強いクレームが強要罪になる線引き|要求・義務のない行為
「初犯だから罰金で終わるのではないか」。児童買春や児童ポルノに関する事件で警察や検察から連絡を受けた方から、この形のご質問をいただくことがあります。罰金という言葉は、刑事手続の結論として思い浮かびやすいものの一つなのだと思います。
この記事では、その問いを制度の側から分解します。罰金という結論はどのような場合に出てくるのか、どの手続を通って出てくるのか、そして罰金で終わったあとに何が残るのか。処分の見通しをお約束するものではありませんし、発覚を避ける方法や取調べでの受け答えの組み立て方を扱うものでもありません。
なお、これらの事件で問題になっているのは実在する子どもに向けられた行為であり、記録や行為の一つひとつに相手方がいます。手続の説明をする場合でも、その点が前提にあることを最初に書いておきます。
「罰金で済むのか」には三つの問いが含まれている
この問いは、実際には別々の三つの問いが重なったものです。
・その罪名に、そもそも罰金刑の定めがあるのか
・罰金という結論に、どの手続を通って至るのか
・罰金で終わったあと、何が残るのか
「初犯かどうか」は、この三つのどれも単独では決めません。初犯であることは、二つ目の問いにあたる処分の判断の中で考慮され得る事情の一つであって、罰金という結論を導く仕組みそのものではないからです。以下、順に見ていきます。
まず、その罪名に罰金刑の定めがあるかどうか
罰金という結論が出てくるためには、その罪について定められた刑の中に罰金が入っている必要があります。児童買春・児童ポルノ禁止法の各規定には、いずれも罰金が選択刑として置かれています。
| 問題になる規定 | 定められている刑 |
|---|---|
| 児童買春(同法4条) | 5年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 児童ポルノの所持(同法7条1項) | 1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 |
| 提供、提供目的の所持や製造など(同法7条2項から5項まで) | 3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金 |
| 不特定又は多数の者への提供、公然陳列など(同法7条6項から8項まで) | 5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金、又はその併科 |
| 児童に淫行をさせる行為(児童福祉法60条1項) | 10年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金、又はその併科 |
同じ法律の中でも、上限の額は規定ごとに異なります。手元に置いていたという説明と、他人に渡したという説明とでは、そもそも当てはまる条文が違い、罰金の枠も違ってきます。
一方、相手が16歳未満である場合などに問題となる刑法の不同意わいせつ罪・不同意性交等罪には、罰金刑の定めがありません。罪名がそちらに動けば、罰金という結論そのものが選択肢から外れます。都道府県の青少年健全育成条例違反として扱われる場合は、また別の枠になります。
罰金という結論に至る道は一つではない
罰金に至る道は二つあります。一つは略式命令、もう一つは公開の法廷での裁判を経た罰金の判決です。同じ「罰金」という結論でも、通る手続が違います。
日常の会話で「罰金で済んだ」と語られる場面の多くは前者を指していますが、罰金刑が言い渡されるのは略式手続に限られません。公判請求されたうえで、審理の結果として罰金の判決になることもあります。逆に言えば、公判請求されたからといって拘禁刑が確定するわけでもありません。
略式命令には金額の上限がある
刑事訴訟法461条は、簡易裁判所が検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前に略式命令で100万円以下の罰金又は科料を科すことができると定めています。
ここで見落とされやすいのが、略式命令で科すことができる罰金の上限(100万円)と、条文に定められた罰金の上限(300万円や500万円)がそろっていないという点です。条文の側に300万円以下という枠があっても、略式命令でその全部を使えるわけではありません。100万円を超える罰金が相当と判断される事案では、結論が罰金であっても、公開の法廷での手続を経ることになります。
「罰金かどうか」と「法廷に立つかどうか」は、重なることが多いものの、同じ問いではないということです。
略式手続が使える前提
もう一つの前提は、その事件が簡易裁判所の管轄に入ることです。裁判所法33条1項2号は、簡易裁判所が第一審の裁判権を有する刑事事件として、罰金以下の刑に当たる罪と、選択刑として罰金が定められている罪などを挙げています。
児童買春・児童ポルノ禁止法の各規定は、いずれも選択刑として罰金が置かれているため、この枠に入り得ます。他方、罰金刑の定めがない罪はここに入りません。前に触れた罪名による違いは、刑の重さの違いであると同時に、手続の入り口の違いでもあります。
略式手続には本人の同意が要る
略式手続は、検察官が一方的に選べるものではありません。刑事訴訟法461条の2は、検察官が略式命令を請求するに際し、あらかじめ略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従って審判を受けることができる旨を告げたうえで、異議がないかどうかを確かめなければならないと定めています。そして、異議がないときは、本人が書面でその旨を明らかにすることとされています。
書面によることとされているのは、公開の法廷で裁判を受ける権利の一部を手放すことになるからです。捜査の終わりごろに同意を求められる場面があり、そこで内容を理解したうえで判断することになります。
なお、略式命令を受けた後であっても、告知を受けた日から14日以内であれば、書面で正式裁判を請求することができます(刑事訴訟法465条)。この期間が経過するなどした略式命令は、確定判決と同じ効力を持ちます。
罰金に執行猶予がつくことはあるのか
制度としては、罰金にも執行猶予をつける余地があります。刑法25条1項は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときに執行猶予をつけ得ると定めており、刑事訴訟法461条も、略式命令の場合に刑の執行猶予をすることができると定めています。
もっとも、これは制度上の枠の話であり、実際にどのような場合にそうした判断がされるかは事案によります。ここでお伝えしたいのは、「罰金か拘禁刑か」「実刑か執行猶予か」という二つの軸が、そのまま重なっているわけではないということです。
「初犯」という言葉が指しているもの
「初犯」は法律上定義された用語ではなく、通常は前科がないことを指して使われます。ここで区別しておきたいのは次の点です。
・前科がないことと、前歴(過去に捜査の対象になったこと)がないことは別
・前科がないことと、同じ時期に複数の行為があったことがないことは別
・刑法の罪の前科がないことと、条例違反による処分歴がないことは別
初犯であることは処分の判断で考慮され得る事情の一つですが、それだけで結論が決まる仕組みにはなっていません。前科がない場合でも、行為の回数や相手方の年齢、記録の量、経緯といった事情によって、公判請求されることがあります。
罰金は一番軽い結末ではない
「罰金で済むのか」という問い方をすると、罰金が一番軽い結末であるように見えます。しかし手続の順序としては、その手前に不起訴があります。
不起訴になれば刑は科されず、前科も残りません。これに対して罰金は、有罪の判断を前提とする刑罰です。略式命令による罰金であっても、前科として残ります。
目標を罰金に置いてしまうと、その手前で検討すべきことが視野から外れることがあります。捜査段階でどの見通しを前提に何をするのかは、事件の内容によって変わります。
示談や被害弁償はどこに効くのか
示談や被害弁償は、条文に定められた罰金の上限を動かすものでも、罪名を変えるものでもありません。これらが働くのは、起訴するかどうか、どの手続を選ぶか、どの程度の刑が相当かという判断の場面です。
また、相手方が特定されていない事案では、この選択肢自体が取りにくくなります。相手方の状況によって、できることの幅が変わる点は押さえておきたいところです。
件数が増えると罰金の枠そのものが動く
複数の行為が同時に問題になっている場合、罰金の枠は変わります。刑法48条2項は、併合罪のうち二個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定められた罰金の多額の合計以下で処断すると定めています。単純に言えば、対象となる罪が増えれば、科し得る罰金の幅も広がるということです。
また、同条1項は、罰金と他の刑とは併科すると定めています。児童ポルノ禁止法7条6項のように、条文の側でも拘禁刑と罰金の併科が定められている規定があります。拘禁刑か罰金かという二者択一ではない場面があるということです。
なお、見つかった記録の数と罪の数が一致するかどうかは、それ自体が別の論点で、事案によって扱いが分かれます。
罰金を納められない場合
罰金は、納付することで執行が終わる刑です。刑法18条1項は、罰金を完納することができない者を、1日以上2年以下の期間、労役場に留置すると定めています。金額の見通しは、手続の選択とも無関係ではありません。
罰金で終わっても残るもの
刑事手続としては罰金の納付で終わりますが、そこで全部が終わるわけではありません。
| 場面 | 罰金の場合の扱い |
|---|---|
| 前科 | 有罪の判断に基づく刑罰であり、略式命令であっても前科として残る |
| 刑の言渡しの効力 | 罰金以下の刑は、執行を終えた日などから罰金以上の刑に処せられずに5年を経過すると、言渡しの効力を失う(刑法34条の2)。拘禁刑以上は10年 |
| 資格に関する定め | 拘禁刑以上を基準とする規定が多く、罰金は当たらないことがある。他方で、児童の福祉に関する法令のように、罰金を基準に含む定めもある |
| こどもに接する仕事の確認制度 | 罰金でも、刑の執行を終えた日などから10年間は確認の対象となる |
たとえば教員免許については、免許状の失効事由が拘禁刑以上の刑に処せられた場合とされており、罰金はこれに当たりません。他方、保育士については、児童の福祉に関する法律のうち政令で定めるものによる罰金の刑に処せられ、その執行を終えた日などから3年を経過しない者は保育士となることができないとされています。資格ごとに、罰金をどう扱うかの設計が違うということです。ご自身の資格や職種については、その根拠となる法令を個別に確認する必要があります。
こども性暴力防止法での扱い
令和8年12月25日に施行されるこども性暴力防止法(学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)は、学校や認定こども園、児童福祉施設などの事業者に対し、こどもに接する業務の従事者について、雇入れや配置転換の際に性犯罪の前科の有無を確認することを求めています。学習塾やスポーツクラブなどは、認定を受けた事業者が同様の仕組みに入ります。
確認の対象となる「特定性犯罪」には、児童買春の罪、児童ポルノの所持や提供などの罪、児童に淫行をさせる罪などが挙げられています。そして確認の対象となる期間について、こども家庭庁の資料では次のように整理されています。
・拘禁刑で服役した場合は、刑の執行を終えた日などから20年
・拘禁刑に執行猶予がつき、猶予期間が満了した場合は、裁判が確定した日から10年
・罰金の場合は、刑の執行を終えた日などから10年
この場面では、罰金と、執行猶予がついた拘禁刑とで、期間の長さに違いがありません。刑事手続の中では罰金と拘禁刑ははっきり区別されますが、別の制度の中では同じ扱いになることがあります。こどもに関わる仕事に就いている方、これから就こうとしている方にとっては、罰金で刑事手続が終わることと、その後の職業生活が従前どおりに戻ることとは、別の問題になります。
連絡が来た段階で整理しておきたいこと
・どの法律のどの規定で説明を受けているのか
・在宅の手続として進んでいるのか、身柄の拘束があるのか
・行為が何回、いつのこととして整理されているのか
・相手方が特定されているのか
・押収されている物があるか、その範囲はどこまでか
・勤務先や資格との関係で、確認が必要な定めがあるか
このうち罪名は、罰金という結論があり得るかどうかに直接つながります。同じ「児童ポルノ」という言葉で説明されていても、条文が違えば刑の枠も手続も変わります。
なお、記録を消す、端末を処分する、相手方や保護者に直接連絡を取るといった対応は、その後の手続で不利に働くことがあります。
弁護士に確認できること
・現在説明されている罪名に、罰金刑の定めがあるかどうか
・略式手続が問題になり得る事案なのかどうか
・略式手続への同意を求められたときに、何を確認して判断するのか
・不起訴の可能性を検討する余地があるかどうか
・相手方との関係で、この段階でできることと、できないこと
・資格や勤務先との関係で、確認しておくべき法令
早い段階で相談したからといって、望む結果が約束されるわけではありません。ただ、どの分岐に立っているのかを把握しておくことで、判断の材料は増えます。
まとめ
・「罰金で済むのか」は、罰金刑の定めがあるか、どの手続を通るか、何が残るか、という三つの問いに分けられる
・児童買春・児童ポルノ禁止法の各規定には罰金が選択刑として置かれているが、罪名が刑法の不同意わいせつ罪などに動けば、罰金という選択肢は外れる
・略式命令で科すことができる罰金は100万円以下で、条文に定められた罰金の上限とはそろっていない
・略式手続には本人の同意が要り、略式命令を受けた後も14日以内であれば正式裁判を請求できる
・初犯であることは考慮され得る事情の一つで、それだけで結論が決まる仕組みにはなっていない
・罰金は一番軽い結末ではなく、その手前に不起訴という分岐がある
・罰金で終わっても前科は残り、こどもに接する仕事の確認制度では10年間の対象となる
罰金という言葉は結論のように見えますが、実際には、どの規定で問われているのか、どの手続を通るのか、その後に何が続くのかによって意味が変わります。連絡を受けた段階で分かっていることを整理し、見通しと選択肢を確認しておくことが、判断の土台になります。


