インスリンの歴史
はじめに
「脳卒中」と言われて、どのような病気を連想されるでしょうか。実は、脳卒中という言葉は医学用語ではなく、正式な病気の名前ではありません。正式には脳血管障害といいます。しかし、日本では、西暦760年の書物の中で、すでに脳卒中という言葉が使われていました。脳卒中の「卒」は、卒倒(そっとう):突然倒れる、の卒で、「突然」にという意味があり、「中」は、中毒(ちゅうどく):毒にあたる、の中で、「あたる」を意味しています。つまり、脳卒中とは、突然に何かにあたったように倒れる、ということを指します。日本でも、かなり昔から、脳卒中は認識されていたようです。
脳卒中の種類
脳卒中には、大きく分けて、脳梗塞・脳出血・くも膜下出血という3つの種類があります(下図参照)。
脳の血管が詰まって、詰まった部分の脳が壊死してしまうことを脳梗塞と言います。血管が詰まって生じる脳梗塞に対して、血管が破れることで起こる状態が、脳出血とくも膜下出血です。細い血管が破れて、出血している場合を、脳出血と言い、太い血管が破れて、脳の表面に出血している場合を、くも膜下出血と言います。いずれも、高血圧が主な要因となりますが、くも膜下出血の場合は、動脈瘤という血管のこぶが破裂することで生じます。
50年くらい前までは、日本では高血圧が原因となる脳出血がとても多く発生していました。そのため、脳卒中により死亡する割合が欧米の約2倍になっていました。しかし、最近では降圧剤などの進歩により、高血圧をコントロールできるようになり、脳出血が減少したため、脳卒中の約75%を脳梗塞が占めるようになっています。
脳梗塞の種類
脳卒中の中で最も頻度が高い脳梗塞には、ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓の3つの種類があります。
ラクナ梗塞・アテローム血栓性脳梗塞は、いずれも脳に血栓ができる状態を指しますが、細い血管の動脈硬化によるものをラクナ梗塞、太い血管の動脈硬化によるものをアテローム血栓性梗塞と言います。日本人は、欧米人と比べて、ラクナ梗塞が多いと言われています。
心原性脳塞栓症は、心房細動などの不整脈があるために心臓内にできた血栓などの異物が血液の流れにのって脳に届き、脳動脈を詰めてしまうことで起こります。
脳卒中と糖尿病の関係
日本における糖尿病と脳卒中の関係を調査した結果としては、JPHC研究(Stroke 2011年42巻2611-2614ページ)が有名です。この研究により、糖尿病は、脳出血やくも膜下出血のリスクを増やしていないことが明らかになりました。一方で、下図に示すように、糖尿病は、全ての病型の脳梗塞のリスクを増やすこともわかりました。
脳卒中を予防するために
脳卒中は再発しやすい疾患です。例えば、脳梗塞を起こした患者さんは、発症後1年で10%、5年で35%、10年で50%の人が再発するといわれています(J. Neurol.Neurosurg.Psychiat,. 76. 368-372, 2005)。したがって、一度でも脳卒中を起こしたことのある方は、前述した危険因子である、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙に、充分に注意する必要があります。ポイントは、禁煙・減塩・減量です。過度な飲酒と運動不足も脳卒中の危険因子と言われています。いずれも、「言うは易(やす)く行うは難(がた)し」です。わずかな行動の変化でも意味はありますので、脳卒中を予防するために、少しずつ意識してはいかがでしょうか。