拒絶の言葉がなかった|「同意しない意思の形成・表明・全うが困難」の意味
交際していたころに、お互いが納得したうえで撮った写真や動画が、今も手元の端末に残っている。関係が終わったあとになって相手から「消してほしい」と言われた、あるいは何も言われないまま残り続けている。こうしたご相談は珍しくありません。
インターネット上には、撮られた画像を公開されてしまった側がどう動くかを説明した記事が数多くあります。その一方で、まだ公開もしていないし人に渡してもいない、ただ手元に置いているだけという段階について書かれたものは多くありません。しかしこの段階には、刑事の話と民事の話がずれるという特徴があります。
この記事では、同意を得て撮影した画像を持ち続けている側の立場から、刑事の規定が何を見ているのか、そして削除に応じる義務がどこから生じ得るのかを整理します。事情によって結論は変わりますので、一般的な考え方としてお読みください。
まず「撮った」「持っている」「渡した」を分けて考える
画像をめぐる法律の話は、場面をひとまとめにすると分かりにくくなります。実際には、撮影した段階、手元に持っている段階、人に渡したり公開したりした段階で、動く枠組みが入れ替わります。
| 場面 | 主に問題になりうる枠組み |
|---|---|
| 撮影した段階 | 撮影行為そのものを対象とする刑事の規定 |
| 手元に持っている段階 | 相手の求めに応じるかどうかという民事の問題、写っている人が18歳未満の場合の規定 |
| 人に渡した・公開した段階 | 提供や公表を対象とする刑事の規定、名誉やプライバシーに関する民事の責任 |
「削除する義務があるのか」という問いは、このうち真ん中の段階の話です。ところが、調べたときに出てくる説明の多くは、いちばん下の段階を前提に書かれています。そこがかみ合わないために、話が分かりにくくなっていることがあります。
「持っていること」を正面から捉える規定は多くない
性的な画像に関わる法律のうち、代表的なものの組み立てを見てみます。
ひとつは、令和5年に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」です。この法律は、ひそかに撮るなどの行為を対象とする規定、その画像を人に渡したり不特定または多数の人が見られる状態に置いたりする行為を対象とする規定、そして提供や公然陳列をする目的で保管する行為を対象とする規定という順に並んでいます。
ここで注意したい点が二つあります。ひとつめは、保管に関する規定が「前条の行為をする目的で」保管した場合を対象としていることです。目的が要件になっているため、目的のない保管を広く捉える作りにはなっていません。
ふたつめは、提供や保管に関する規定が対象としている画像が、撮影に関する規定などによって作られた記録に限られている点です。つまり、同意を得て撮影された画像は、この法律の提供罪や保管罪が想定している対象には入っていないという整理になります。
もうひとつは、いわゆるリベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)です。この法律は、本人の意思に反して公表する行為や、公表させる目的で提供する行為を対象としています。所持や保管そのものを対象とする規定は置かれていません。
ここまでを読むと、「持っているだけなら問題がない」と受け取れるかもしれません。ただ、そう読むのは早すぎます。次の章から見ていくように、前提が変われば結論も変わります。
写っている人が18歳未満だった場合は前提が変わる
いちばん大きな違いが出るのは、写っている人が18歳未満だった場合です。児童買春・児童ポルノ禁止法は、自己の性的好奇心を満たす目的で所持する行為そのものを対象とする規定を置いています。
この規定は、写っている本人が撮影に同意していたかどうかで結論が変わる作りにはなっていません。交際していた、相手のほうから進んで送ってきた、といった事情も、成立の場面ではほとんど働きません。当時の年齢がはっきりしない画像や、古いデータが整理されないまま残っているという場合は、この点だけでも早めに確認しておく意味があります。
受け取った側の責任については、当事務所の別のコラムで詳しく扱っています。
「同意を得て撮影した」という理解が、法律上の評価と一致しないことがある
ここまでの整理は、「撮影が同意に基づくものだった」という前提の上に成り立っています。ところが、撮った側の理解と法律上の評価が一致しないことがあります。
先ほどの撮影に関する法律は、いくつかの類型を並べています。そのうちのひとつは、特定の人以外は見ないと誤信させて撮影する場合を対象としています。「二人だけの記念だから」「自分しか見ない」と伝えて撮った場合、その説明と実際の扱いが食い違えば、この類型が問題になる余地があります。
ほかにも、相手が同意しない意思を形にすることが難しい状態にあった場合の類型や、年齢による類型が置かれています。眠っていた、強く求められて断りにくかった、酒に酔っていた、といった事情が後から語られることもあります。
また、同意には範囲があります。顔が写る形で撮ることまで話していたか、どの場面までを想定していたか、静止画のつもりが動画になっていなかったか。このあたりは、当時の受け止め方が食い違いやすい部分です。
撮影の段階の評価が変われば、前章の整理はそのままでは使えません。「同意があったのだから問題はない」という説明を出発点に置かないほうが、結果として説明の精度は上がります。
撮影の同意は、その後の扱いまで自動的に含むものではない
撮影について同意があったとしても、それは撮るという行為についての同意です。撮った後にどこまで持っておくか、誰かに見せてよいか、どこかに載せてよいかは、それぞれ別の話として扱われます。
裁判所の考え方としても、撮影が許される場面かどうかと、その画像を公表することが許されるかどうかは、分けて判断されています。撮影に応じたことをもって、その後のあらゆる扱いにも同意していたと見るのは無理があります。
この点は、持っている側にとって注意すべき点であると同時に、「人に渡していない、公開していない」という事実が持つ意味を支えるものでもあります。
削除に応じる義務はどこから生じるのか
相手から「消してほしい」と言われたとき、応じる義務があるのでしょうか。ここは刑事の話ではなく、民事の話になります。入口は大きく二つに分かれます。
ひとつは、削除するという約束をしていた場合です。別れる際に話し合って合意していた、書面を交わしていた、示談や解決の際に条項として入れていた。こうした場合、削除は約束を果たすかどうかという問題になり、応じないこと自体が債務の不履行と評価され得ます。合意書や示談書に消去についての条項が入っていないかは、まず確認しておきたい点です。
もうひとつは、約束がない場合です。この場合は、肖像やプライバシーに関わる人格的な利益を根拠として、削除や廃棄を求められるかという問題になります。ただ、公開されていない段階で削除まで命じてもらうことは、公開された後の削除請求と比べて簡単ではありません。最高裁は、人格的な利益に基づいて行為の差止めを認めるかどうかについて、侵害行為が明らかに予想され、それによって重大な損失を受けるおそれがあり、事後に回復を図ることが難しいと認められるときに差止めを認めるという考え方を示しています(最判平成14年9月24日)。手元に置いているだけの段階では、公開のおそれがどの程度具体的かが問われやすい構造になっています。
もっとも、これは「求めに応じなくてよい」という意味ではありません。相手が同意の撤回を伝えてきた後も持ち続けることは、その後に何かが起きたときの評価に影響し得ます。裁判で争うかどうかにかかわらず、相手が弁護士に依頼して通知を出す、慰謝料を求める、といった動きが生じることも考えられます。法律上の義務があるかどうかと、応じるのが妥当かどうかは別の判断です。
よくある行き違い
相談の場面で出てくる説明のうち、そのままでは正確でないものを二つ挙げます。
ひとつは、「個人情報だから消させることができる」という説明です。個人情報保護法の消去や利用停止の請求は、個人情報を事業のために取り扱う事業者に向けられた仕組みです。個人が私生活の中で持っている写真は、基本的にこの仕組みの対象にはなりません。削除を求める根拠としては、先ほどの人格的な利益や合意のほうが実際に使われます。
もうひとつは、「写真の著作権は撮った側にあるから消す必要はない」という説明です。撮影した人に著作権が生じること自体はそのとおりですが、それは写っている人の人格的な利益とは別の話であって、持ち続けてよいという結論を導くものではありません。逆に、相手が自分で撮って送ってきた画像であれば著作権は相手の側にありますが、その一点で保存の可否が決まるわけでもありません。著作権の所在は、この問題の答えを決める材料になりにくいと考えておくほうが実際に近いといえます。
「持っているだけ」が別の問題に変わる場面
保有それ自体を捉える規定が限られているとしても、次のような場面では別の枠組みが動き始めます。
・相手や周囲に「まだ持っている」と伝える。伝え方によっては、脅迫やストーカー規制法の問題として扱われることがあります
・一人にでも送る。人に渡す行為は、持っていることとは別の場面として整理されます
・共有設定やバックアップの仕組みを通じて、第三者が見られる状態になっている
・端末の修理、下取り、譲渡、家族との共用など、自分以外の目に触れる経路が生じている
・別のトラブルが起きたときに、画像を手元に置いていること自体が交渉の材料や動機と受け取られる
最後の点は見落とされがちです。金銭のやり取りや関係の清算をめぐって争いが生じているときに、画像が残っているという事実が、こちらの意図とは離れた意味づけをされることがあります。
消すと決めたときに気をつけたいこと
削除に応じると決めた場合でも、押さえておきたい点がいくつかあります。
ひとつは、端末の中を消せば終わりとは限らないという点です。同期の設定によって別の場所に控えが残っていたり、過去に送信したメッセージの中に残っていたりすることがあります。手元の操作が及ぶ範囲は、記録全体の一部にとどまることがあります。この点は当事務所の別のコラムで整理しています。
ふたつめは、すでに捜査や紛争が始まっている場面では、消すという行為そのものが別の評価を受け得るという点です。事件になる前の日常的な整理と、疑いを向けられた後の削除とでは、受け止められ方が変わります。この点も別のコラムで扱っています。
みっつめは、消したことをどう伝えるかです。相手の不安に応えようとして、どこにも残っていないと言い切る文言を書いてしまうと、後になって別の場所から出てきたときに説明が難しくなります。確認した範囲を具体的に示すほうが、結果として無理がありません。
相手から連絡が来た段階で整理しておきたいこと
連絡が来た時点で、次のような点を書き出しておくと、相談の場で話が早く進みます。
・いつ、どのような経緯で撮ったものか
・撮影のときにどのようなやり取りがあったか、記録が残っているか
・どの端末、どのサービスに残っているか
・これまでに誰かに見せたり送ったりしたことがあるか
・別れる際や話し合いの際に、削除についての取り決めがあったか
・当時の相手の年齢に不確かな部分がないか
・相手が求めているのは削除だけか、金銭の支払いも含まれているか
避けたい対応
次のような行動は、状況を動かしにくくすることがあります。
・分かってもらおうとして連絡を重ねる
・削除の見返りとして条件を持ち出す
・画像そのものを示しながらやり取りをする
・内容を確かめないまま書面に署名する、その場で支払いに応じる
・連絡に反応しないまま時間だけが過ぎる
よくあるご質問
ご相談の中でよくうかがう三つの質問を取り上げます。
Q. 相手から何も言われていませんが、消しておいたほうがよいのでしょうか。
法律上の義務として整理できる場面は限られています。ただ、持ち続けることで生じ得る事故は、こちらの意図と関係なく起こります。共有設定の変更、端末の譲渡、第三者の閲覧などがその例です。関係が終わっている相手の画像であれば、必要がなくなった時点で整理しておくほうが、後の負担は小さくなりやすいといえます。
Q. 「消した」と伝えましたが、信じてもらえません。
消したことを目に見える形で示すのは簡単ではありません。相手の側にも、確かめる手立てがないという事情があります。やり取りが平行線になるようであれば、当事者同士で続けるよりも、代理人を通じて確認の範囲と方法を決めるほうが、双方にとって落ち着きやすい場面があります。
Q. 自分は撮られた側です。相手が持ち続けている場合はどうすればよいですか。
削除を求めること自体はできます。応じてもらえるか、法的に求められるかは、撮影の経緯、合意の有無、公開のおそれがどの程度具体的かによって変わります。すでに公開されている場合は別の手続きが用意されており、当事務所の他のコラムで扱っています。不安が強い場合は、警察相談専用電話(#9110)を利用する方法もあります。
まとめ
この記事の要点を整理します。
・画像をめぐる問題は、撮った段階、持っている段階、渡した段階で動く枠組みが入れ替わる
・持っていること自体を正面から捉える刑事の規定は多くないが、それは問題がないという意味ではない
・写っている人が18歳未満だった場合は、同意の有無にかかわらず前提が変わる
・「同意を得て撮った」という理解が、法律上の評価と一致しないことがある
・撮影の同意は、その後の保有や公表まで自動的に含むものではない
・削除の義務は、約束があるかどうかと、人格的な利益に基づく請求が通るかどうかで考える
・個人情報保護法や著作権を持ち出しても、この問題の答えは決まりにくい
・消すと決めた場合も、端末の外に残る記録と、事件化した後の削除の評価には注意がいる
同意を得て撮影した画像をめぐるご相談は、置かれている段階によって取るべき対応が変わります。判断に迷う点がある場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。


