別居中に始まった関係はどう評価されるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

別居中に配偶者以外の人と関係を持った、あるいは配偶者が別居先で誰かと関係を持っていた。こうした場面では、「もう夫婦関係は終わっていたのだから慰謝料は生じない」という言い分と、「別居していても婚姻は続いていた」という言い分が正面からぶつかります。結論を分けるのは、別居していたかどうかそのものではなく、その別居がどう評価されるかです。ここでは、別居中に始まった関係が法的にどう位置づけられるのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。

別居していても、婚姻関係は続いている

 配偶者以外の人と性的な関係を持つことは、民法709条・710条の不法行為に当たり得ます。ここで保護されているのは、婚姻共同生活の平和を維持するという利益です。
 夫婦には、同居し、互いに協力し扶助する義務があります(民法752条)。別居していても婚姻関係そのものは続いていますから、別居中であるという一事で不貞行為に当たらなくなるわけではありません。
 もっとも最高裁は、不貞行為の当時すでに婚姻関係が破綻していたときは、特段の事情のない限り不法行為責任を負わないと判断しています(最判平成8年3月26日)。守られるべき婚姻共同生活の平和がすでに失われている以上、侵害される利益がないという考え方です。別居はこの破綻を基礎づける事情の一つですが、それ自体が結論ではありません。

別居は「事実」であって「評価」ではない

 実務で争われるのは、おおむね次の3つの軸です。

問われること典型的な争点
時点関係がいつ始まったのか別居の前か後か、どの行為を基準にするか
性質どのような別居だったのか単身赴任・冷却期間・離婚前提など
経過別居後に何があったのか交流の有無、生活費の授受、期間の長さ


 以下、順に見ていきます。

軸1|関係が「いつ」始まったのか

「始まり」は一つの点ではない

 連絡を取り始めた時期、交際が始まった時期、性的な関係を持った時期は、それぞれ別の出来事です。慰謝料の対象として問題になるのは性的な関係で、最高裁も、不貞な行為とは配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうと述べています(最判昭和48年11月15日)。もっとも、それ以前のやり取りは、関係がいつ始まったのかを推認する材料として扱われます。

別居の前から続いていた場合

 別居より前から関係があった場合には、その関係が別居の原因になったのではないかが問題になります。破綻より先に不貞があったのであれば、破綻していたという言い分は通りにくく、むしろ婚姻関係を損なった事情として評価される方向に働きます。関係の始まりと別居の先後は、この類型で最も重要な争点です。

別居の後に始まった場合

 別居後に始まった関係であっても、それだけで責任がなくなるわけではありません。別居を始めた時点で婚姻関係が破綻していたといえるかどうかが、あらためて問われるからです。別居の開始と破綻は同じ意味ではありません。
 なお、離婚が成立した後に始まった関係は、そもそも不貞行為の問題になりません。関係が始まった時点で離婚が成立していたかどうかは、戸籍で確認できます。

軸2|どのような別居だったのか

 一口に別居といっても、その理由と実態はさまざまです。裁判例の傾向を大づかみに整理すると、次のようになります。

別居の類型破綻という評価の受けやすさ
単身赴任・就学・入院など認められにくい。生活上の都合による別居で、協力関係は残る
里帰りや一時的な冷却期間認められにくい。やり直す可能性を残した別居と見られやすい
一方が家を出た直後認められにくい。関係がまだ不安定な段階にとどまる
離婚に向けた協議や調停が進んでいる認められやすい方向に働く
長期間にわたり交流も連絡もない認められやすい方向に働く


 注意したいのは、別居の性質は当事者の説明ではなく、残っている事実関係から判断されるという点です。「離婚前提の別居だった」と述べても、その後も生活費のやり取りや行き来が続いていれば、説明どおりには評価されません。
 また、話し合いのないまま一方的に家を出た場合には、悪意の遺棄(民法770条1項2号)として、離婚原因の側で問題になることがあります。別居の始め方そのものが争点になる場合もあるということです。

家庭内別居は同じ枠で考えにくい

 同じ家に住みながら会話も家計も分かれている状態は、外形上は同居です。夫婦としての実体が失われていると評価される余地はありますが、居室や家計がどこまで分離していたかを示す資料が乏しいことも多く、破綻の主張は通りにくい傾向にあります。家庭内別居という言葉で一括りにせず、生活の実態を具体的に示せるかどうかが分かれ目になります。

軸3|別居した後に何があったのか

交流と経済的な結びつき

 別居後も自宅に戻ることがあった、子どもの行事で一緒に過ごしていた、連絡を取り合っていたといった事情は、婚姻共同生活が完全には失われていなかったことを示す方向に働きます。裁判例にも、別居中に自宅を訪れていた事実などを踏まえ、修復が不可能なほど破綻していたとまではいえないとしたものがあります。
 生活費の分担、いわゆる婚姻費用(民法760条)も同じように確認されます。支払いは法律上の義務ですから、支払があること自体で破綻が否定されるわけではありませんが、取り決めの有無や振込の履歴は、当時の関係と時期を示す客観的な資料になります。

「別居◯年で破綻」という数字が独り歩きしやすい理由

 別居期間について、「◯年で離婚が認められる」という説明を目にすることがあります。ただしその多くは、自ら婚姻関係を破綻させた配偶者からの離婚請求が認められるかという、別の場面の議論です。最高裁はこの場面について、別居が両当事者の年齢および同居期間と対比して相当の長期間に及んでいるか、その間に未成熟の子がいないか、相手方配偶者が離婚により極めて苛酷な状態に置かれるなどの特段の事情がないかを考慮して判断するとしています(最大判昭和62年9月2日)。
 これに対し慰謝料の場面で問われるのは、関係を持った時点で婚姻共同生活の平和が失われていたかどうかであり、判断の枠組みが異なります。別居期間は重要な事情ですが、同居期間との対比や別居中の交流と併せて評価されるものであり、何年経てば自動的に破綻するという基準があるわけではありません。

「破綻していると思っていた」という言い分の扱い

 破綻を持ち出すのは、通常、慰謝料の支払いを求められている側です。そのため、破綻を基礎づける事情は、その主張をする側が示すことになります。別居していたという事実だけでは足りないのが一般的です。
 もっとも、実際には破綻していなかった場合でも、破綻していると信じたことに相当の理由があったといえるかが問題になります。この点について最高裁は、離婚したと信じたことに相当の理由がないとしても、婚姻関係がすでに破綻していると信じ、そう信じることに相当の理由があったかどうかを別途検討すべきであるとして、原審の判断を破棄し差し戻しました(最判令和8年6月5日)。ただし差戻し後の審理が続いており、結論が確定したものではありません。この判断があるからといって、別居中の関係について支払義務がなくなったと理解するのは適切ではありません。
 相当の理由の有無で重く見られるのは、当時自分が実際に把握していた事実です。

  • 比較的重く扱われやすいのは、記入済みの離婚届を示された場合や、配偶者本人が離婚や別居に向けて動いていることが分かるやり取りを直接見せられた場合です。
  • これに対して、口頭で「もう別居している」「離婚の話が進んでいる」と聞かされただけの場合や、自宅への行き来を知りながら確かめなかった場合は、重く扱われにくい傾向があります。


 「離婚するから」と言われて交際が始まった場面については、別の記事で詳しく整理しています。

立場ごとに確認しておきたいこと

請求する側


  • 別居の性質を示す事情(行き来の記録、生活費のやり取り、修復に向けた話し合いの経緯)を時系列で整理する。
  • 別居の開始時期と、関係が始まった時期の前後関係を確認する。
  • 離婚前提の別居ではなかったといえる事情を、具体的に書き出しておく。
  • 請求先を配偶者と相手方のどちらにするかを、離婚するかどうかと併せて検討する。


請求を受けた側


  • 別居の実情について、当時自分が何を聞き、何を見ていたのかを時系列で書き出す。
  • 当時のやり取りの記録を自分から消さない。破綻や相当の理由を示す資料になることがあります。
  • 破綻が認められない場合でも、別居の状況が金額の評価に影響することがあるため、支払の要否と金額は分けて考える。
  • 返答を急がず、事実関係の認否と金額の話を切り分けて対応する。


どちらの立場でも効くのは日付の動かない資料

 住民票の異動日、賃貸借契約の締結日、生活費の振込履歴、調停申立ての受理日などは、後から作り直せない資料です。記憶や説明が食い違う場面では、こうした資料が判断の土台になります。

よくある誤解


よくある理解実際の扱い
別居していれば不貞行為にならない婚姻関係は続いており、別居の一事では結論は決まらない
別居が◯年続けば自動的に破綻する同居期間との対比や交流の有無と併せて判断される
署名済みの離婚届があれば離婚と同じ届出が受理されるまで婚姻関係は続く
相手から破綻していると聞いていれば足りる聞いた内容だけでなく、当時把握していた客観的な事情が問われる
家庭内別居も別居と同じに扱われる同居している以上、別居と同じ評価にはなりにくい
破綻が認められなければ何も変わらない破綻に至らない事情でも、金額の評価に影響することがある


まとめ


  • 別居中でも婚姻関係は続いており、別居しているという事実だけで結論は決まりません。
  • 評価は、関係が始まった時点、別居の性質、別居後の経過という3つの軸で行われます。
  • 破綻を持ち出す側が、それを基礎づける事情を示すことになります。
  • 別居期間の年数は重要な事情ですが、離婚が認められる別居期間の議論とは場面が異なります。
  • 破綻していると信じた相当の理由については令和8年の最高裁の判断がありますが、審理は続いており結論は確定していません。
  • どちらの立場でも、日付の動かない資料を早めに整理しておくことが役に立ちます。


別居中の関係で慰謝料が問題になっている方へ

 別居中に始まった関係は、事実関係の見え方によって結論が大きく変わる領域です。請求する側も請求を受けた側も、早い段階で当時の経緯と資料を整理しておくことで、話し合いの見通しが立てやすくなります。弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルについてのご相談をお受けしています。どちらの立場からでも、まずはお気軽にご相談ください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼