「墓じまい」を考える前に読んでほしい物語(15)「父の死と我が使命」匿名希望さん(30代)
お墓にまつわるエピソード集「お墓物語」
一見、同じように見えるお墓だが、実はそれぞれのお墓には、
それぞれの思いと数々のエピソードがあります。
全国の墓石を含む石材関連業者約1,300社が加盟する、
日本最大の業界団体である、(一社)日本石材産業協会では、
お墓にまつわる感動的なエピソードを集めた小冊子、
「お墓物語」を、2011年3月に発行いたしました。(非売品)
「お墓物語」を発行するにあたり、作品を募集したところ、
全国各地から数多くの応募作品が寄せられました。
その中から33名の方の作品がこの小冊子に収められています。
涙あり、笑顔あり、驚きありの素晴らしい物語ばかりです。
マスコミ等で「墓じまい」ばかりが大きく取り上げられる昨今において、
「お墓ってこんなに素晴らしいものなんだよ」ということを、
今一度、一人でも多くの人に気づいていただければと思い、
ここに、33話、全ての物語を順にご紹介させていただきます。
これまでに、以下の31作品をご紹介いたしました。
(1)「祖母との出会い」/三浦るるさん
(2)「お墓参りの不思議」/伊東徳久さん
(3)「祖父のお墓で」/水野真由美さん
(4)「おはからい」/漣ほたるさん
(5)「星よりも近く」/倉木敬人さん
(6)「泣き虫」/藤田徹朗さん
(7)「田舎のお墓を訪れて」/長坂隆雄さん
(8) 「祖母の墓を抱きしめて」/梅山太郎さん
(9) 「祖母VS母・お墓バトル」/森下純一さん
(10) 「一片の桜」/咲ママさん
(11)「心の掛け橋 」/棚橋すみえさん
(12)「おじいちゃんがくれたもの」/匿名希望さん
(13)「お墓物語」/寺田聡さん
(14)「温かい土」/渡辺笑子さん
(15)「父の死と我が使命」/匿名希望さん
(16)「孫に引かれて歩む道」/今野芳彦さん
(17)「墓石は語る」/伊東静雄さん
(18)「癒しの園」/加納一馬さん
(19)「家族の縁をつなぐお墓」/ももいちごさん
(20)「プロポーズはお墓で」/仁平井清次さん
(21)「お墓が仲人」/岡部晋一さん
(22)「桜咲く春の奇跡」/サカナさん
(23)「お墓で集うイトコ会」/前田喜久子さん
(24)「墓守娘のつぶやき」/久米早緒里さん
(25)「墓の花筒作り」/山本信之さん
(26)“「天保」の年号”北山亮司さん
(27)「祖母の言葉から」/川上さゆりさん
(28)「我家の記念碑」/石田亘さん
(29)「119番」/武川文典さん
(30)「墓の改装」/田村邦子さん
(31)「親父が亡くなった日」/大北和彦さん
今回は、神奈川県在住の柴田清子さんの作品、
「お墓の前で」をご紹介させていただきます。
心温まるエピソードを通じて、家族や大切な方との絆や、
命の尊さを考えていただくきっかけになればと考えております。
「お墓の前で」/柴田清子さん(78歳・神奈川県)
「なかなかいいじゃないか」。
完成したお墓の前で、夫は満足気に言った。
「緑が多くて四季折々の花もきれいだ。
歴史のある町だから観るところもたくさんあるし、
来てくれる人も楽しいと思うよ」。
まるで、自分がお墓参りに来るみたいな口ぶりだ。
私は思わず、「あなたがお墓参りに来るわけではないのよ。
そこまで考えるなんて…」
笑ってしまいながら、なんて人のいい、
楽天的なのだろうと、なにやら明るい気分になった。
小高い丘の中腹に位置する墓所。
晴れ渡った秋空に映える黒光りのする墓石には、
中央のすこし上に柴田家、右端に私の大好きなバラの花が、
「ありがとう」の文字と一緒に彫り込まれている。
墓石にデザインするなど、
初めての体験に少し戸惑いはあったが、
こんな経験は最初で最後なのだからと、
夫と二人で楽しみながら考えた。
完成したという連絡を受けた時は、
家を建てたのとは違う現実に、
何か覚悟のようなものが心をかすめた。
その墓石の前で、
今まで味わったことのない安堵と温もりを感じている。
散歩がてらの墓地巡りをして二年。
なかなか踏ん切りがつかなかったのは、
立地条件もさることながら、
現実のこととして受け入れられなかったように思う。
この辺で決めようと、夫は実行に移したが、
私はそれに従うしかなかった。
一人娘に心配、気遣いをなるべくさせたくない、
と思っている私たちにとって、お墓を建てるというのは、
親としての義務感みたいなものかもしれない。
散骨、お墓のマンション、樹木葬などの話題を耳にするたびに、
何がいいのかと迷ったが、最終的にはお墓を選んだことになる。
お盆やお彼岸には、いつも実家のお墓参りをしている。
静かな墓地の砂利道をサクサクと歩いて、
両親、祖父母の眠るお墓の前に立った時、
懐かしさに似た気持ちを抱くのは、
生死を越えた人と人のつながりだろうか。
「又、来るね」
ホッと心を和ませ、墓地を後にした。
私たちの心がいつの日か、娘や孫に通じると信じて、
これからのそれほど長くない日々を大切に、
楽しく暮らしていきたいと願っている。
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「お墓物語」は、近畿地方の方限定でお送りさせていただきます。
なお、部数に限りがありますので業者の方のお申し込みはご遠慮ください。
~つづく~
次回は、いよいよ最終回、角由美子さん(53歳・愛知県)の作品、
「お墓開き」をご紹介させていただきます。
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