与えてしまうことを知られています。そこで、今回は「高血圧」について考えてみたいと思います。
高血圧とは
血圧は常に変動しています。診察室で血圧を測定する血圧と、自宅で測定する血圧、あるいは薬局などで測定する血圧は、常に異なります。慌てている時や、食事のあとなどに一時的に血圧が上昇することは高血圧とは言いません。
高血圧とは、安静状態での血圧が「慢性的」に正常値よりも高い状態のことです。
日本高血圧学会の高血圧診断基準をみてみましょう(4)。
心臓は、ポンプのように収縮と拡張を繰り返すことで血液を送り出しています。そのため、動脈の中の血圧は心臓の収縮、拡張に応じて上がったり下がったりします。
収縮期血圧(最高血圧)とは、血圧が心臓の収縮により最高に達したときの値で、拡張期血圧(最低血圧)とは、血圧が心臓の拡張により最低に達したときの値のことです。
診察室での収縮期血圧(最高血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最低血圧)が90mmHg以上の場合を高血圧と診断します。また自宅で測る家庭血圧の場合は、診察室よりも5mmHg低い基準が用いられます。
ガイドラインでは、高血圧をⅠ度・Ⅱ度・Ⅲ度の3段階に分け、疾病リスクとの兼ね合いで、治療開始時期や手段を医師が判断するようになっています。
正常高値血圧というのは、高血圧の予備軍の段階です。注意が必要という意味ですが、疾病のリスクが高い場合は治療の対象にもなります。また、(孤立性)収縮期高血圧とは、収縮期血圧だけが高い場合のことで、動脈硬化の進んだ高齢者に多くみられます。
なぜ血圧は高いとよくないのか
血圧とは、血管にかかる圧力のことです。したがって、血圧が高いということは、血管(特に動脈)の内腔(ホースで例えると、ホースの内側)に負担をかけることになります。動脈硬化と呼ばれる、血管障害を引き起こしてしまいます。この動脈硬化は、全身のあらゆる場所で生じる可能性がありますが、特に注意が必要な臓器を3つ挙げておきます。
1. 心臓
心臓に栄養を送っている冠動脈という血管に動脈硬化が起こることで、狭心症や心筋梗塞の原因となります。また、高血圧は、心臓の働きが悪くなってしまう、いわゆる心不全の発症率を上昇させます。
2. 脳
脳梗塞や脳出血のことをまとめて、脳卒中といいます。高血圧によって最もリスクが高くなるのが、この脳卒中です。収縮期血圧(最高血圧)が10mmHg上昇すると、脳卒中のリスクが男性で約20%、女性で約15%高くなると言われています。
3. 腎臓
高血圧は、腎臓に大きな影響を及ぼします。腎臓の機能が低下してくると、さらに血圧が上昇する悪循環を起こしやすくなります。腎機能が低下した状態である慢性腎臓病を起こした状態では、脳卒中や心筋梗塞の発症率や死亡率も高くなることがわかっています。
冒頭で、高血圧は1年間で約10万人の死亡原因(2)となっていると言いましたが、これらの心臓、脳および腎臓への悪影響が主な要因です。
後編では、血圧の目標や対処法について考えてみたいと思います。
<注釈>
(1)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019, p.10, ライフサイエンス出版, 2019
(2)Ikeda N, et al. PLoS. Med. 2012: 9; e1001160
(3)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2020,p.72, 文光堂、2020
(4)日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会(編). 高血圧治療ガイドライン2019, p.18, ライフサイエンス出版, 2019