会社の会議:会議リテラシーとは:昭和の会議リテラシーをアップデートしよう
このコラムは、会社で会議のファシリテーションを行っているファシリテーターの方々を対象に書いています。
2020年はオンライン会議が増えました。ファシリテーターの方々はどのように対応しておられますか?
このコラムでは、オンライン会議やワークショップのファシリテーションについて、ファシリテーターとして、オンライン会議やワークショップ開催中に確認するチェックリストを考えます。
このコラムは次の3つの章で構成されます。
1. チームを順応させる
2. ワークを実行する
3. まとめる
7分程度で読める内容です。
なお、準備段階のものは、準備段階の確認チェックリスト に書きました。
開催後に確認するチェックリストなどは、別の機会に書くことにします。
なお、このコラムは、2020年12月7日に投稿しました。
米国MURAL社が出している、THE DEFINITIVE GUIDE TO FACILITATING REMOTE WORKSHOPS を参照しながら、私の実体験を基にして考察します。
私は、ファシリテーションを核としたコンサルティング・サービスを営んでいる個人事業主です。屋号をBTFコンサルティングといいます。BTFはBusiness Transformation with Facilitationの頭文字です。「ファシリテーションを活用してビジネス変革を実現して欲しい、そのために貢献したい」と考え、この屋号にしました。
ファシリテーション。Facilitationという名詞です。「人と人が議論し合意形成をする。この活動が容易にできるように支援し、うまく合意形成できるようにする。」これを実現するためにはどうしたら良いのかという課題を科学的に考え、試行錯誤を繰り返しながら作りあげられた手法、これがファシリテーションです。ファシリテーションをする人をファシリテーター (facilitator) と言います。
1. チームを順応させる
チームを順応させる目標は、次の3点です。
・安心安全で創造的な環境を作り出すこと
・参加者全員が同等に参加することを確実にすること
・議論が脱線するリスクを低減すること
□開会
ファシリテーターは早めにオンライン会議やワークショップに入り、参加者が入ったときに挨拶をして出迎えます。参加者のツールの設定などを評価し必要な調整をします。例えば、参加者以外の人の話し声が聞こえる。これは、オフィスから参加している場合に良くあります。うまくつながらない人がいるかもしれません。ハウリングが起きて、会話できない状態になるかもしれません。
開会直後にこういった不具合が発生すると状況改善に時間がかかってしまうことが多いです。準備段階の確認チェックリスト の3章の「ツールを紹介する」で書いた、事前に参加者全員がツールにアクセスできること(例えばログインできること)や、事前に会議やワークショップで使う機能の使い方を学んでいて、当日問題なく使えるようになっていることが大切なのです。このことを甘く見てはいけません。開始直後に、ツール使用で滞ってしまうと、会議やワークショップは台無しになります。
□自己紹介する
参加者がお互いに初めて会う人たちの場合、自己紹介します。
オンライン会議やワークショップでは、ファシリテーターはとても便利な道具を持っています。クラウド上のホワイトボードです。
例えば、何かのプロジェクトのキックオフだとしましょう。社内の各部門から集められた人たちがオンラインで参加しています。お互いのことはよく知りません。自己紹介の時間を持つことにします。何も計画せずに「なんでも良いから自己紹介してください」というやり方をするよりも、限られた時間の中でお互いのことを知り合うために、テンプレートを決めて、事前にクラウド上のホワイトボードに書き込んでもらうという手があります。例えば、氏名、部署名、社員証の写真、プロジェクトに参加する抱負、プロジェクトメンバーへの一言(趣味でもなんでもOK)などをテンプレートとして決め、事前に完成してもらいます。ひとり3分の自己紹介、Q&A1分、次の人への切り替えと予備時間を合わせて1分、合計5分とすることを事前に伝えておくことも大切です。(時間は一例です)準備段階の確認チェックリスト の2章の「テンプレートを準備する」で書いたことに対応します。
ファシリテーターとしては、この自己紹介は最初のチームビルディング活動であることを意識することが大切です。
□参加者の状況を確認する
参加者全員がこの会議やワークショップで使うツールの機能を使うことができる状態であることを確認します。この確認は短時間で行います。ひとりでも使えない人がいると会議やワークショップは滞ってしまいます。使えない人がいそうな場合は、サポートする要員を準備しておくことが必要になります。会議が始まってから、このような課題に陥ってしまうと、参加者の参加意識はガタ落ちになります。ですから、準備段階の確認チェックリスト で書いたとおり、事前準備がとても大切なのです。
□アイスブレイク
会議やワークショップの冒頭に、創造力をかき立てるような活動を持ってくることがあります。いわゆるアイスブレイクです。すべての会議やワークショップでアイスブレイクが必要というわけではありません。準備段階でしっかりと必要の有無、やる意義を考えることが大切です。
オンラインでもできるアイスブレイクを3つ紹介しましょう。
・2つのホントと1つのウソ
自分について3つのことを言います。2つはホント、1つはウソ。参加者は3つのうち、どれがウソかを当てます。例えば、2〜3日のワークショップの冒頭で自己紹介を兼ねて実施します。やり方の例は、参加者は事前に3つ番号をつけて準備してもらい、自分の番が来たらチャットにコピペしてもらいます。参加者の何人かがウソは何番かを言います。
・今世界の何処に行っても良いと言われたら、何処に行きますか?
クラウド上のホワイトボードに世界地図を貼り付けておきます。参加者に自分の名前を書いた付箋を、地図に貼り付けてもらいます。ファシリテーターは何人かにその場所に行きたい理由を聞きます。時間が許せば全員に聞きます。これも自己紹介の1種です。
・10個の共通点
参加者全員参加で、全員に共通したものをみんなで探します。例えば、「全員靴を履いている」、「全員椅子に座っている」などです。参加者自ら、クラウド上のホワイトボードに書きこみ、全員で共有します。「この人たちとこれから協働するんだ」という雰囲気を醸成するウォーミングアップとなるアイスブレイクです。
2. ワークを実行する
ワークとは、参加者が協働して実施する活動です。例えば、現状の課題を洗い出す活動です。
ワークを実行する目標は、次の3点です。
・各々の活動の効果を最大化すること
・全員の参加度を向上すること
・目標に合致していることを確実にすること
□ワークのやり方を説明する
各々の活動のやり方を全員にわかりやすく説明します。
丸腰でワークを始めることはよくありません。フレームワークやテンプレートを事前に用意しておきます。そして、どのようにフレームワークやテンプレートを埋めていくのか、番号をつけて、「1.何何をする」、「2.何何をする」といった具合に参加者にとってわかりやすい説明を加えます。この説明もクラウド上のホワイトボードに書いておきます。こうすることで、どのように活動するのかをわかりやすく伝えることができます。もちろん開始前にQ&Aで全員が同じ理解をしていることを確認しておくことが大切です。場合によっては、4〜5人程度のチームに分けて、複数のチームでワークを同時にやってもらうこともあります。ファシリテーターはワークの時間中に、クラウド上のホワイトボードを見回って、みんなの活動が順調に進んでいることを確認します。
□役割を割り当てる
上記の複数チームに分ける場合、そのチームの中で議論をリードする役割の人を一人割り当てると良いです。チーム分けすることは、会議やワークショップが始まってから決めるのではなく、事前に決めておきます。すると何チームできるかがわかりますので、議論リーダーが何人必要なのかもわかります。議論リーダーの役割は、全員に共有されたワークのやり方にしたがって、議論をスムーズに進行することです。
サブ・ファシリテーター(co-facilitator)がいる場合は、その人と役割を分担します。
□個別にワークする
ワークはひとりでやる場合もあります。例えば、ブレスト。時間を決めて、5分なら5分間でアイデアをできるだけ多く付箋に書く。こういったご経験をお持ちのある方はいらっしゃると思います。ブレストはその時は気持ちがハイになり、やり切った感を感じることがあります。一方、ブレスト後にひとりで振り返ると、必ずしも自分として良いアイデアではなかった、と思った経験をお持ちの方もいらっしゃると思います。オンラインの場合、アイデア出しは会議やワークショップ中にしかできない、という性質のものではありません。クラウド上のホワイトボードを活用します。ホワイトボードにアイデアを貼り付ける場所を事前に用意しておき、参加者の都合の良い時間にアイデアを貼り付けてもらいます。他の参加者のアイデアを見ることもできます。会議やワークショップが始まる前に、ある程度アイデアを揉むことが可能になるのです。
□ブレイクアウトルーム
複数のチームに分ける場合、チーム別に議論できる環境が必須です。例えば、リアルの会議室であれば、別の部屋に移動して議論するようなイメージです。例えば、zoomのブレイクアウトルーム機能を使って、別の部屋に移動して議論しているような感じでオンラインで協働することができます。このあたりのことは、会議やワークショップの準備段階で、どうするのか良く考えることが大切です。
□全体で議論する
複数のチームに分けた場合、各チームでの議論を全体で共有し、さらに議論することが必要になります。リアルな会議やワークショップでは、各チームのフリップチャートを壁に貼り、全員で共有し、さらに議論しますよね。オンラインの場合は、クラウド上のホワイトボードに各チームが議論した成果物がありますので、それを全員で共有します。オンラインで繋がってクラウド上のホワイトボードを活用して協働するという活動に慣れていることが必須になります。参加者は基本的な操作ができることが必須です。ファシリテーターは実際にこうした比較的新しいツールを活用したファシリテーションが円滑に行えるよう十分に練習しておくことが必須です。十分準備しておくことで、実際の会議やワークショップに安心して臨むことができます。
3. まとめる
会議開催中の確認チェックリスト。最後は、まとめることです。
まとめる目標は、次の3点です。
・会議やワークショップの成果を全員で理解すること
・合意形成する能力や決定する能力を高めること
・創造的に考えることを推進し続けること
□パターンを見つける
引出されたアイデアをまとめます。一例は改善活動でよく使われている親和図でしょう。オンラインでの会議やワークショップでは、クラウド上のホワイトボードを使い、全員に見える化しながら、全員で協働することになります。リアルな会議室の場合、ホワイトボードやフリップチャートの前に何人も集まると、体がぶつかってしまい作業しづらいので、ファシリテーターが付箋を移動することが多いです。クラウド上のホワイトボードの場合、そのような心配はないので、参加者が付箋を動かしながらグルーピングできます。ということは...ファシリテーターの方はお気づきのとおり、今までと別のスキルが要求されます。
□協働して決定する
リアルな会議やワークショップで、よくやる方法に、小さい丸シールをひとり3つとか5つとかを渡して、良いと考える決定事項の候補に貼るという手法がありますよね。いわゆる投票です。オンラインの場合、zoomなどの会議ツールに投票機能があれば、それを使うという手があります。miroやMURALなどクラウド上のホワイトボードに投票機能が備わっているツールであれば、それを使うという手もあります。
私は、投票ではなくペイオフ・マトリックスというフレームワークを活用して、意思決定プロセスを見える化しながら協働して打ち手に優先順位をつけて、意思決定する手法を良く使います。
□何を議論したのかを文書化する
いわゆる議事録です。私は、議事録は何のために作成するのか:議事録の意味を考える というコラムを書きました。その中で主張していることは、私が考える議事録とは、議論のプロセスが短時間で理解でき、どのようにして結論や合意に至ったのかが理解できる情報です。
何時何分に誰々が何々を言った、というものを記述したもの、録音から文字起こしをしたようなもの、リアルタイムにAIが音声認識機能を使って文字起こしをしたもの、そういったものではありません。
会議やワークショップは、事前に 場を作る という重要な作業があります。そこで設計される議論プロセスに従って議論を進め、結論や合意に至ります。その議論プロセスでは、フレームワークやテンプレートを用います。それらをクラウド上のホワイトボードに書き、協働しながらフレームワークやテンプレートを埋めていきます。議論プロセスの流れに従ってホワイトボードに成果物を作成すれば、それが議事録になります。まとめの段階では、必要ならば、各成果物にコメントを付けて補足します。
□行動計画を作成する
いわゆるTo Doです。会議やワークショップで何かの合意が形成されるのなら、何かの行動すべきこと(To Do)がリストされると思います。各々のTo Do項目は、誰が、何を、いつまでに、何の役割を持って、実施するのかを決めます。
ここで参考にすべきは、RACIというフレームワークです。RACIについては、意見をまとめる と 議論を見える化し共感を得るために でわかりやすく説明しています。一例として、新人のAさんが何かのTo Doについて実行責任者(RACIのR)になったとしましょう。ひとりで任せるのはちょっと荷が重いような内容です。こんな時、誰かをサポート役に付けますよね。ここではBさんが相談役(RACIのC)を引き受けました。このようにして、各To Do項目を実施可能なレベルまで具体化して、行動計画を作成することはとても大切なことです。
□会議後の仕事の割り当て
会議やワークショップは、1回では合意に至らない場合もあります。そのような場合、次回の開催に向けて、何かの調査だったり、資料をまとめることだったり、何らかの宿題が出る場合があります。
ここでも上記のRACIが役に立ちます。ちゃんと宿題ができるように行動計画することが大切です。
□振り返り
会議やワークショップについて、事前に立てた目標に対して、実際はどうだったのか振り返ります。ファシリテーターだけで振り返る場合もあるでしょうし、サブ・ファシリテーターがいる場合なら一緒に振り返ると良いと思います。目的は次をもっと良くするための打ち手を考えることです。私はKPTというフレークワークをよく使います。
これとは別に、参加者に対して、良かった点は何か、課題点は何か、を訊き、次回取り組むべきことを見える化することは、参加者意識の醸成につながります。会議リテラシー(自由闊達に議論し実施可能な合意形成をする事ができる能力)の低いチームの場合、最初はコメントが出にくいかもしれません。根気よく続けることで、少しずつでも良い方向に変えていくこと。これもファシリテーターとして大切な仕事である、と私は考えます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。