【不貞慰謝料】弁護士費用は相手に払わせられるのか
この記事は、2026年10月時点の民法の規定をもとに、交際中に恋人の引越し費用や家具代を負担した場合の一般的な考え方をまとめたものです。実際に請求できるかどうかは、お金を出した経緯や残っている記録によって変わります。
交際相手の引越しにあたって業者への支払いや部屋の初期費用を出した、新しい部屋の家具や家電を買いそろえた。ところが、その後まもなく別れることになり、「あのお金は返してもらえるのだろうか」と悩む方は少なくありません。弁護士ドットコムの相談欄にも、同棲を始めて間もなく関係が終わり、引越しや家具にかかった費用の扱いをめぐって話がこじれたという相談が寄せられています。
先に結論をお伝えすると、別れたという理由だけで出したお金の返還を求めるのは、法律上は難しいことが多いのが実情です。ただし、お金を出したときの約束の内容や、家具が今どこにあり誰の物といえるのかによっては、返金や返還を求められる場面もあります。この記事では、その分かれ目と、請求を考えるときの進め方を整理します。
こんなお悩みはありませんか
- 恋人の引越し業者代や敷金・礼金を自分が払った。
- 新居の家具や家電を自分のカードで買いそろえた。
- 同棲を始めて数か月で別れることになり、出したお金が無駄になった気がする。
- 「あげたつもりはない」と伝えたら、「プレゼントだと思っていた」と言われた。
- 別れた相手が、自分が買った家具を使い続けている。
原則は「贈与」と見られやすく、別れただけでは返金を求めにくい
交際中に相手のために引越し費用や家具代を出した場合、多くのケースでは法律上「贈与」、つまり見返りを求めずに財産を渡したものと評価されます。贈与は、一方が無償で財産を与える意思を示し、相手がそれを受け入れることで成立し、契約書がなくても口頭のやり取りで成り立ちます(民法549条)。
書面によらない贈与は各当事者が解除できるとされていますが、すでに渡し終えた部分(履行の終わった部分)は解除できません(民法550条)。引越し業者への支払いが済んでいる、家具がすでに相手の部屋に届いている、といった状態であれば、贈与としては履行が終わっていると見られやすく、後から「別れたから返してほしい」と撤回するのは難しくなります。
また、交際が終わったこと自体は、それだけで相手の落ち度になるわけではありません。交際は互いの自由な意思で続けるものであり、別れを告げることも基本的には自由だからです。「別れを切り出したのは相手なのだから、出したお金を返すべきだ」という気持ちは自然なものですが、法的な根拠としては弱くなりがちです。交際中に動いたお金の返還をめぐる全体の考え方は、別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いでも解説しています。
請求できる可能性があるのはどんな場合か
原則は上記のとおりですが、次のような事情がある場合には、返金や返還を求められる余地があります。いずれも、その事情を裏付ける記録が残っているかどうかが大きな分かれ目になります。
「貸す」という約束があった場合
引越し費用を「立て替えておくから、落ち着いたら返して」と伝え、相手も了解していたのであれば、贈与ではなく金銭の貸し借り(消費貸借、民法587条)として返済を求められる可能性があります。借用書がなくても、返済の時期や方法に触れたLINEのやり取りや、相手が一部を返していた振込記録などが、貸し借りだったことを示す材料になります。反対に、こうした記録がなく振込の事実だけが残っている場合には、贈与との区別が争いになりやすい点に注意が必要です。詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?もご覧ください。
家具が自分の物として残っている場合
家具や家電については、「お金を返してもらう」のではなく「物を返してもらう」という整理ができる場合があります。たとえば、二人で暮らす部屋に置くために自分の名前で購入し、自分も使っていた家具は、相手に贈ったのではなく、自分の所有物を共同生活の場に置いていただけと考える余地があります。その場合は、所有者として引渡しを求めることになります。購入時の名義や配送先、誰が主に使っていたか、交際中にその家具について「あげる」というやり取りがあったかどうかが判断の材料になります。二人でお金を出し合って買ったものの分け方は、【男女トラブル】同棲を解消するとき、家具・家電はどう分けるのか|共同で買ったものの扱いで取り上げています。
「別れたら精算する」という取り決めがあった場合
同棲を始めるときなどに、「関係が終わったら家具代は精算する」「引越し費用は別れを切り出した側が負担する」といった取り決めをしていたのであれば、その約束に基づいて請求できる可能性があります。ただし、口約束だけでは、相手に「そんな約束はしていない」と言われると立証が難しくなります。当時のメッセージなど、約束の内容がわかる記録を探しておくことが大切です。
婚約や内縁関係が成立していた場合
結婚の約束が成立していた(婚約)、あるいは夫婦同然の共同生活を送っていた(内縁)と認められる関係で、相手が正当な理由なく一方的に関係を解消した場合には、不当な破棄による損害の賠償を求める中で、新生活の準備にかかった費用が損害として考慮されることがあります。もっとも、婚約が成立していたかどうかは、両親へのあいさつ、指輪の授受、式場の予約などの客観的な事情から判断されるため、「いずれ結婚しようと話していた」程度では認められないことも少なくありません。婚約の解消をめぐる考え方は婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケース、結婚を前提に渡したお金については結婚を前提に渡したお金・結納金は返還請求できるかで解説しています。
だまされてお金を出していた場合
交際相手が既婚であることを隠していた、はじめから費用を出させることが目的だったとうかがえる事情がある、といった場合には、詐欺を理由に贈与の意思表示を取り消す(民法96条)、あるいは不法行為として損害の賠償を求めるといった道が考えられます。ただし、だますつもりだったことの立証は容易ではなく、交際の経過や相手の説明の内容を丁寧に積み上げる必要があります。
状況別の見通しの目安
| お金を出した状況 | 主な法的な整理 | 見通しの目安 |
|---|---|---|
| 好意で出し、返済の話は一度もしていない | 履行済みの贈与 | 返金を求めるのは難しいことが多い |
| 「立て替え」「貸す」と伝え、相手も了解していた | 金銭の貸し借り | 記録があれば返済を求められる可能性がある |
| 自分名義で買い、自分も使っていた家具が相手の部屋にある | 自分の所有物の返還 | 物の引渡しを求められる可能性がある |
| 「別れたら精算する」と取り決めていた | 当事者間の合意 | 約束の内容を示す記録があれば請求の根拠になりうる |
| 婚約・内縁が成立し、相手が一方的に解消した | 不当破棄による損害賠償 | 準備費用が損害として考慮されることがある |
| 既婚であることの隠ぺいなど、だまされて出していた | 詐欺取消し・不法行為 | 立証できれば返還や賠償を求める余地がある |
表はあくまで目安です。実際には一つの事案に複数の事情が重なっていることが多く、どの整理で主張するのが現実的かは、残っている記録を見ながら判断することになります。
請求を考える前に整理しておきたい記録
- 引越し業者や不動産会社への支払いの領収書・振込記録。
- 家具・家電の購入履歴(購入者の名義、支払方法、配送先がわかるもの)。
- 費用の負担や返済について触れたLINEやメールのやり取り。
- 相手が一部を返していた場合の入金記録。
- 婚約や同居の実態を示す記録(両親へのあいさつ、住民票、家計の管理状況など)。
- 出した費用の日付・金額・内容をまとめた一覧表。
記録を集めたら、出したお金を「贈与と言われてもやむをえないもの」と「貸し借りや自分の物と言えるもの」に分けてみると、請求の筋道が見えやすくなります。すべてを一括して請求しようとすると、根拠の弱い項目に引きずられて話し合いがこじれることもあるため、見通しのある項目に絞るという考え方もあります。
請求するときの進め方と注意点
- 記録をもとに、請求する項目と金額、その根拠を整理します。
- 相手に対し、項目と金額を示して返済や返還を求めます。口頭ではなく、メッセージや書面で残る形にします。
- 話し合いがまとまれば、支払方法と期日、清算条項を入れた合意書を作ります。
- 応じてもらえない場合は、内容証明郵便による請求や、少額訴訟・通常訴訟などの法的手続を検討します。
請求の連絡をするときは、回数や時間帯、言葉づかいに気を配ることが大切です。正当な金銭の清算であっても、返事がないからといって繰り返し連絡したり、相手の自宅や職場を訪ねたりすると、つきまといと受け取られるおそれがあります。この点は【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で詳しく取り上げています。
請求額が60万円以下であれば、原則として1回の期日で審理を終える少額訴訟を利用できます(民事訴訟法368条)。また、貸したお金の返済を求める権利は、権利を行使できることを知った時から5年で時効にかかることがあります(民法166条1項)。時間が経つほど記録も散逸しやすくなるため、請求を考えているのであれば早めに動くことが望ましいといえます。時効については男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかにまとめています。
よくあるご質問
同棲を言い出したのは相手なのに、負担した引越し費用は返ってこないのですか
どちらが同棲を言い出したかは、それだけでは返還の根拠にはなりにくいのが一般的です。ただし、相手から「費用はあとで半分出す」と言われていたなど、負担の分け方について約束があった場合には、その約束に基づいて請求できる可能性があります。
反対に、相手から自分の引越し費用を払うよう求められています
別れることになったからといって、相手の新しい部屋の費用や引越し代を負担する法律上の義務が当然に生じるわけではありません。根拠となる約束や、婚約の不当破棄・暴力などの事情がなければ、支払いに応じる必要がないことも多いと考えられます。過去に「出してあげる」と口頭で伝えていた場合でも、まだ支払っていない分については、書面によらない贈与として解除できる場合があります(民法550条)。
相手が、自分の買った家具を勝手に売ってしまいました
その家具が自分の所有物だったといえる場合には、売却によって失われた価値に相当する金額の支払いを求められる可能性があります。詳しくは【男女トラブル】同棲中に相手が勝手に家具や家電を売ったをご覧ください。
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まとめ
恋人の引越し費用や家具代は、交際中の好意として出したものと見られやすく、別れたことだけを理由に返してもらうのは難しいことが多いのが実情です。一方で、「貸す」という約束、自分の物として残っている家具、別れたときの取り決め、婚約の成立やだまされていた事情などがあれば、返金や返還を求める道が残っている場合があります。
どの道筋が現実的かは、残っている記録によって大きく変わります。相手と直接やり取りするのが難しい場合や、請求の伝え方に迷う場合には、弁護士が窓口となって交渉を進めることもできます。当事務所の対応については、【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応をご覧ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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