【不貞慰謝料】相手の収入や資産は慰謝料額に影響するのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者の不貞が分かったとき、あるいは慰謝料を請求されたとき、相手の収入や資産が気になるのは自然なことです。「相手は高収入だから多く取れるのではないか」「自分は収入が少ないのだから減らしてもらえるのではないか」。どちらも、ご相談の場でよく出てくるお話です。

 ところが調べてみると、「収入は関係ない」と書かれたページと「収入によって変わる」と書かれたページが、どちらも弁護士の解説として並んでいます。この記事では、なぜそうなるのかを分解したうえで、収入や資産という事実が実際にはどの場面でどう働くのかを整理します。金額そのものの組み立て方や、増額・減額に働く事情の一覧については、それぞれ別の記事で扱っています。

答えが割れるのは、質問がひとつではないから

 「相手の収入は慰謝料額に影響するのか」という問いは、一見するとひとつの質問に見えます。しかし実際には、少なくとも3つの別々の質問が混ざっています。混ざったまま答えようとするので、解説する側の答えも割れます。

分かれ目質問の中身答えの傾向
誰に対する請求か不貞相手への請求か、配偶者への請求か扱いは同じではない
どこで決まる話か裁判所が判断する場面か、話し合いで決める場面か同じ事実でも効き方が違う
何についての話か金額を決める話か、決まった額を受け取る話か後者では現実に強く効く


 この3つを分けてしまえば、「影響する」と「影響しない」は矛盾しません。どの場面の話をしているかが違うだけです。以下、順番に見ていきます。

まず、「誰の」収入や資産かを確かめる

 収入や資産といっても、登場人物はひとりではありません。それぞれ意味合いが異なります。

誰の収入・資産か主に問題になる場面押さえておきたい点
不貞相手不貞相手への慰謝料請求裁判所の算定では中心的な材料になりにくい
不貞をした配偶者離婚を伴う場合の配偶者への請求生活の変化や離婚後の事情と結びつきやすい
請求する側離婚後の生活設計、支払方法の設計金額の根拠というより、条件の組み立てに関わる


 同じ「収入」という言葉でも、誰のものかで検討する筋道が変わります。ご相談の際も、まずここを分けてお聞きすることの多い部分です。

裁判所が金額を決める場面では、収入そのものは中心にならない

 不貞行為に基づく慰謝料は、民法709条・710条の不法行為による損害賠償の一種です。もっとも、これらの条文には金額の算定方法も、考慮すべき要素の一覧も書かれていません。裁判所が個別の事情を総合して判断することになります。

考え方の出発点

 慰謝料は、精神的な苦痛を金銭に置き換えて埋め合わせるためのものと理解されています。相手に責任があることへの制裁として支払わせる性質の金銭ではない、という整理です。

 この整理からすると、相手の収入が多いからといって、受けた苦痛がその分だけ大きくなるという関係にはありません。相手が資産家であっても、経済的に苦しい立場であっても、侵害された婚姻共同生活の平穏そのものは変わらない、という見方です。「資産や社会的地位が高いのだから多く払うべきだ」という考え方が示されることもありますが、近年の裁判例では、この種の事情を算定に取り込まない扱いも珍しくないと指摘されています。

ただし、そのお金が「どう動いたか」は別

 中心的な材料になりにくいのは、収入や資産という数字そのものです。そのお金が具体的にどう動き、夫婦の生活に何をもたらしたかは、別の話として評価される余地があります。

着目される事実なぜ意味を持つのか
夫婦の家計から相手方に金銭が流れていた家庭の経済的な基盤そのものが損なわれている
不貞相手のために借入れがされ、それを他方が負担した不貞と結びついた具体的な損失が生じている
経済的な立場の差を背景に関係が続いていた関係の作られ方や責任の重さの評価に関わる
離婚に至り、生活の基盤が大きく変わった婚姻共同生活が失われた影響の大きさに関わる


 こうして並べると、効いているのは「収入の額」ではなく、そのお金が家庭に対してどう作用したかだと分かります。「相手は高収入だ」という主張が通りにくく、「家計からこれだけの金銭が流出していた」という主張が届きやすいのは、この違いによるものです。

法律が収入を考慮すると書いている制度と、書いていない制度

 混乱しやすいのは、離婚にまつわるお金のなかに、収入が明文で考慮要素とされている制度があるためです。

 たとえば財産分与について、民法768条3項は、令和8年4月1日に施行された改正によって考慮要素が具体的に示され、そのなかに「各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入」が明記されました。子の養育に要する費用も、当事者の収入を基礎に算定するのが実務の考え方です。

 これに対して、慰謝料の根拠である709条・710条には、そうした要素の定めがありません。同じ離婚の話し合いの席に並ぶお金でも、収入の位置づけは制度ごとに違います。「離婚では収入が考慮されると聞いた」という理解が、そのまま慰謝料にも当てはまるとは限らない、ということです。なお、財産分与そのものの考え方は本稿の範囲を超えますので、必要な場合は個別にご相談ください。

話し合いの場面では、現実に金額が動く

 ここまでは裁判所が判断する場面の話です。当事者どうしの話し合いや示談交渉では、事情が変わります。合意さえできれば金額は自由に決められるため、支払える見込みがどの程度あるかは、事実上の制約として働きます

  • 支払能力に余裕があると、分割回数を短くしたり、早期の一括払いで話をまとめたりしやすくなります。
  • 支払える見込みが乏しいと、金額を抑えてでも無理なく履行できる形に調整されることがあります。
  • 周囲に知られたくないという事情が強いと、口外しない旨の取決めなどと引き換えに条件が動くことがあります。
  • 交渉が長引くほど双方の負担が増えるため、早期に区切りをつけること自体が条件の一部になることもあります。


 ただし、ここで動いているのは「相場」ではなく「合意できる着地点」です。相手に資力があるという理由だけで、裁判所の判断の目安が引き上がるわけではありません。そして「収入が低いので払えない」という説明も、支払義務そのものを消すものではなく、支払い方の相談として受け止められるのが通常です。

相手の収入や資産は、そもそもどこまで分かるのか

 見落とされやすいのが、この点です。話し合いの段階では、相手の収入や資産を確かめる手立ては限られています。給与明細や課税証明書を相手が自ら提出するかどうかは、基本的に相手の判断に委ねられます。

 そのため実際の交渉では、勤務先の業種や生活の様子といった断片的な情報から見当をつけながら進めることが少なくありません。相手が「支払えない」と述べたとしても、それを確かめる手段がその場にあるとは限らないわけです。逆に、請求する側が相手の収入を高く見積もって金額を組み立てると、根拠を示せないまま主張だけが大きくなり、交渉が停滞することもあります。

 資産の状況を調べる制度自体は、判決や公正証書といった裏づけを得たあとの段階に用意されています。回収の見通しについては、別の記事で詳しく扱っています。

収入の話を持ち出すと、何が起きやすいか

 収入や資産に触れること自体は問題ではありませんが、伝え方によっては話が進みにくくなることがあります。

立場起きやすいこと考えられる備え
請求する側「稼いでいるのだから多く払え」と受け取られ、法律上の根拠を欠く要求と見なされる家計からの流出など、具体的な事実に置き換えて伝える
請求する側高額を前提に交渉を始めた結果、着地点が見えにくくなる裁判所の判断の目安を確かめてから金額を設計する
請求された側「収入が少ない」と述べたことで、裏づけ資料の提出を求められるどこまで開示するかを決めたうえで説明する
請求された側支払能力を理由に減額を求めたが、義務の有無の話と混同される責任の重さの話と、支払い方の話を分けて伝える


 収入や資産の話は、責任の重さの話ではなく支払い方の話として持ち出すほうが噛み合いやすいという点は、どちらの立場でも共通しています。

金額よりも、支払い方に強く表れる

 収入や資産が最も分かりやすく反映されるのは、金額そのものよりも、支払いをどう組み立てるかという部分です。

  • 一括払いにするか分割にするか。分割であれば回数と1回あたりの額をどうするか。
  • 初回にまとまった額を入れてもらうかどうか。
  • 支払いが滞ったときの取扱いを、あらかじめ書面に定めておくかどうか。
  • 書面を公正証書の形にしておくかどうか。
  • 金銭以外の条件、たとえば今後接触しない旨の取決めを、どの程度重く見るか。


 長期の分割は、途中で状況が変わる余地を抱えます。条項の具体的な設計については、示談書の作り方を扱った記事をあわせてご覧ください。

決まった額と、実際に受け取れる額は別

 金額の話と回収の話は、分けて考える必要があります。支払能力がないことは、慰謝料を請求する権利そのものを消すものではありません。一方で、判決や合意で金額が決まっても、相手に支払う原資がなければ、手元に届くまでに時間を要します。

 その意味では、相手の収入や資産が最も強く影響するのは、金額を決める場面ではなく、決まったあとの場面だといえます。回収の見通しと分割の現実については、別の記事で扱っています。

よくあるご質問


相手が資産家であれば、高い金額が認められやすくなりますか

 裁判所の判断という意味では、資産があること自体を理由に金額が上がるとは考えにくい面があります。ただし、話し合いで相手が納得すれば、その金額で合意すること自体が妨げられるわけではありません。両者は別の話として整理しておくと、見通しを立てやすくなります。

相手が無職や学生の場合、請求しても意味がないのでしょうか

 請求する権利は、相手の職業や収入とは切り離して発生します。実際に受け取れるかどうかは別の検討になりますが、分割や支払時期の設計、金銭以外の条件を含めた解決など、選択肢がなくなるわけではありません。

自分の収入が少ないことを伝えれば、減額してもらえますか

 支払能力は、話し合いのなかで支払い方を決める際の事情として考慮される余地があります。ただし、それだけで義務の有無や責任の重さが変わるわけではありません。伝える範囲や時期も含めて、あらかじめ組み立てておくことをおすすめします。

まとめ


  1. 「相手の収入や資産は影響するか」という問いは、誰への請求か、どこで決まる話か、金額の話か回収の話かによって答えが分かれます。
  2. 裁判所が判断する場面では、収入や資産の数字そのものは中心的な材料になりにくいと考えられています。
  3. 一方で、家計からの金銭の流出など、そのお金が家庭にもたらした影響は、評価の対象になる余地があります。
  4. 財産分与などには収入が明文の考慮要素として置かれていますが、慰謝料の条文に同様の定めはありません。
  5. 話し合いの場面では、支払える見込みが事実上の制約として働き、金額や条件が動くことがあります。
  6. 交渉の段階では相手の収入や資産を確かめる手立てが限られており、その前提で組み立てる必要があります。
  7. 収入の話は、責任の重さではなく支払い方の文脈で持ち出すほうが、話が噛み合いやすくなります。


 弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞慰謝料に関するご相談を、請求する立場の方からも、請求を受けた立場の方からも承っています。相手の収入や資産をどう扱うかは、金額の設計だけでなく、支払い方や書面の作り方にも関わる部分です。お一人で判断される前に、一度ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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