「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方
この記事は、風俗店などで働くキャストの方が、客から「訴える」と言われた場面を想定しています。2026年10月時点の法令をもとにした一般的な解説であり、個別の事案での結論は事情によって異なります。
客から「今まで払ったお金を返せ」「詐欺で訴える」と言われ、店に相談したのに「お客さんとの個人的なことには関われない」と返されてしまった。そうした相談は、キャストの方から少なからず寄せられます。店に味方してもらえないと、一人で相手と向き合うしかないように感じるかもしれません。
ただ、「訴える」という言葉が出たからといって、すぐに裁判で負けたり、お金を払わなければならなくなったりするわけではありません。この記事では、客の言い分をどう整理するか、店に何を求められて何を求めにくいのか、店が動かないときに自分で備えておけることを順に解説します。
「訴える」と言われた段階で起きていること
「訴える」という言葉は、実際に裁判を起こすという意味で使われることもあれば、要求に応じさせるための言い回しとして使われることもあります。民事の裁判を起こすには、請求の内容と根拠を書いた訴状を裁判所に出す必要があり、裁判が始まれば、訴状は裁判所から郵便で届きます。客からのLINEや電話で「訴える」と言われただけの段階では、まだ手続は何も始まっていないのが通常です。
また、裁判を起こすことは誰にでも認められた権利なので、「訴える」と伝えること自体が、直ちに違法になるわけではありません。一方で、「払わないなら家族や職場に風俗の仕事をばらす」など、権利の行使とは関係のない不利益をちらつかせて支払いを迫る場合には、脅迫や恐喝にあたる可能性が出てきます。この線引きは「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線で詳しく解説しています。
客の言い分は大きく4つに分けられる
客が「訴える」と言うときの言い分は、おおむね次のように分けられます。どれにあたるかによって、確認しておきたいことが変わります。
| 客の言い分 | 争点になりやすいこと | 手元で確認したいこと |
|---|---|---|
| 渡したお金やプレゼントを返せ | 贈与だったのか、貸したお金だったのか | 借用書の有無、「返さなくていい」といったやり取り |
| だまされたので詐欺だ | 具体的な嘘を告げてお金を受け取ったか | お金を受け取った理由として伝えた内容 |
| 恋愛感情を傷つけられた慰謝料を払え | 法的に保護される利益が侵害されたか | 交際や結婚の約束をしていたかどうか |
| 店での接客中のことで損害を受けた | 実際に何が起きたか、店の責任との関係 | 当日の予約記録、店への報告内容 |
渡したお金の返還を求められた場合は、それが贈与だったのか貸し借りだったのかが中心になります。客が自分から「生活の足しに」と渡したお金や、プレゼントとして受け取った物は、贈与と評価されることが多いと考えられます。書面によらない贈与でも、すでに渡し終えた分は後から撤回できないのが原則です(民法550条)。反対に、借用書を書いた、返済の時期を約束したといった事情があれば、貸し借りとみられる可能性が高まります。贈与と対価の切り分けについては【風俗トラブル】キャストに贈った金品|贈与と対価の切り分けが争点になる理由も参考になります。
「詐欺だ」と言われた場合、接客の中で好意を伝えていたことだけで、詐欺と評価されることは多くありません。ただし、実際にはない病気や借金を理由にしてお金を受け取ったなど、具体的な嘘が支払いの理由になっていた場合は、返還を求められたり、刑事事件として扱われたりするおそれがあります。この境目はキャストに金銭をだまし取られた|疑似恋愛と詐欺の境界で扱っています。
恋愛感情を裏切られたこと自体を理由とする慰謝料は、交際や結婚の約束がない限り、認められにくい傾向があります。とはいえ、請求が認められにくいことと、相手が裁判を起こさないことは別の話なので、実際に書面が届いた場合には、きちんと向き合う必要があります。
店が「守ってくれない」のには理由がある場合も
店に相談しても動いてもらえないと、見放されたように感じるかもしれません。ただ、店が関わりにくいのには、いくつかの理由があります。
店外のやり取りに、店は当事者として関わっていない
個人の連絡先でのやり取りや、店の外でのお金の受け渡しは、店のサービスとは別の、キャストと客の個人間の関係として扱われることが多くなります。キャストと業務委託の形で契約している店も多く、店外の私的な関係にまで店が責任を負う立場にはない、と考えるのが一般的です。
店が代わりに交渉すると、法律上の問題が生じる
弁護士でない人が報酬を得る目的で、他人の法律上の争いについて代理で交渉することは、弁護士法72条で禁じられています(非弁行為)。店がキャストに代わって客と金額を交渉したり、示談金を受け取ったりすることは、この規制に触れるおそれがあります。2026年2月には、風俗店の店長らが客と示談交渉をしたとして、弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。詳しくは店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点をご覧ください。
それでも店に求められることはある
店が交渉の窓口になれないとしても、店が持っている情報や、店の中でできる対応はあります。たとえば、次のような協力を求めることが考えられます。
- その客の予約を受け付けないようにしてもらうこと。
- 店の周辺での待ち伏せが続く場合に、出勤や退勤の時間に配慮してもらうこと。
- 予約履歴や店内でのやり取りの記録を消さずに残しておいてもらうこと。
- 客に本名や住所などの個人情報を伝えないよう、改めて確認しておくこと。
店内での接客中に起きた出来事が問題にされている場合は、店も無関係とはいえません。その場合は、当日の状況を店がどう把握しているかを確認し、店の認識と自分の認識にずれがないかを見ておくことが大切です。
店が動かないときに自分でしておきたいこと
店の協力が得られない場合でも、自分の側で整えておけることがあります。
- 客とのLINEやメッセージは削除せず、画面の保存もしておきます。
- 受け取ったお金やプレゼントについて、時期・金額・渡されたときの言葉を書き出しておきます。
- 相手からの連絡には、その場の感情で返信しないようにします。
- 一人で会って話し合うことや、その場で借用書や念書に署名することは控えます。
- 本名や住所、家族の連絡先など、相手がまだ知らない情報は伝えないようにします。
「家族にばらす」「店の前で待っている」といった言葉が続く場合や、実際に待ち伏せをされている場合は、お金の問題とは切り分けて、警察への相談を検討してください。緊急でなければ警察相談専用電話(#9110)、身の危険を感じるときは110番という使い分けが目安になります。客からのつきまといへの対応は客からの脅し・つきまとい|キャバクラ・ガールズバー勤務者の被害でも解説しています。
書面が届いたときの見分け方
客の主張が書面で届くこともあります。書面の種類によって、急いで対応すべき度合いが変わります。
| 届いた書面 | どういうものか | 対応の目安 |
|---|---|---|
| 内容証明郵便 | 送った内容と日付を郵便局が証明する手紙 | それ自体に強制力はないが、内容を確認して返答の方針を決める |
| 訴状(裁判所から届く) | 民事裁判が始まったことを知らせるもの | 期限までに答弁書を出す。放置すると相手の言い分どおりの判決が出るおそれがある |
| 支払督促(裁判所から届く) | 裁判所を通じた支払いの督促 | 受け取ってから2週間以内に督促異議を出さないと、強制執行に進むおそれがある |
裁判所からの書面は、無視すると不利になりやすいため、届いた時点で早めに専門家へ相談することをおすすめします。なお、民事裁判では訴状に当事者の住所を書くのが原則ですが、住所などを知られることで社会生活に著しい支障が生じるおそれがある場合には、相手に秘匿するよう裁判所に申し立てる制度もあります(民事訴訟法133条)。使えるかどうかは事情によるため、心配な方はあわせてご相談ください。
弁護士に依頼した場合にできること
弁護士が代理人になると、客からの連絡の窓口を弁護士に移すことができます。受任通知で、今後は本人ではなく弁護士に連絡するよう求めることで、直接の連絡が止まることもあります。
あわせて、客の言い分が贈与・貸し借り・慰謝料のどれにあたるのかを整理し、返す必要のあるお金があるのか、あるとしてどの範囲かを見極めます。返す必要がないと考えられる場合はその理由を書面で伝え、一部を返して関係を終えるほうが望ましい事情があれば、接触しないことや個人情報を広めないことを盛り込んだ合意書を交わす方法もあります。客から交際を迫られた事案で、受任通知により接触が止まった例として【解決事例】客から交際を迫られ、断ると内定先に知らせると告げられた|受任通知で接触が止まった事例もご覧ください。
よくあるご質問
店を辞めれば、請求されなくなりますか
店を辞めても、客との間のお金の問題がなくなるわけではありません。ただ、店を辞めることで、店を通じて居場所を知られたり、待ち伏せされたりするおそれは減らせる場合があります。辞めるかどうかは、安全面と生活面の両方を考えて決めることをおすすめします。
源氏名しか知られていなくても、訴えられることはありますか
裁判を起こすには、原則として相手の氏名と住所を訴状に書く必要があるため、源氏名や連絡先しか分からない段階では、すぐに裁判を起こすのは難しいことが多いと考えられます。ただし、弁護士を通じた照会などで本名や住所が調べられる可能性もあります。相手に知られていない情報は、自分から伝えないようにしておくことが大切です。
店が客に私の本名を伝えてしまったら、どうすればよいですか
店が本人の同意なく本名や住所を客に伝えることは、個人情報保護法との関係で問題になりうるほか、プライバシーの侵害として店の責任が問われる可能性もあります。何がどこまで伝わったのかを店に確認したうえで、今後の安全確保とあわせてご相談ください。
「詐欺で警察に行く」と言われました。逮捕されるのでしょうか
客が警察に相談したとしても、それだけで逮捕されるわけではありません。警察は、相談の内容や証拠をもとに、事件として扱うかどうかを判断します。お金を受け取った理由として伝えた内容に事実と違う部分があり、不安を感じている場合は、警察から連絡が来る前の段階で弁護士に相談しておくと、対応の見通しを立てやすくなります。
まとめ
客から「訴える」と言われ、店にも頼れない状況では、焦って相手の求めに応じたくなるかもしれません。まずは言い分の中身と手元の記録を整理し、本当に応じる必要があるのかを確かめるところから始めてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


