「墓じまい」を考える前に読んでほしい物語(32)「お墓の前で」/柴田清子さん(78歳)
お墓にまつわるエピソード集「お墓物語」
一見、同じように見えるお墓だが、実はそれぞれのお墓には、
それぞれの思いと数々のエピソードがあります。
全国の墓石を含む石材関連業者約1,300社が加盟する、
日本最大の業界団体である、(一社)日本石材産業協会では、
お墓にまつわる感動的なエピソードを集めた小冊子、
「お墓物語」を、2011年3月に発行いたしました。(非売品)
「お墓物語」を発行するにあたり、作品を募集したところ、
全国各地から数多くの応募作品が寄せられました。
その中から33名の方の作品がこの小冊子に収められています。
涙あり、笑顔あり、驚きありの素晴らしい物語ばかりです。
マスコミ等で「墓じまい」ばかりが大きく取り上げられる昨今において、
「お墓ってこんなに素晴らしいものなんだよ」ということを、
今一度、一人でも多くの人に気づいていただければと思い、
ここに、33話、全ての物語を順にご紹介させていただきます。
これまでに、以下の24作品をご紹介いたしました。
(1)「祖母との出会い」/三浦るるさん
(2)「お墓参りの不思議」/伊東徳久さん
(3)「祖父のお墓で」/水野真由美さん
(4)「おはからい」/漣ほたるさん
(5)「星よりも近く」/倉木敬人さん
(6)「泣き虫」/藤田徹朗さん
(7)「田舎のお墓を訪れて」/長坂隆雄さん
(8) 「祖母の墓を抱きしめて」/梅山太郎さん
(9) 「祖母VS母・お墓バトル」/森下純一さん
(10) 「一片の桜」/咲ママさん
(11)「心の掛け橋 」/棚橋すみえさん
(12)「おじいちゃんがくれたもの」/匿名希望さん
(13)「お墓物語」/寺田聡さん
(14)「温かい土」/渡辺笑子さん
(15)「父の死と我が使命」/匿名希望さん
(16)「孫に引かれて歩む道」/今野芳彦さん
(17)「墓石は語る」/伊東静雄さん
(18)「癒しの園」/加納一馬さん
(19)「家族の縁をつなぐお墓」/ももいちごさん
(20)「プロポーズはお墓で」/仁平井清次さん
(21)「お墓が仲人」/岡部晋一さん
(22)「桜咲く春の奇跡」/サカナさん
(23)「お墓で集うイトコ会」/前田喜久子さん
(24)「墓守娘のつぶやき」/久米早緒里さん
今回は、愛知県在住の山本信之さんの作品、
「墓の花筒作り」をご紹介させていただきます。
心温まるエピソードを通じて、家族や大切な方との絆や、
命の尊さを考えていただくきっかけになればと考えております。
「墓の花筒作り」/山本信之さん(68歳・愛知県)
昔の墓の花筒は、今のようにステンレスではなく竹でできていた。
お盆になると、それを新しく作り替えるのが習わしになっていた。
花筒を作るのは子どもの仕事で、
四年生くらいになると任せられるようになる。
私も四年生になり、初めての花筒作りに参加することになった。
鋸(のこ)と鉈(なた)を持って、
先輩の後について竹藪へ向かう。
なんだか、一段と大きくなったような気がして心が弾む。
竹藪へ着くと、先輩が竹の品定めを始める。
真っ直ぐで、節の間隔の均等なものがいいと教えてくれる。
仲間の中にはその竹藪の所有者の子どももいる。
その子に断って選んだ竹を必要なだけ切る。
切り倒した竹の枝を払い、いよいよ花筒作りが始まる。
まず、一番年長の先輩が丁寧に説明をしながら見本を作ってくれる。
筒の上に当たるところは節を避けて切り、
真ん中あたりに節を持ってきて水溜とし、
全長60センチほどの長さで切り取る。
最後に土に差すところを鉈で斜めに切って出来上がる。
これを見本に、お互い助け合い、また先輩の指導を受けながら、
ワイワイ、ガヤガヤと作っていく。
竹を切る心地よい音が響き、いつもは暗くて静かな竹藪が、
この時ばかりはにぎやかになる。
私は3対、6本を作らければならない。
節を揃えて竹を選ぶのはなかなか難しい。
モタモタしていれば、いい竹を取られてしまう。
汗にまみれ、藪蚊に差されながら奮闘したが、
結局できなくて、先輩に残り何本かを作ってもらった。
出来栄えはどう見ても私のものが劣る。
家人が見れば一目瞭然である。
しかし、私は満足していた。
墓の花筒を作るということは、
大人への登竜門のような気がしたのである。
暗いイメージの墓がこの時ばかりは明るくなった。
今思えば、墓守を子どもに一役負わせることにより、
先祖を敬う心を育ませようという大人の配慮だったような気がする。
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なお、部数に限りがありますので業者の方のお申し込みはご遠慮ください。
~つづく~
次回は、北山亮司さん(63歳・愛知県)の作品、
“「天保」の年号”をご紹介させていただきます。
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