職務質問で所持品検査を求められた|任意と強制の境界
取調べを受けることになったとき、その様子が録音・録画されているのかどうかは、多くの方が気にされる点です。「取調べの可視化」という言葉を目にする機会が増えたこともあり、今はすべての取調べが記録されていると考えている方も少なくありません。
実際には、録音・録画が一律に行われているわけではありません。法律で義務づけられているもの、規則で努力義務とされているもの、捜査機関の判断で行われているものという三つの層に分かれており、どの層に当たるかによって記録が残る可能性は大きく変わります。
この記事では、取調べの録音・録画がどこまで行われているのかを、条文と公表資料に沿って整理します。ご自身の事件で記録が残るのかどうかを見当づけるための材料としてお読みください。
録音・録画には三つの層がある
| 層 | 主な根拠 | 主な対象 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 法律上の義務 | 刑事訴訟法301条の2 | 一定の重い罪に係る事件で、逮捕・勾留されている被疑者の取調べ | 例外に当たらない限り実施する |
| 規則上の努力義務 | 犯罪捜査規範182条の3第2項 | 逮捕・勾留されている被疑者が精神に障害を有する場合 | 必要に応じて実施するよう努める |
| 運用上の判断 | 警察庁の通達や検察の運用 | 上記以外の事件 | 必要性が弊害を上回ると判断されるときに実施できる |
三つの層は、下に行くほど実施される件数が少なくなります。そして、記録が残るかどうかは罪名だけで決まるわけではなく、身柄が拘束されているか、取調べがどの事件について行われているか、警察と検察のどちらの取調べかによっても変わります。以下、層ごとに順に見ていきます。
法律で義務づけられているのはどの事件か
取調べの録音・録画を義務づける規定は、刑事訴訟法301条の2です。平成28年の法改正で新設され、令和元年6月1日から施行されています。
対象となるのは三つの類型
同条が対象としているのは、次の三つです。
- 死刑または無期の拘禁刑に当たる罪に係る事件
- 短期1年以上の拘禁刑に当たる罪であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件
- 司法警察員が送致し、または送付した事件以外の事件(いわゆる検察官独自捜査事件)
1と2は、裁判員裁判の対象となる事件と重なります。殺人、強盗致死傷、現住建造物等放火、傷害致死などが典型です。3は、警察から送られてきたのではなく、検察官が自ら立件した事件を指します。
逮捕・勾留されている被疑者に限られる
見落とされやすいのですが、義務の対象は取調べ一般ではありません。条文は、逮捕または勾留されている被疑者の取調べに限っています。したがって、対象事件に当たる罪名であっても、在宅のまま呼び出しを受けて受ける取調べは、法律上の義務の対象外です。また、被害者や目撃者など被疑者以外の方の取調べも、この規定の対象ではありません。
検察官独自捜査事件は警察の義務ではない
3の類型は「送致された事件以外」と定義されているため、警察官が行う取調べには当てはまりません。警察に義務が生じるのは1と2の類型についてであり、この点は警察庁が令和7年に出した通達でも同じ整理がされています。同じ「対象事件」という言葉でも、警察と検察とで範囲が一致しない場面がある、ということです。
義務が外れる四つの場合
対象事件であっても、次のいずれかに当たるときは録音・録画をしないことが認められています。
- 記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき。
- 被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば十分な供述をすることができないと認めるとき。
- その事件が、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律3条の規定により指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき。
- 犯罪の性質や関係者の言動などに照らし、供述内容が明らかにされると被疑者や親族に危害が及ぶおそれがあり、記録をしたならば十分な供述をすることができないと認めるとき。
この例外に当たるかどうかは、第一次的には捜査機関がその取調べの時点で判断します。判断が適切だったかは後に法廷で審査され得ますが、例外を適用した後になって判明した事情は考慮されないという整理がされています。
実際の運用は限定的です。法務省の協議会が令和7年7月に公表した取りまとめ報告書の資料によると、警察の制度対象事件で令和元年6月から令和3年度までに全部を実施しなかったのは281件、うち280件が指定暴力団の構成員に関する類型でした。同じ期間の実施率は97.3%、全過程を記録した割合は94.9%です。
逮捕の罪名が対象外でも録音・録画されることがある
ここが実務上いちばん誤解されやすい点です。警察庁の通達は、逮捕や勾留の理由となっている罪名が対象事件かどうかを問わず、取調べが対象事件について行われるものであれば録音・録画の義務が生じるとしています。そのうえで、取調べが対象事件に及ぶ見込みがある場合には録音・録画を行うよう求めています。
前述の資料では、この「見込み」による実施が3年間で2,635件ありました。逮捕・勾留の罪名としては、傷害、覚醒剤取締法違反、麻薬特例法違反、死体遺棄、窃盗などが上位に並んでいます。いずれもそれ自体は対象事件ではありませんが、話が対象事件に及ぶ可能性があるとして記録されたものです。
逮捕罪名が対象事件でないからといって、録画されていないとは限らないということです。
精神に障害を有する場合の努力義務
犯罪捜査規範182条の3第2項は、逮捕・勾留されている被疑者が精神に障害を有する場合について、必要に応じて録音・録画を実施するよう努めなければならないと定めています。ここでいう精神の障害には、知的障害、発達障害、精神障害などが広く含まれるとされています。
努力義務ではありますが、運用上はかなり広く実施されています。前述の資料では、警察において3年間で24,236件が対象として把握され、そのうち24,229件で録音・録画が行われました。診断が確定していない段階でも対象として扱って差し支えないという取扱いが通達で示されている点も、この層の特徴です。この論点は別の記事で詳しく扱っていますので、そちらもあわせてご覧ください。
それ以外の事件はどう扱われているか
上の二つに当たらない事件については、警察庁の通達は、被疑者の供述状況や供述以外の証拠関係などを総合的に勘案し、実施する必要性がそれに伴う弊害を上回ると判断されるときに実施することができる、と定めています。義務でも努力義務でもなく、個別の判断に委ねられている層です。
この層の件数は限られています。前述の資料によると、警察がこの枠組みで録音・録画を実施したのは、令和元年6月から令和3年度までの3年間で89件でした。警察が扱う被疑者の取調べは年間およそ110万件とされていますので、割合としてはごく一部です。
一方、検察の運用は異なります。同じ資料では、検察は法律上の対象事件でないものも含めて幅広く実施しており、逮捕・勾留中の被疑者の取調べについては実施率が90%を超えているとされています。令和3年度は、対象類型に当たらない事件でも87,687件が実施され、うち83,021件は全過程が記録されていました。
つまり、同じ事件でも、警察段階では記録が残らず、検察段階では記録が残っているという状況が生じ得ます。取調べの内容を後から確かめたい場合には、どちらの機関の取調べかを整理しておくことが出発点になります。
在宅の取調べは記録されるのか
在宅事件の取調べは、法律上の義務の対象ではありません。この点は長く指摘されてきた課題で、協議会でも、身柄拘束の有無で供述の任意性をめぐる問題の起きやすさが大きく変わるわけではない、といった意見が示されています。
こうした議論を受けて、検察では、令和7年4月1日から、逮捕・勾留されていない被疑者の取調べについても録音・録画の試行が始まりました。対象として挙げられているのは、公判請求が見込まれる事件で、事案の内容や証拠関係に照らして被疑者の供述が重要なもの、取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなどです。制度化されたわけではありませんが、在宅であれば記録は一切残らない、という前提は現在では正確ではなくなっています。
被害者や参考人の取調べも記録されることがある
録音・録画は被疑者だけのものではありません。検察では、公判請求が見込まれる事件で被害者・参考人の供述が立証の中核になると見込まれる場合などに、その取調べの録音・録画が行われています。令和3年度は2,828件で、内訳は被害者が1,173件、参考人が1,655件でした。
令和5年の法改正では、刑事訴訟法321条の3が新設されました。一定の配慮をしたうえで聴取した結果を記録した媒体について、要件を満たす場合に証拠として用いることを認める規定です。対象は性犯罪の被害者に限られず、法廷で改めて供述すると精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる方も含まれます。
録音・録画が行われるときに起きること
実際に録音・録画が行われる場合の運用は、通達で次のように定められています。
- 実施に際して、録音・録画をすることが被疑者に告知される。
- 取調べや弁解の機会の開始から終了までが記録される。
- 実施後は、速やかに録音・録画状況報告書が作成される。
時間の目安も公表されています。警察の制度対象事件では、1件当たりの実施回数が平均12.2回、1回当たりの記録時間が平均1時間58分、1件当たりの合計が平均24時間3分でした。相当な分量の映像が残ることになります。
記録は裁判でどう使われるのか
刑事訴訟法301条の2は、記録媒体の使われ方についても定めています。対象事件について、検察官が、被告人に不利益な事実の承認を内容とする供述調書などの取調べを請求し、これに対して被告人側が「その承認は任意にされたものではない疑いがある」と異議を述べた場合、検察官は、その調書が作られた取調べの開始から終了までを記録した媒体の取調べを請求しなければなりません。
この請求をしなかったときは、裁判所は決定でその調書の証拠調べ請求を却下しなければならないとされています。記録が残っていることは、供述の任意性を争う側にとって重要な手がかりになります。
もっとも、記録は争う側にだけ有利に働くものではありません。話した内容と態度がそのまま残るため、後から説明を変えたときに、変わったこと自体が明らかになる面もあります。記録媒体を見る手続は公判段階で行われるのが通常で、捜査中に本人がすぐ確認できるわけではありません。
自分で録音することや、録音・録画を求めることはできるのか
自分で録音する場合
取調べを受ける側が録音することを禁じる規定は、特に置かれていません。ただし、身柄が拘束されている場合、機器を取調室に持ち込める状況にないのが通常です。在宅の取調べでも所持品を確認される例があり、現実にはトラブルのもとになりやすいところです。任意の取調べであれば、いったん中断を申し出て、外で弁護士に連絡を取る方が現実的でしょう。
録音・録画を求める場合
義務の対象外の事件でも、弁護人から捜査機関に録音・録画を実施するよう申し入れることはできます。この層は必要性と弊害を比べて判断される仕組みですので、なぜ記録が必要なのか、記録がないと後にどのような争いが生じ得るのかを具体的に示すことが判断材料になります。応じるかどうかは捜査機関の判断です。
制度は見直しの議論の途中にある
平成28年の改正法には、施行から3年を経過した時点で制度の在り方を検討するという規定が置かれていました。これを受けて法務省に設けられた協議会が、令和7年7月に取りまとめ報告書を公表しています。
報告書では、対象範囲を全事件に拡大すべきだという意見と、必要性が乏しく負担が大きいという意見の双方が示され、現時点で方向性を示すことは困難だとされました。そのうえで、対象範囲の拡大を含む制度改正や運用の見直しについて、新たな検討の場を設けて具体的に検討することを政府に期待する、と結ばれています。今後、範囲が動く可能性のある分野です。
誤解されやすい点
- すべての取調べが録画されているわけではなく、法律上の義務があるのは一部の事件に限られます。
- 対象事件であっても、在宅のまま受ける取調べは法律上の義務の対象ではありません。
- 逮捕の罪名が対象事件でなくても、取調べが対象事件に及ぶ見込みがあれば録音・録画されることがあります。
- 録音・録画されていれば供述の任意性が認められない、あるいは認められるという関係にはなく、記録は判断の材料の一つです。
- 記録媒体を本人がその場で確認できるわけではなく、閲覧は公判段階の手続を通じて行われるのが通常です。
弁護士に相談するタイミング
録音・録画をめぐる判断は、取調べが始まってからでは動かしにくい部分があります。呼び出しを受けた段階や身柄を拘束された直後の段階で、対象事件に当たるのか、どの機関の取調べなのか、申入れの余地があるのかを整理しておくと、後の負担を減らせます。すでに取調べが進んでいる場合でも、どの取調べが記録されているのかを把握しておく意味はあります。
まとめ
- 録音・録画には、法律上の義務、規則上の努力義務、運用上の判断という三つの層がある。
- 法律上の義務は、一定の重い罪に係る事件と検察官独自捜査事件について、逮捕・勾留されている被疑者の取調べに限られる。
- 対象事件でも、機器の故障、本人の拒否、指定暴力団の構成員に係る事件など四つの例外がある。
- 逮捕の罪名が対象外でも、取調べが対象事件に及ぶ見込みがあれば録音・録画される。
- それ以外の事件では、警察の実施件数は限られる一方、検察は逮捕・勾留中の被疑者について幅広く実施している。
- 在宅の取調べや被害者・参考人の取調べにも、試行や運用による記録の広がりがある。
取調べで話した内容は、記録が残っていてもいなくても、後の処分や裁判に影響します。記録の有無を確かめることと、そもそも何をどう話すかを整えることは、切り離せない問題です。捜査機関から連絡を受けた段階でご相談いただければ、事件の類型を踏まえて、記録が残る見込みと取調べへの備え方を一緒に整理することができます。


