交際相手が既婚とわかった後、どうすべきか|「続ける」「別れる」それぞれの法的リスク
配偶者の不貞が分かったとき、相手の名前や写真をSNSに投稿して周囲に知らせたい、という気持ちが生まれることがあります。同じような投稿は実際に数多く見られ、「事実なのだから書いても問題ないはずだ」という受け止め方も広がっています。
もっとも、不貞についての責任と、それを公表した行為についての責任は、別々に判断されます。相手に責任があることが、公表した側の行為をそのまま正当化するわけではありません。
この記事では、不貞の事実をSNSで公表するとどのようなことが起きるのかを、公表を考えている方の立場から整理します。投稿を消したときに何が残るのか、また公表された側が削除や発信者の特定を求める手続については、それぞれ別の記事で扱っています。
「公表する」と言っても伝わり方は同じではない
SNSでの公表は一つの行為ではありません。同じ内容でも、どの形で出したかによって、伝わる範囲も、後から問題になりやすい点も変わります。
| 公表の形 | 伝わり方 | 後から問題になりやすい点 |
|---|---|---|
| 公開のアカウントでの投稿 | フォローしていない人にも届き、検索や転載で範囲が広がる | 不特定多数が読める状態だったと評価されやすく、範囲を後から狭めにくい |
| 鍵アカウント・限定公開 | 承認した相手だけが読める形だが、そこから外に伝わることがある | 範囲が狭いことが、責任が生じないことを意味するわけではない |
| DMやグループでの個別の送信 | 特定の相手に向けて送る形 | 受け取った人から広がることがあり、送った相手との関係にも影響する |
| 名前を伏せた書き方 | 読む人によっては誰のことか分かる場合がある | 伏せたという形式だけで判断が決まるとは限らない |
この表で分けているのは、行為の悪さの度合いではありません。どこまで伝わるかを自分で決められる形かどうかという点です。SNSでの公表がほかの伝え方と違うのは、投稿した後の広がり方に自分の操作がほとんど届かないところにあります。
事実であっても責任が生じることがある
刑法230条1項は、公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合、その事実の有無にかかわらず名誉毀損罪が成立すると定めています。書いた内容が本当かどうかは、成立そのものを左右しません。
例外として、刑法230条の2は、公共の利害に関する事実にかかわり、専ら公益を図る目的で行われ、真実であることの証明があった場合には罰しないと定めています。ただ、私人の私生活上のできごとについて、この例外が認められる場面は限られます。政治家や公職にある人について報じられる場合と、身近な個人について書く場合とでは、前提が異なります。
表現の中身が事実の指摘というより評価や罵りに寄る場合には、侮辱罪(刑法231条)が問題になることもあります。
また、刑事の責任が問われない場合でも、民事は別に判断されます。名誉を傷つけたことやプライバシーを侵害したことを理由に、民法709条・710条に基づく損害賠償を求められることがあります。プライバシーの侵害については、内容が真実であることが問題を小さくするわけではなく、知られていない私生活上の事柄を公にしたという点が問われます。不貞は、その典型に近い性質を持っています。
名前を伏せても「誰のことか分かる人がいれば」問題になりうる
実名を出さなければ大丈夫だろう、と考えて投稿されることがあります。しかし、ここで見られているのは、世の中の誰もが分かるかどうかではありません。その投稿を読む人の中に、誰のことか分かる人がいるかどうかです。
イニシャル、伏せ字、顔の一部を隠した写真、勤務先の業種や地域、子どもの学校行事の話。一つ一つは個人を名指ししない情報でも、組み合わさることで読む人には分かることがあります。日常の投稿と同じアカウントから書いた場合には、過去の投稿と合わせて読まれます。
この点で注意しておきたいのは、範囲を狭めれば問題が小さくなるとは限らないということです。フォロワーが知人中心のアカウントほど、読む人にとっては誰のことか分かりやすく、その人の生活に近い場所へ伝わります。伝わる人数の多さと、伝わったときの影響の大きさは、同じ方向に動くとは限りません。
投稿は一度で終わらない
SNSでの公表がほかの伝え方と違うもう一つの点は、投稿した時点で行為が完結しないことです。
画面は保存され、転載され、引用されます。自分のアカウントから消しても、他の人の端末に残った画像や再投稿された内容は、自分の操作が届かない場所にあります。どこまで広がったかは、後に責任の重さを考えるときの材料にもなりますが、その広がり方を決めているのは自分ではありません。
なお、投稿を消すかどうか、消したときに何が残り何が失われるのかについては、別の記事で扱っています。ここでは、消すという選択肢があること自体は、公表前の判断を軽くする理由にならないという点だけを挙げておきます。
不貞の公表は「誰が書いたか」が伝わりやすい
ネット上の書き込みでは、誰が書いたのか分からないまま時間が経つことも珍しくありません。しかし不貞の公表は、その点で性質が異なります。
書かれている内容を知っている人は、もともと限られています。匿名のアカウントから投稿しても、書かれた側から見れば、書ける立場にある人はごく少数です。そのため、手続を経ることなく、本人あてに直接、削除や賠償を求める連絡が届くことがあります。
手続が進んだ場合には、通信を扱う会社の側から書面が届くこともありますが、その流れについては別の記事で扱っています。ここで押さえておきたいのは、匿名であることが、不貞の場面ではあまり働きにくいという点です。
自分の請求と、相手からの請求は別々に立つ
不貞を理由とする慰謝料の請求は、公表があったからといって消えるものではありません。一方で、公表について相手方から別に請求が立つことがあります。この二つは同じ話し合いの中で扱われることが多いものの、自動的に差し引きされる関係にはありません。相殺の可否については別の記事で扱っています。
交渉の場では、投稿の削除や、今後は公表しないという約束が条件として持ち出されることがあります。金額だけを話し合っていたはずが、条件の数が増えていきます。
また、公表によって相手が職場や周囲で不利益を受けた場合、その事情が慰謝料の金額を考えるうえで考慮されることがあります。当然に減額されるものではありませんが、こちらが望まない方向に働く材料が一つ増えることにはなります。
交渉の場で何が変わるのか
公表の影響は、金額の話にとどまりません。話し合いの形そのものが変わることがあります。
一つは、話の中心が移ることです。不貞があったかどうかを確かめる話し合いだったものが、双方の言い分をぶつけ合う話し合いに変わります。相手方が代理人を立てる契機になることもあります。
もう一つは、投稿そのものが資料として提出されることです。感情的な言葉づかい、金額についての書き込み、相手の家族に触れた記述は、そのまま読まれます。投稿の中で述べた事情、たとえば夫婦関係についての説明が、後になって相手方の主張を支える材料として引かれることもあります。書いたときの気持ちの強さは、読む側には伝わりません。
自分の判断で公表することと、手続の中で伝わることは違う
知ってほしい、放っておかれたくない、という気持ちが公表の動機になることがあります。ただ、相手に事実を突きつけるという意味では、法的な手続にも同じ働きがあります。
請求をすれば、相手方には請求者の氏名と主張の内容が伝わります。訴訟になれば、書面に経緯が記載されます。つまり「知られること」自体は、手続の中でも起こります。
違うのは範囲です。手続の中で伝わる相手は、その手続に関わる人に限られます。裁判の記録の閲覧については別の記事で扱っていますが、公表と手続の違いは、事実が伝わるかどうかではなく、伝わる範囲を決められるかどうかにあります。
すでに投稿してしまった場合に考えること
投稿した後に不安になり、どうすればよいか分からなくなることがあります。この段階でできることは残っています。
まず、投稿を重ねないことです。説明を加えるつもりの追加投稿が、内容を具体的にしてしまうことがあります。次に、いつどの内容を投稿したかを自分の側で把握しておくことです。相手方から連絡が来た場合に、何について言われているのかを確かめる出発点になります。
相手方から削除や賠償を求める連絡が届いたときに、その場で回答してしまわないことも一つです。求められている内容と、応じた場合に何が確定するのかを確かめてから返答する余地はあります。
整理しておきたいこと
- どのアカウントから、いつ、どのような内容を投稿したか。
- 公開の範囲はどう設定されていたか。
- 写真や画面の画像を載せたか、載せた場合はどこから入手したものか。
- 相手方から連絡が来ているか、その連絡はどの経路で届いたか。
- 不貞についての請求を、これから行う予定なのか、すでに始めているのか。
- 投稿を見て連絡してきた第三者がいるか。
控えたほうがよい対応
- 相手の勤務先名や住所が分かる形の情報を、投稿に付け加えること。
- 相手の家族や子どもに触れる書き方をすること。
- 連絡が来た後に、反論のつもりで新しい投稿を重ねること。
- 相手方から届いた書面の内容を、そのまま投稿すること。
- 第三者に依頼して、代わりに投稿や拡散をしてもらうこと。
自分についての投稿を見つけた場合
立場が逆で、自分の不貞について投稿されているのを見つけることもあります。この場合も、不貞についての責任と、公表についての責任は別に判断されます。不貞の事実があることが、投稿された内容をそのまま受け入れなければならない理由にはなりません。
ただし、こちらから反論の投稿をすると、争いの形が変わり、双方が請求を受ける状態になりやすくなります。投稿の内容と範囲を記録したうえで、対応の順序を考えることになります。
よくあるご質問
事実だけを書けば問題にならないのでしょうか
名誉毀損については、内容が真実かどうかは成立そのものを左右しないと定められています。プライバシーの侵害についても、真実であることが理由で問題が小さくなるわけではありません。事実に絞って書くことは、投稿の内容を落ち着かせる意味はありますが、責任の有無を分ける線ではありません。
鍵アカウントなら公表したことにならないのでしょうか
読める人が限られている状態であっても、そこから内容が広がることがあります。また、公然性が認められない場合でも、プライバシーの侵害として民事上の責任が問われることはあります。範囲の狭さは、判断の一要素にとどまります。
相手の家族や職場に個別に伝えるのは違うのでしょうか
伝える相手と方法によって考え方が変わるため、勤務先への連絡や相手の家族への連絡については、それぞれ別の記事で扱っています。いずれの場合も、伝えること自体が請求を有利にするとは限らない点は共通しています。
まとめ
- 不貞についての責任と、公表した行為についての責任は別に判断される。
- 名誉毀損は、書いた内容が真実であっても成立しうると定められている。
- 私人の私生活上のできごとについて、公共の利害に関する事実として扱われる場面は限られる。
- 名前を伏せても、読む人の中に誰のことか分かる人がいれば問題になりうる。
- 投稿は保存や転載によって、自分の操作が届かない場所に残る。
- 不貞の公表は、匿名であっても書いた人が絞られやすい。
- 公表は、慰謝料の話し合いに条件と争点を増やす方向に働くことがある。
- 「知られること」は手続の中でも起きるが、伝わる範囲は限定される。
ご相談について
不貞が分かった直後は、気持ちの整理がつかないまま判断を迫られる場面が続きます。公表するかどうかもその一つで、後から取り戻しにくい選択でもあります。
当事務所では、不貞に関するご相談を承っています。すでに投稿してしまった場合や、自分についての投稿を見つけた場合も含め、状況を伺ったうえで対応の順序を整理します。まずはお気軽にお問い合わせください。


