中小企業経営者の、よきメンターとなるために
1、年齢を重ねることと、経営者として衰えることは同じではない
高齢化は避けられない。しかし、年齢だけで経営能力は決まらない
人間は、誰でも毎年一つずつ年齢を重ねます。
これは、自分の努力で止めることのできない時間の流れです。
一方で私は、経営者として長く仕事をしてきて、年齢と仕事の能力は、それほど単純な関係にはないと感じています。
同じ年齢でも、新しいことに強い関心を持ち、学び続け、活発に仕事をしている方がいます。
反対に、まだ若くても、過去の成功体験に固執し、新しい商品、新しい技術、新しい市場、新しい世代の価値観を受け入れられなくなっている方もいます。
つまり、年齢を重ねることと、経営者としての能力が衰えることは、同じではありません。
もちろん、加齢に伴って身体や認知機能には変化が生じます。
若い頃と同じような体力や処理速度を、永遠に維持できるわけではありません。
しかし一方で、人間には、長年にわたって蓄積した知識、経験、言語能力、人を見る力、失敗から学んだ判断基準があります。
経営という仕事では、こうした蓄積が非常に大きな意味を持ちます。
私は、経営者に必要なのは「若さを維持すること」ではないと思っています。
年齢を重ねながら、身体を整え、学び続け、価値観を更新し、蓄積した経験を新しい環境の中で使い続けられる状態をつくること。
こちらの方が重要です。
経営は、単純な計算速度だけで行う仕事ではありません。
市場を見る。
人を見る。
数字を見る。
過去の失敗を思い出す。
異なる意見を比較する。
将来を想像する。
そして、不確実な状況の中で、最後には一つの判断を下す。
そこでは、若さと経験のどちらか一方ではなく、さまざまな能力を統合する力が問われます。
だから私は、年齢を重ねることそのものを、経営者にとって悲観的には考えていません。
問題になるのは、年齢ではなく、
「自分自身を更新することをやめてしまうこと」
だと思っています。
経営者として整えておきたい、3つのファクター
私は、自分自身の長期的な仕事人生を考えるとき、三つの状態を意識しています。
- カラダの状態
- アタマの状態
- ココロの状態
これは医学的な分類ではありません。
私自身が、経営者として自分を管理するために使っている考え方です。
身体が疲弊すれば、集中力や判断力にも影響します。
精神的な余裕を失えば、周囲の意見を聞けなくなることがあります。
新しいことを学ばなくなれば、過去の経験が、逆に固定観念へ変わることがあります。
この三つは、独立したものではありません。
相互に影響しています。
だからこそ私は、身体だけを健康にすればよいとも、知識だけを増やせばよいとも考えていません。
長期的に仕事を続けるためには、身体、思考、精神状態を総合的に整える必要があります。
何歳から衰えるかではなく、いつから自分を整えるか
「人間は何歳から老化するのか」という問いに、一つの年齢を当てはめることには、あまり意味がないと私は考えています。
身体の変化も、認知機能の変化も、人によって異なるからです。
重要なのは、
「何歳から老化するのか」
を気にすることではなく、
「何歳から長期的な自己管理を始めるのか」
という問いです。
運動する。
眠る。
健康状態を確認する。
学ぶ。
人と会う。
新しいものを見る。
自分とは異なる考え方を聞く。
こうしたことは、高齢になってから突然始めるものではありません。
若い頃からの生活と仕事の積み重ねが、その後の仕事人生に影響します。
年齢と経験を、経営者の資産に変える
経営者にとって、年齢を重ねることには大きな利点もあります。
失敗した経験。
成功した経験。
人を採用した経験。
人が辞めた経験。
取引先との交渉。
資金繰り。
景気変動。
投資。
撤退。
新規事業。
こうした経験は、本を読んだだけでは身につきません。
時間をかけて蓄積されていくものです。
実際、起業家についても、若さそのものが成功の必要条件ではありません。
重要なのは、年齢を重ねることによって得られる経験を、過去の成功体験として固定するのではなく、次の意思決定へ使える知恵に変え続けることです。
私は、そこに「大器晩成」という言葉の意味があると思っています。
若い時期だけに成果を集中させるのではなく、年齢を重ねながら、経験と能力の双方を蓄積し、仕事の質を高めていく。
経営者にとって、とても魅力的な生き方だと思います。
2.同じ年齢でも、仕事の質には大きな差が生まれる
ここからは、私自身が長年仕事をしてきて感じていることを書いてみます。
僕の周囲の事例
私は20代の途中から40歳まで、長い期間を米国で過ごしました。
そのため、日本へ本拠を戻した後、学生時代の同級生などと久しぶりに会う機会が増えました。
同じ年に生まれ、同じ学校で学んだ人たちです。
当然、年齢はほぼ同じです。
しかし、話をしてみると、その後の時間の使い方によって、人には大きな違いが生まれることを感じます。
新しい仕事について楽しそうに話す人。
今でも新しい本を読み、旅行へ行き、新しい人と付き合っている人。
昔とはまったく違う仕事に挑戦している人。
若い世代と自然に交流している人。
一方で、過去の話だけが会話の中心になり、新しいものには最初から否定的になる人もいます。
私は、外見的な若さを問題にしているのではありません。
興味深いのは、
同じ年齢でも、「これから」の話をする人と、「昔」の話だけをする人に分かれていくことです。
経営者にとって、この違いは非常に重要です。
会社は未来へ向かって経営するものだからです。
過去から学ぶことは重要です。
しかし、過去の成功を再現することだけを考えていたら、市場の変化には対応できません。
若くても、思考が固定してしまう経営者
これは、中高年だけの問題ではありません。
30代、40代でも、思考が固定している経営者はいます。
私は、その状態を、医学的な意味で「老化」と呼ぶ必要はないと思っています。
むしろ、経営者としての思考が固定している状態です。
過去に一度成功した方法から離れられない。
自分より若い社員の意見を聞かない。
新しいテクノロジーを、使う前から否定する。
自分が知らない市場には関心を持たない。
競合が変化しているのに、自分の会社だけは変えなくてもよいと思っている。
こうした状態になると、実年齢に関係なく、経営判断は徐々に市場から離れていきます。
経営者にとって恐れるべきなのは、年齢を重ねることではありません。
「自分がこれまで知っていることだけで、これからも経営できる」と考え始めることです。
年齢が高くても、新しいものを受け入れ続ける方
一方で、70代、80代でも、非常に柔軟に仕事をされる方に出会うことがあります。
そうした方と話していて感じるのは、若く見えるということより、好奇心を失っていないということです。
新しい技術について質問する。
知らないことを「知らない」と言える。
若い人の話を聞く。
自分と違う考え方を面白がる。
新しい場所へ出かける。
そして、自分の過去の成功を絶対視しない。
私は、こういう姿勢こそ、長く仕事を続けるうえで重要なのだと思っています。
では、カラダ、アタマ、ココロを長期間にわたって整えるため、私はどのようなことを意識しているのか。
以下、経営者としての私自身の考えを書いてみたいと思います。
3.カラダの状態を整える生活習慣と自己投資
私は、身体を整える基本を、大きく四つに分けて考えています。
- 運動
- 食事
- 医療・健康管理
- 睡眠
特別な健康法ではありません。
むしろ、当たり前のことを、仕事をしながら継続することの方が重要だと思っています。
運動については、何か一つの方法がすべての人に適しているわけではありません。
年齢。
体力。
持病。
これまでの運動経験。
それぞれが違います。
私自身は、日常の移動で歩くことを意識しながら、身体活動を生活の中へ組み込むことを重視しています。
また、年齢を重ねるほど、歩くだけでなく、筋力を維持することも重要になります。
重要なのは、短期間だけ激しい運動をすることではなく、長期間続けられる方法を持つことだと思います。
食事についても同様です。
特定の食品だけを食べれば健康になるという考え方ではなく、食事全体を整えることが基本です。
また、健康食品やサプリメントを利用する場合にも、
「これを飲めば老化を防げる」
というような単純な期待を持つべきではありません。
必要性は、日常の食生活、健康状態、服薬などによって異なります。
そして、私は医療を、問題が起きた後だけに利用するものだとは考えていません。
健康診断を受ける。
自分の身体の変化を把握する。
不調を放置しない。
必要であれば専門家の助言を受ける。
これも、長期的に仕事を続けるための自己管理です。
さらに、軽視してはいけないのが睡眠です。
仕事が増えると、真っ先に睡眠を削ろうとする経営者がいます。
私自身も、長時間仕事をする時期を経験してきました。
しかし現在は、長く働くことそのものを経営者の能力だとは考えていません。
重要なのは、限られた時間の中で、質の高い意思決定を続けることです。
経営者にとって身体への自己投資とは、長時間働ける身体をつくることではありません。
長期間にわたり、質の高い判断を続けられる状態をつくることです。
運動、食事、健康管理、睡眠。
これらは非常に地味です。
しかし経営と同じで、地味なことを長く続ける力が、最後には大きな差になるのだと思っています。
4.アタマとココロを整える生活習慣と自己投資
人間の認知機能は、年齢とともにすべて一律に低下するわけではありません。
処理速度や注意の切り替えなど、年齢の影響を受けやすい能力がある一方で、長年にわたって蓄積した知識や経験は、年齢を重ねた人の強みになることがあります。
だからこそ、私は経営者にとって重要なのは、
「若い時とまったく同じ頭脳を維持すること」
ではなく、
「年齢とともに変化する能力を理解しながら、自分の強みを更新し続けること」
だと考えています。
例えば、自分一人ですべてを瞬時に処理する能力が以前ほど高くなくなったのであれば、組織と仕組みで補えばよい。
一方で、経験から得られた洞察、人を見る力、業界知識、危機を経験した記憶などは、若い頃には持っていなかった経営資源です。
経営者に必要なのは、若い頃の自分を再現することではありません。
現在の自分に最も適した方法で、経営能力を高め続けることです。
私は、アタマとココロを整えるために、次のようなことを意識しています。
- 自分の専門分野以外の本や情報にも触れる
- 新しい市場、新しい国、新しい技術を実際に見に行く
- 自分より若い世代や、異なる専門性を持つ人と対話する
- 重要な仕事について、一つのことを深く考える時間を確保する
- 自分自身の考えを文章にし、論理を整理する
私は、以前よりも「何でも同時に処理すること」を能力の証明だとは考えなくなりました。
経営者にとって重要な仕事ほど、むしろ一つの問題について深く考える時間が必要だからです。
新規事業。
M&A。
海外進出。
重要人事。
大きな設備投資。
こうした判断を、メールを読みながら、電話をしながら、別の会議に気を取られながら決めるべきではありません。
情報を集める時間。
考える時間。
人の意見を聞く時間。
そして、一人で決断する時間。
これらを意識的に分けることが重要です。
同時に、ココロについても、新しいものを面白いと思える状態を大切にしています。
経営者が、
「最近の若い人はわからない」
「新しい技術は面倒だ」
「昔の方がよかった」
という言葉ばかりを口にするようになったら、注意が必要だと思っています。
市場を構成する人間も、技術も、価値観も、常に変化しています。
経営者だけが変わらないままでは、会社は市場から離れていきます。
だから私は、自分自身が知らないものに出会った時、まず、
「これは何だろう」
と考えるようにしています。
否定するより、先に理解する。
理解したうえで、自分の会社に必要なのかを判断する。
この順番を大切にしています。
5、カラダとアタマ、ココロを整え、年齢を経験という経営資源に変える
年齢を重ねることを、私は否定的に考えていません。
若い頃には、若い頃にしかできない仕事があります。
一方で、長い経験を積んだからこそできる仕事もあります。
重要なのは、年齢を重ねる過程で、身体を壊さず、好奇心を失わず、学ぶことをやめないことだと思います。
そうすれば、それまでの経験は、単なる過去ではなく、未来の意思決定に使える経営資源になります。
世界には、「起業家は若いほど有利」というイメージがあります。
しかし、私は経営の現場で、そのような単純な法則を感じたことはありません。
若い経営者には、行動力、時間、柔軟性があります。
経験を積んだ経営者には、知識、人脈、信用、過去の成功と失敗から得た判断基準があります。
どちらが優れているという問題ではありません。
それぞれの年齢で持つ強みを使いながら、自分自身を更新できるかどうかです。
そして私は、経営者が年齢を重ねたときに最も警戒すべきものは、身体の皺や白髪ではないと思っています。
「自分はもう十分に知っている」
と思い始めることです。
市場は、自分が何歳であるかとは関係なく変わり続けます。
技術も変わります。
顧客も変わります。
社員も変わります。
世界も変わります。
したがって、経営者自身も、変わり続けなければなりません。
本を読む。
人と会う。
歩く。
身体を動かす。
よく眠る。
新しい場所へ行く。
新しい技術を使う。
自分と違う意見を聞く。
自分の考えを書く。
そして、実際の経営で試してみる。
私自身も、これから年齢を重ねていきます。
しかし、私が目指しているのは「若いままでいること」ではありません。
経験を積み重ねながら、その経験に縛られず、昨日まで知らなかったことを今日も学ぶ。
そして、学んだことを、明日の事業に使う。
年齢を重ねることによって失うものだけを見るのではなく、時間によって蓄積される経験と、新しく学び続ける知性を組み合わせる。
それが、長く仕事を続ける経営者にとっての、本当の意味での「若さ」なのではないかと、私は考えています。


