糖尿病性神経障害(2)
前回のおさらい
前回(腎臓と糖尿病の関係(1))は、腎臓の働きとその働きが低下している状態である慢性腎不全のことをお話しました。その慢性腎不全で新たに透析導入となる方の42.5%(2017年)は糖尿病が原因でありますし、33万人の透析患者の原因疾患は、糖尿病腎症が39.0%を占めています。そこで、糖尿病と腎臓の関係をもう少し詳しくみていきましょう。
糖尿病性腎症と糖尿病性腎臓病
糖尿病が原因で生じる腎臓の障害として、糖尿病性腎症という概念が有名です。高血糖状態が持続することで、腎臓の細い血管(糸球体)がダメージを受けます。その結果、尿中微量アルブミンが検出されだします。これが糖尿病腎症の最初の検査異常値になります。この状態を糖尿病性腎症2期といいます。さらに障害が進むと、蛋白尿として認識されます。尿蛋白陽性となれば、糖尿病性腎症は3期です。ここまでは血液検査によってわかる腎機能の低下(クレアチニンの上昇や、eGFRの低下)は認めていません。血液検査で腎機能の低下がわかるようになると、つまり慢性腎不全になると、腎症は4期になります。さらに腎機能が低下し、透析になると腎症5期です。これらを要約しますと、
糖尿病性腎症1期:腎症前期(腎臓のダメージが明らかではない状態)
糖尿病性腎症2期:早期腎症期(尿中微量アルブミンが検出される)
糖尿病性腎症3期:顕性腎症期(尿中蛋白尿が検出される)
糖尿病性腎症4期:腎不全期(血液にて腎機能の低下が確認される)
糖尿病性腎症5期:透析療法期(慢性腎不全が進行し、透析が必要な状態)
となります。以前は、1期→2期→3期→4期→5期と順番に進行していくと考えられていました。 しかし、近年は上記のような典型的な経過をたどらない、糖尿病が原因と考えられる腎臓病が増加しています。代表的な例としては、蛋白尿を認めないにも関わらず、血液検査でわかる腎機能の低下のみを呈するような症例です。このような状態の腎臓病を、「糖尿病性腎臓病」と呼びます。糖尿病性腎臓病が生じる背景には、腎臓に障害をもたらす原因として、糖尿病以外の肥満、高血圧、脂質異常症、動脈硬化症、喫煙などの存在があるとされています。つまり、様々な原因があるけれど、糖尿病も部分的に関与している腎障害であるともいえます。
典型的な糖尿病腎症以外の糖尿病性腎臓病が増えている要因として、糖尿病診療の進歩と多様化、糖尿病患者の高齢化、糖尿病以外の腎障害の増悪因子の増加などがあります。その結果、現代の腎臓病の病態を包括的に捉えるために、糖尿病だけを考えておけばよい「糖尿病性腎症」だけでなく、糖尿病以外の要素も念頭においた考え方である「糖尿病性腎臓病」という概念が必要になっているのです。
腎臓を守るために
それでは、「糖尿病性腎臓病」にならないように、あるいは悪化させないようにするために何ができるのでしょうか。勿論、血糖コントロールをしっかりと行うことは大切です。さらに、糖尿病以外の要素もしっかりと管理していく必要があります。具体的には、
・血圧のコントロール
・脂質異常のコントロール
・体重管理
・禁煙
・減塩
・尿蛋白が多い場合は、蛋白摂取量の制限
などが挙げられます。
また、血糖管理や血圧管理のために用いられるお薬の中には、血糖や血圧をコントロールするだけでなく、腎臓に対して保護的に作用するものも登場しています。これらは直接腎機能を改善させるために開発されたものではありませんが、実は腎機能にも良い影響があることが判明したという薬です。実は腎機能自体を直接改善させるようなお薬は現時点ではありません。しかし、最近になって、直接腎機能を改善させる薬の開発が大詰めを迎えています。糖尿病性腎臓病に対する効果が非常に期待されています。
さいごに
高齢化や、医療の進歩により、糖尿病が原因で生じる腎臓病の概念も変化してきています。10年前には教科書に載っていた内容が既に古くなってしまうほど、糖尿病と腎臓の関係も新しいことがどんどん明らかになってきています。しかし、その一方で、腎臓を守るために出来ることは、前述したように、規則正しい食生活と適度な運動、血糖・血圧・脂質を適切に管理することに集約されてしまいます。これらは少し前にもお話した心臓を守ることとも共通しています。さらには、これらは糖尿病のあるなしにかかわらず誰もが実践することで元気で長生きすることにつながります。言葉では簡単に思えるかもしれませんが、自分自身に当てはめてみても実際には人の行動はそんなに単純ではありません。こうすれば良いとわかっていてもなかなか実践できないのが人間です。「知らないと出来ない」と「知れば出来る」はイコールではありませんが、「こうすれば良いと知り得たことを、少しずつ実践していく」をサポートすることで、皆様の元気で長生きに少しでも貢献できればと思います。