【男女トラブル】元恋人に貸したお金を返してもらう前に、相手の勤務先を調べてもいい?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。個別の事情によって判断が変わることがあるため、具体的な対応はご相談のうえで決めることをおすすめします。


元恋人に貸したお金がなかなか返ってこないとき、「相手の勤務先さえ分かれば、給料を差し押さえられるのでは」と考える方は少なくありません。実際、勤務先の情報は、裁判の書類を届けたり、給料を差し押さえたりする場面で役に立つことがあります。

 一方で、元交際相手の勤務先を自分で調べる行為は、方法によってはストーカー規制法や名誉毀損などの問題に発展するおそれがあります。正当な請求をしているにもかかわらず、調べ方が原因でこちらの立場が不利になってしまうのは避けたいところです。

 この記事では、勤務先を調べることがどこまで許されるのか、調べる前に確認しておきたいこと、法的な手続の中で勤務先を明らかにする方法について、順に解説します。

勤務先の情報は、回収のどの場面で役に立つのか

 貸したお金を返してもらう手段は、話し合いで支払いを求めるところから始まり、応じてもらえなければ裁判、判決などを得た後の強制執行へと進みます。勤務先の情報が意味を持つのは、主に後半の場面です。

裁判の書類を届ける場面

 訴訟を起こすと、裁判所から相手に訴状が送られます。送り先は原則として相手の住所ですが、住所が分からない場合や住所では受け取ってもらえない場合には、勤務先に送ることが認められることがあります(民事訴訟法103条2項)。

給料を差し押さえる場面

 判決などで支払いが確定しても相手が払わない場合、給料の差押えを申し立てることができます。差押えには給料の支払元である勤務先を特定する必要があり、差し押さえられるのは原則として手取り額の4分の1です。手取りが月44万円を超える場合は、33万円を超える部分の全額が対象になります(民事執行法152条)。

 このように、勤務先の情報は回収に役立ちます。ただし、役立つのは裁判所の手続を通じて使う場合であり、知った情報をもとに職場へ直接働きかけることとは別の話です。

自分で調べることはどこまで許されるのか

 勤務先を調べること自体を一律に禁じる法律はありません。問題になるのは、調べる「方法」と、調べた情報の「使い方」です。

問題になりにくい調べ方


  • 交際中に本人から聞いていた勤務先や職種を、メモや当時のやり取りから整理すること。
  • 公開されているSNSのプロフィールや投稿で、本人が自ら明らかにしている情報を確認すること。
  • 借用書や振込の記録、メッセージなど手元にある資料から、勤務先につながる情報を拾い出すこと。


 手元の情報を整理するだけであれば、通常は問題になりません。ただし、その情報が今も正しいとは限らない点には注意が必要です。

問題になりやすい調べ方


  • 相手の自宅付近で待ち伏せたり、出勤する後をつけたりすること。
  • 相手の持ち物にGPS機器や紛失防止タグを付けること。
  • 相手のSNSやメールに、パスワードを使って無断でログインすること。
  • 共通の知人に、借金の事実を伝えながら勤務先を聞いて回ること。
  • 勤務先と思われる会社に電話をかけ、在籍しているかどうかを確かめようとすること。


 待ち伏せや後をつける行為、位置情報の無断取得は、ストーカー規制法などに触れるおそれがあります。無断でのログインは、不正アクセス禁止法の問題になり得ます。借金の事実を周囲に広めると、名誉毀損やプライバシー侵害として、逆に損害賠償を求められることがあります。会社への電話も、問い合わせの仕方によっては、相手に借金があることを職場に知らせる結果になりかねません。

元交際相手だからこそ気をつけたい点

 ストーカー規制法は、恋愛感情や、それが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で行われるつきまといなどを規制しています。お金を返してほしいという目的だけであれば直ちに該当するとは限りませんが、交際の終わり方への不満が混じっていると受け取られると、警察から警告を受けるなどの事態になるおそれがあります。

 正当な用件での連絡がどのような場面で問題視されるかは、【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で詳しく解説しています。

勤務先が分かっても、職場への連絡は控える

 勤務先が分かると、「会社に連絡すれば払うのではないか」と考えたくなるかもしれません。しかし、職場に電話をしたり押しかけたりして返済を求めることは、おすすめできません。

 貸金業者については、正当な理由なく勤務先に連絡するなどの取立て行為が貸金業法で規制されています。個人間の貸し借りにこの規制が直接及ぶわけではありませんが、職場で借金の事実を伝えれば名誉毀損やプライバシー侵害が、繰り返し連絡すれば業務妨害が問題になり得ます。伝え方によっては恐喝と受け取られるおそれもあります。個人間の取立てがどこから違法になるかは、恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線をご覧ください。

 また、職場への連絡をきっかけに相手が弁護士を立て、こちらの行為を問題にして反論してくることもあります。勤務先の情報は、次に述べる裁判所の手続の中で使うものと考えておくのが安全です。

勤務先を調べる前に確認しておきたいこと

 勤務先が分かっても、請求の土台が固まっていなければ回収にはつながりません。調べる前に、次の3点を確認しておくことをおすすめします。

貸したことを示す記録があるか

 交際中のお金のやり取りは、後から「もらったものだ」と主張されることがあります。借用書がなくても、返済を約束するメッセージや振込の記録などから、貸したことを示せる場合があります。詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で解説しています。

時効が迫っていないか

 貸したお金を返してもらう権利は、原則として返済期限から5年で時効にかかるおそれがあります(民法166条1項)。勤務先を探すことに時間をかけている間に期限が過ぎてしまわないよう、注意が必要です。請求の種類ごとの期間は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。

住所や連絡先は分かっているか

 相手の住所や連絡先が分かっているのであれば、勤務先を調べる前に、まず書面で支払いを求めることができます。相手が話し合いに応じない場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法もあわせてご覧ください。

法的な手続の中で勤務先を明らかにする方法

 自分で調べなくても、手続の中で勤務先が明らかになる仕組みがあります。ただし、貸したお金の請求で使えるものと使えないものがあります。

方法使える段階貸したお金の請求での扱い
弁護士会照会弁護士に依頼した後弁護士会を通じて企業などに照会する。回答が得られない場合もある
財産開示手続判決や和解調書などを得た後相手を裁判所に呼び出し、勤務先を含む財産を明らかにさせる
第三者からの情報取得手続判決や和解調書などを得た後勤務先の情報を求められるのは養育費等や生命・身体の侵害による損害賠償に限られ、貸したお金では使えない


弁護士会照会

 弁護士が依頼を受けて、弁護士会を通じて企業や団体に情報の提供を求める制度です(弁護士法23条の2)。携帯電話番号などから相手の氏名や住所が判明することがありますが、照会先や照会の内容によっては回答が得られないこともあります。

財産開示手続

 判決や和解調書、強制執行を受け入れる旨の文言が入った公正証書など(債務名義)を得た後に申し立てる手続です。相手は財産目録を提出し、勤務先についても答えなければなりません。正当な理由なく出頭しない場合や嘘を述べた場合には、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります。

 もっとも、罰則があっても出頭しない相手はおり、この手続で必ず勤務先が分かるとは限りません。

第三者からの情報取得手続

 裁判所が市区町村などに対して、相手の勤務先の情報を提供するよう命じる手続です。ただし、勤務先の情報を求められるのは、養育費などの請求権や、生命・身体の侵害による損害賠償請求権を持つ人に限られています。交際中に貸したお金の返還請求では、この方法で勤務先を調べることはできません。

 一方、銀行などの預貯金の情報については、貸したお金の請求でもこの手続を利用できます。勤務先が分からない場合でも、預貯金の差押えという別の道が残っていることがあります。

探偵や調査会社に依頼する場合の注意点

 勤務先を調べるために、探偵や調査会社への依頼を考える方もいます。探偵業法では、調査の結果を違法な目的に使わないことを示す書面を依頼者から受け取ることが業者に求められ、違法な目的に使われると知ったときは調査をしてはならないとされています。

 調査の結果を使って職場に押しかけるなどすれば、依頼したご本人の責任が問われることになります。調査費用が回収できる金額に見合うかという問題もあるため、依頼する前に、判明した情報をどの手続でどう使うのかを弁護士と整理しておくと安心です。

弁護士に依頼するとできること

 弁護士に依頼すると、弁護士が窓口となって相手に支払いを求めるため、ご本人が元恋人と直接やり取りする必要がなくなります。相手の住所が分からない場合も、弁護士会照会や住民票の調査などで所在をたどれる場合があります。

 また、請求額や証拠の状況、相手の収入や財産の見込みを踏まえて、交渉、少額訴訟、通常の訴訟のどれを選ぶか、判決後にどの財産を差し押さえるかといった見通しを立てられます。勤務先を突き止めることにこだわらず、回収までの道筋全体を組み立てられる点に意味があります。

 当事務所の対応については、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご紹介しています。

よくあるご質問


以前聞いた勤務先に今も勤めているか分からない場合は?

 給料の差押えは、申し立てた時点で相手がその会社から給料を受け取っていなければ空振りに終わります。在籍しているかどうかをご自身で会社に問い合わせるのは避け、手続を進める中で確認する方法を弁護士と検討するのが無難です。

相手のSNSに勤務先が書いてあった場合、記録してもよい?

 本人が公開している情報を画面の保存などで記録しておくこと自体は、通常は問題になりません。ただし、その情報を職場への連絡や周囲への拡散に使うことは控えてください。

貸した金額が少ない場合でも、手続を使う意味はある?

 60万円以下の金銭の支払いを求める場合は、原則として1回の審理で終わる少額訴訟を利用できます。手続にかかる時間や費用と、回収できる見込みを比べたうえで判断することになります。

 元恋人に貸したお金を取り戻したいという気持ちは自然なものですが、勤務先を自分で突き止めようとして行動が行き過ぎると、かえって請求を進めにくくなることがあります。勤務先の情報は法的な手続の中で使うものと位置づけ、調べ方に迷った段階でご相談いただくことをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【男女トラブル】元恋人に貸したお金を返してもらう前に、相手の勤務先を調べてもいい?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼