NCDsとしての糖尿病
インスリンの自己注射をされている方で、注射部位にしこりがある方はいらっしゃいませんか?同じ場所にインスリンを繰り返すことで、皮下の脂肪組織が肥大してしまい、しこり状になることがあります。これを、インスリン・リポハイパートロフィーと言います。
日本糖尿病協会 インスリン自己注射ガイドより抜粋
リポハイパートロフィーは1型糖尿病患者さんの約30%に,インスリンを使用している2型糖尿病患者 の約5%に認められるとの報告もあります。
インスリン注射により出来るしこりには、インスリンボールと呼ばれるものもあります。見た目はリポハイパートロフィーと同様ですが、リポハイパートロフィーは脂肪組織が肥大したものであるのに対して、インスリンボールは繊維状の異常蛋白質であるアミロイドが皮下腫瘤を形成したものです。見た目では区別しにくいですが、リポハイパートロフィーが柔らかい塊であるのに対して、インスリンボールは硬いことが特徴です。
〇しこりの何が問題なのか?
自己注射されている方の中には、注射の時に痛くないからという理由で、わざとしこりのある部分に針をさされている方がいらっしゃいます。実は、インスリン注射により出来たしこりの最大の問題は、インスリンが予定通りに効果を発揮してくれなくなることです。このインスリンの吸収阻害作用は、リポハイパートロフィーよりインスリンボールさらに強くなると言われています。インスリン量を増やしても、なかなか血糖値が下がらない方や、注射部位によって、インスリンが効果にむらがあると感じておられる方は、しこりがないかどうか確認することが大切です。注射部位を毎回変えているとお話しされる方でも、左右交互に同じ場所に打っておられる方もいらっしゃいます。上の写真でも左右2か所にしこりがあります。
〇しこりを発見したら
いつも同じような場所に打っているように思う方は、一度注射部位周辺をよくさわってみてください。写真ほどでなくても、触って初めてわかるようなしこりがあるかもしれません。インスリンボールは硬いのでわかりやすいですが、インスリン・リポハイパートロフィーはやわらかいために触っただけではわかりにくいことがあるかもしれません。インスリンの効き目が悪いような気がする方は、一度主治医やスタッフに相談してみてください。
しこりがあれば、次からはしこりを避けてインスリン注射をすることが大事です。ここで大切なことは、いきなり注射部位を変えずに、まずはインスリン量を医療スタッフに相談することです。今までと同じ量を打つと急にインスリンが効力を発揮して、低血糖を誘発してしまう可能性があります。
〇しこりを作らないために
しこりを作らずに、安定してインスリンの効力を発揮させるためには、毎回の注射部位を少しずつずらして、広い範囲に注射を実施していくことが大切です。これを、サイトローテーションと言います。サイト(場所)をローテーション(交替)させるという意味です。
腹部に打っている方であれば、毎回2cm程度ずつ打つ場所をずらしていってください。ずらし方は、渦巻き状でも、上下左右でも、ご自身のお好みでかまいません。この場合に1つだけ注意点あります。おへその周囲5cm程度は、注射しないでください。おへその周りは少し硬くなっていて、インスリンの吸収が不安定になるからです。
〇最後に
インスリンを最初に打ち出したころには出来ていた注射部位のサイトローテーションも、何年もインスリンと付き合っているうちに、ついつい忘れてしまいがちです。血糖コントロールが思うようにいかない原因の一つに、インスリン・リポハイパートロフィーやインスリンボールがあるかもしれません。注射部位に限らず、注射手技など、少しでも気になることがあれば、お気軽にスタッフにご相談ください。