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「糖尿病」という疾患名が意味すること

松田友和

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テーマ:糖尿病

●糖尿病に対する偏見

「生活習慣が悪いために、糖尿病になってしまった。」「糖尿病であれば、仕事内容を制限する必要がある。」とう話を聞いたことがありませんか?
もちろん、正しい会話ではありません。何が違うのかは、以前にお話しさせていただいた内容を参照ください。

2型糖尿病 ≠ 生活習慣の乱れ

このような糖尿病に対するネガティブで間違ったイメージを払拭していこうという機運が、糖尿病診療に携わる医療従事者の間で広がってきています。
糖尿病に対するネガティブなイメージの原因の1つが、「糖尿病」という疾患名ではないかと言われています。今回は、「糖尿病」という疾患名を糖尿病の歴史から考えてみたいと思います。

●糖尿病の世界の歴史

糖尿病に関する記載で歴史的に最も古いものは、紀元2世紀頃の現トルコ領カッパドキアで医療に従事していたアレテウスさんが記したものです。

「Diabetes(ディアベテス)は不思議な病気で、肉や手足が尿の中に溶けだしてしまう。患者は絶えず放尿している。経過は進行性で死に至る。」

世界遺産のカッパドキア(阪急交通社のHPより)



これは、現在ではインスリンとして知られているホルモンが極度に低下しているタイプの糖尿病を指していると考えられています。Diabetes(ディアベテス)は、ギリシャ語でサイフォンを意味する言葉から由来していて、多尿であることを示しています。ちなみに、このディアベテスの原因や病態は、長らく明らかにはなっていませんでした。

実は、このディアベテスの最大の特徴である高血糖の存在が明らかになったのは、1700年代の後半です。1674年には、ウィルスさんが糖尿病患者の尿が甘いということを発見し、報告していましたが、その正体までは突き止められていませんでした。1776年になって、ドブソンさんが、尿を蒸発させて残ったものは臭いも味も砂糖に似ていることを確かめていましたが、シュヴルイユさんがその正体がブドウ糖であることを明らかにしたのは、約100年後の1776年でした。
現在、糖尿病の英語表記は、Diabetes Mellitus(ディアベテス メリトス)ですが、「蜜のように甘い」を意味する、Mellitusをくっつけたのは、18世紀のウイリアム・カレンさんだと言われています。
さらに、血糖を制御しているインスリンが発見されるのは、今から約100年前の1921年ですが、この話はまたの機会にさせていただきます。

●糖尿病の日本の歴史

一方、日本で現在の糖尿病が記載されている最古の書物は、平安時代の「医心方」です。これは、最古の医書としても知られています。その中では、糖尿病は、「消渇」として登場しています。

記録が残っている中で、糖尿病患者の日本第一号は、藤原道長です。「小右記」には、道長が口渇や多尿から始まり、胸痛や視力低下、膿瘍形成などを経験して、昏睡となって亡くなった、と記されています。

18世紀から使われだしていたDiabetes Mellitusは、日本にも伝わってきていまして、明治時代には、それを訳したと思われる「蜜尿病」と「糖尿病」が混在して使用されていたようです。
それが、「糖尿病」に統一されたのは、1907 年の第4回日本内科学会講演会後であるとされています。

●「糖尿病」という病名について

糖尿病の歴史から、糖尿病のいう病名の由来について振り返ってきました。しかし、糖尿病という病名には、かなり以前から多くの疑問も投げかけられていました。それは、病名が疾患の本質からずれているということです。18世紀までは、糖尿病の正体が、高血糖であることがわからなかったため、高血糖の結果である多尿や尿糖(甘い尿)でしか糖尿病を表現することが出来ませんでした。実際には、尿糖自体は基本的には身体に無害であることは、近年では広く認識されています。
また、近年になって糖尿病診療においては、糖尿病に対するネガティブなイメージを払拭しようとする機運が高まっています。詳しくは、過去の記事をご参照ください。

糖尿病診療における「スティグマ」と「アドボカシー」を考える

日本糖尿病協会では、下記の様に、糖尿病という病名を変更しようとする取り組みを始めています。



日本糖尿病協会HPより抜粋

これらに加えて、日本では患者第一号である藤原道長さんの影響などで、糖尿病≒贅沢病、のような構図が出来上がったことも、糖尿病に負のイメージを植え付けた要因の1つではないかと思います。
糖尿病は生活習慣病であるという定義も、糖尿病に対する心証を悪くしたように思います。
糖尿病の本質は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの量が不足していることです。このインスリンの不足は、生活習慣とは直接の関係はありません。そういった意味からも、みなが納得できる「糖尿病」の新しい疾患名が待たれます。

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松田友和
専門家

松田友和(内科医)

医療法人社団翠藍 糖尿病内科まつだクリニック

糖尿病専門クリニック。糖尿病専門医による薬物療法に加え、認定看護師や療養指導士など糖尿病専門スタッフがチームで食事療法や運動療法も行う。フットケア外来、禁煙外来、糖尿病患者友の会「ばんぶぅ会」もある。

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