同棲解消の敷金・原状回復・退去費用は誰が払う?
結婚していない二人の間に子どもが生まれるとき、分娩や入院、妊婦健診にかかったお金を誰がどれだけ負担するのかは、多くの方が迷われる点です。法律上の夫婦であれば生活費の分担(婚姻費用)の中で扱われますが、婚姻届を出していない二人には、同じ仕組みがそのままは当てはまりません。この記事では、未婚の出産費用について、分担の考え方、対象になりやすい費目、出産育児一時金の扱い、話し合いがまとまらないときの進め方を整理します。
この記事は2026年11月時点の制度を前提にしています。2026年5月に成立した改正健康保険法により、標準的な出産費用を公的医療保険で賄う仕組みが2028年6月ごろまでに始まる見込みです。開始後は自己負担の生じ方が変わるため、実際の負担額は出産時点の制度で確かめてください。
結婚していない二人の出産費用に、決まった分担のルールはあるのか
未婚の出産費用について、「何割ずつ負担する」と定めた条文はありません。そのため実際には、二人の話し合いで分担を決めることが中心になります。
話し合いの場面では、出産費用を半分ずつ負担する形で合意する例が多くみられます。妊娠は二人の関係から生じたことであり、費用も二人で分けるのが公平だ、という考え方が背景にあります。中絶をめぐる裁判例では、男女が共同で行った性行為の結果である妊娠について、男女が等しく不利益を分担すべきだという考え方が示されており(東京高裁平成21年10月15日判決)、出産費用の話し合いでも引き合いに出されることがあります。
一方で、法的にどのような根拠で、どこまでの費用を求められるのかは、事案によって判断が分かれやすい部分です。弁護士ドットコムに寄せられた相談でも、子どもの出生前にかかった費用の扱いについて、相談先の弁護士によって説明が異なったという声がみられます。「必ず半分を払ってもらえる」「一切払わなくてよい」といった単純な結論にはならず、二人の関係や経緯を踏まえて整理していく必要があります。
内縁・事実婚や婚約をしていた場合
同居して夫婦同然に暮らしていた内縁・事実婚の関係であれば、法律上の夫婦に準じて生活費を分担する考え方がとられることがあり、出産に関する費用もその中で検討されます。婚約が成立していた場合も、交際だけの関係とは扱いが異なることがあります。関係の性質による違いは、次の記事でも解説しています。
【男女トラブル】内縁・事実婚を解消するとき|法律上の夫婦と何が同じで、何が違うのか
認知との関係
子どもが生まれた後の生活費(養育費)は、父親が子どもを認知して法律上の親子関係が生じることで、請求の土台ができます。これに対して出産費用は、出産までに母親側に生じた費用という性質があり、養育費とは別の項目として話し合われることが一般的です。ただ、家庭裁判所で養育費を取り決める際に、あわせて出産費用の負担を話し合う例もあります。認知の時期や方法については、次の記事が参考になります。
【男女トラブル】胎児認知を求められた|生まれる前に認知する意味
分担の対象になりやすい費用・なりにくい費用
「出産費用」といっても、どこまでを含めるかで金額は大きく変わります。話し合いの前に、どの費目を対象にするのかを二人で確認しておくと、後の行き違いを減らせます。
| 費目 | 分担の話し合いでの扱われ方 | 確認しておきたい点 |
|---|---|---|
| 妊婦健診の自己負担分 | 対象に含めて話し合うことが多い | 自治体の受診券で賄われた分は差し引く |
| 分娩・入院費のうち一時金を超えた部分 | 対象に含めて話し合うことが多い | 病院の明細書と領収書 |
| 通院・入院時の交通費 | 含めるかどうかで意見が分かれやすい | 日付と区間の記録 |
| 個室料・無痛分娩などの追加費用 | 事前の合意の有無で扱いが分かれやすい | 選んだ経緯と相手への説明の有無 |
| ベビー用品などの出産準備費用 | 出産費用とは別に考えられることが多い | 出生後の費用は養育費との重複に注意 |
| 産前産後に働けなかった期間の収入減 | 出産費用とは別の問題として扱われる | 出産手当金など公的給付の受給状況 |
出産前後の生活費をどう考えるかは、関係の性質によって変わります。詳しくは次の記事で整理しています。
【男女トラブル】出産までの生活費は相手に求められるのか|内縁・婚約・交際の違い
出産育児一時金は差し引いてから分けるのか
健康保険からは、子ども1人につき原則50万円の出産育児一時金が支給されます(2023年4月に42万円から引き上げ)。多くの場合、一時金は病院に直接支払われ、本人は差額だけを窓口で支払います。
分担の話し合いでは、かかった費用の総額から一時金や自治体の助成などの公的な給付を差し引き、残った自己負担分を分けるという方法が出発点になりやすいといえます。一時金は出産費用に充てるための給付であり、実際に財布から出ていったお金を基準にするほうが、二人とも納得しやすいためです。もっとも、一時金を含めた総額を基準にしたいという主張がされることもあり、弁護士ドットコムにも同様の相談が寄せられています。どちらの方法をとるかを最初に決めておくことが大切です。
自己負担分を分ける場合の計算例は次のとおりです(金額は説明のための仮のものです)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 分娩・入院費の総額 | 60万円 |
| 出産育児一時金 | −50万円 |
| 妊婦健診の自己負担分(受診券を超えた分) | +5万円 |
| 自己負担の合計 | 15万円 |
| 半分ずつ負担する場合 | それぞれ7万5,000円 |
| 収入の比率(2対1)で負担する場合 | 10万円と5万円 |
なお、会社員などが受け取る出産手当金は、休業中の収入を補うための給付です。出産費用の計算とは性質が異なるため、分けて考えるのが一般的です。
出産費用の無償化が始まった後は
改正健康保険法による新しい仕組みでは、標準的な分娩にかかる費用は妊婦の自己負担が生じない形になる見込みです。ただし、産後のお祝い膳や記念撮影など、医療機関が独自に提供するサービスは対象外とする方向で議論されています。制度が始まった後も、追加のサービスや健診、交通費などをどう分けるかという話し合いは残る可能性があります。
割合をどう決めるか|折半と収入に応じた按分
半分ずつにするか、収入に応じて分けるかは、二人の事情によって変わります。話し合いでは、次のような事情が考慮されることがあります。
- 二人の収入や資産に大きな差があるか。
- 妊娠を機に退職や休職をして、収入が減っているか。
- 出産について二人の間でどのような話し合いをしてきたか。
- 相手がすでに支払った分や、立て替えている分があるか。
- 今後の養育費をどう取り決めるか。
たとえば、妊娠中に退職して収入がなくなった側に半分の負担を求めると、生活が立ち行かなくなることもあります。反対に、収入の多い側が一方的に全額を求められて折り合いがつかなくなることもあります。どちらか一方の事情だけで割合を決めるのではなく、出産費用と養育費を合わせて全体を見渡しながら調整すると、話し合いが進みやすくなります。中絶の場合の費用負担については、次の記事でも同じ観点から解説しています。
【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方
話し合いがまとまらないときの進め方
感情的な対立が生じやすい場面だからこそ、金額の根拠を示して順序立てて進めることが大切です。
- 病院の明細書、領収書、健診の記録、一時金の支給額が分かる書類をそろえる。
- 費目ごとの金額と自己負担の合計を一覧にし、分担の方法とあわせて書面で相手に示す。
- 合意できた内容は、金額・支払期限・支払方法を明記した書面にする。
- 話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所の調停や裁判所での手続を検討する。
認知が済んでいる場合には、養育費の調停の中で出産費用の負担もあわせて話し合う例がみられます。もっとも、出産費用をどの手続で求めるのが適しているかは、関係の性質や請求の内容によって異なります。手続を選ぶ前に、弁護士に相談して見通しを確認しておくと安心です。
合意を書面にするときに入れておきたい項目
- 対象とする費目と、それぞれの金額。
- 一時金などの給付を差し引いた後の自己負担の合計。
- 各自の負担額と、その割合を決めた考え方。
- 支払期限、振込先、分割の場合の回数。
- 出産費用の清算と養育費の取り決めとの関係。
口頭の約束だけでは、後になって「そこまでは合意していない」と言われるおそれがあります。養育費とあわせて取り決める場合には、公正証書にしておくことも検討に値します。
相手と連絡が取れない・話し合いに応じない場合
妊娠を伝えた後に連絡が途絶えてしまうと、費用の分担どころか話し合いの場を設けること自体が難しくなります。相手の情報が限られている場合の進め方は、次の記事で解説しています。
【男女トラブル】妊娠を告げた後に相手と連絡が取れなくなった|相手をたどる方法
費用の負担を求められた側の方へ
出産費用の負担を求められた側も、まずは明細や領収書の提示を求め、一時金などが差し引かれているかを確認することから始めましょう。内訳が分からないまま金額だけを示されている場合や、出産費用に加えて高額な金銭を求められている場合は、その場で支払いを約束せず、内容を整理してから返答することをおすすめします。一方で、負担の求めに一切応じない態度を続けると、話し合いがこじれ、別の請求につながるおそれもあります。誠実に応じる部分と確認が必要な部分を分けて対応することが大切です。
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出産費用の分担でお困りの方へ
未婚の出産費用は、決まった計算式がないぶん、費目の範囲、一時金の扱い、負担の割合という3つの点を一つずつ確かめていくことが解決への近道になります。出産を控えて落ち着いて話し合う余裕がない時期だからこそ、相手とのやり取りを第三者に任せることも選択肢の一つです。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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