「がん」と「糖尿病」の関係
はじめに
団塊ジュニア世代が高齢者となる2035年に向けて、高齢者の心不全の患者さんが大幅に増加する「心不全パンデミック」の到来が心配されています。既に最近は心不全による入院が毎年1万人ずつ増えてきています。糖尿病は、心臓病の原因にもなりますし、心臓病も糖尿病の増悪因子になることが明らかになってきます。心臓を守って、元気で長生きするために、心臓病と糖尿病の関係について考えてみたいと思います。
心臓の役割
心臓は体全体に血液を送り出すためのポンプの役割を担っています。主に心筋と言われる筋肉が主成分です。その筋肉で構成された4つの部屋が精巧に連動しながら、縮んで(収縮)、伸びる(拡張)ことを約1分間に60~80回、1日に10万回以上繰り返すという作業(拍動)により、血液を体の隅々まで送り出しています。つまり、心臓は拍動することで、血液を体中に循環させる非常に重要な臓器です。
心臓病とは
心臓のポンプ機能が何らかの原因により障害を受けている状態を心臓病と言います。ポンプ機能が低下し、血液の循環が低下することで、日常生活に障害を生じた状態が心不全です。原因は多種多様ですが、今回は糖尿病との関係から考えてみます。
糖尿病との関連とは
糖尿病は慢性的に血液中の糖の濃度が高い状態です。その結果、血管が傷みやすくなり、動脈硬化の誘因となります。心臓は体中に血液を送り出し、様々な臓器に栄養や酸素を供給しているわけですが、心臓自体にも栄養や酸素を届ける必要があります。心臓に血液を供給するための血管を冠動脈と言います。動脈硬化などによりこれらの冠動脈が狭くなり、十分な血液が送られず心臓の筋肉(心筋)が栄養・酸素不足になった状態が「狭心症」です。また完全に血液が送れなくなり心筋が死んでしまった状態が「心筋梗塞」です。心筋梗塞になってしまうと、心臓のポンプとして働きが恒常的に低下してしまうため、心筋梗塞は慢性心不全の原因になります。このような狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患患者の約6割に耐糖能異常(糖尿病予備軍)を含む糖尿病状態が併存していると考えられています。
さらに糖尿病は冠動脈を介さずに直接心筋にダメージを与えることが明らかになってきています。糖尿病状態において、冠動脈が狭くなっていないのに心不全になっている病態を「糖尿病性心筋症」と呼びます。心筋内の繊維化の亢進や心臓の毛細血管の傷害、心筋の肥大などが生じていると言われています。その結果、糖尿病患者において心不全は生命予後を規定している主な要因であることが明らかになってきています。さらに慢性心不全を呈する患者における糖尿病の有病率は30%であり、一般検診患者の心不全の有病率である5%と比較して、著しく高いことが知られています。つまり、糖尿病であると心不全を起こしやすいし、心不全になると糖尿病が起こりやすい、という強い相関が存在するのです。
心臓を守るために
心臓に栄養と酸素を送っている冠動脈を動脈硬化から守るためには、糖尿病の管理だけでなく、高血圧、悪玉コレステロール、肥満、喫煙といった危険因子を管理することが非常に重要になってきます。糖尿病性心筋症に対しては、血糖コントロールを良好に保つことが大切であることは言うまでもありません。さらに、最近ではSGLT2阻害剤という糖尿病治療に、血糖値を下げることとは独立して、心不全に対する予防効果や治療効果があることが報告されています。
ご自身の心臓の状態を健康に維持していくためには、採血検査項目では、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)だけでなく、コレステロールや心不全のマーカー(例えばBNP)などにも目を向けることも必要です。ご自身の動脈硬化の程度を把握するような検査を受けてみるのも良いかもしれません。
高齢化に伴い2030年頃まで心不全患者が増え続ける「心不全パンデミック」による医療崩壊を起こさせないためにも、みなさまそれぞれが「元気で長生き」を達成するためにも、ご自身の体調管理にも留意しながら、豊かな人生を歩んでいきましょう。