【不貞慰謝料】相手の収入や資産は慰謝料額に影響するのか
不貞をめぐる慰謝料の問題で、弁護士に相談する時期をいつにするか迷う方は少なくありません。インターネット上では「早ければ早いほどよい」という説明を見かけることが多く、その一方で「まだ何も決まっていないのに相談してよいのだろうか」と足が止まってしまうこともあります。
実際には、早く動いたほうがよい場面と、急がなくても得られるものがあまり変わらない場面があります。この二つを分けているのは、気持ちの整理がついているかどうかでも、証拠がそろっているかどうかでもありません。その時期に自分の意思と関係なく進んでいるものがあるかどうかです。
この記事では、相談の時期を判断するための考え方を、慰謝料を請求する側とご請求を受けた側の双方の立場から整理します。
この記事で扱うこと・扱わないこと
はじめに、この記事の範囲をはっきりさせておきます。
- 扱うこと=相談の時期を判断するための考え方と、時期によって変わるもの。
- 扱うこと=早く動いたほうがよい場面と、急がなくてよい場面の見分け方。
- 扱わないこと=慰謝料の金額の目安や、増額・減額の事情。
- 扱わないこと=証拠の集め方や、証拠としての評価。
- 扱わないこと=消滅時効の起算点の数え方や、手続ごとの期限の詳細。
扱わないこととした項目は、それぞれ別の記事で個別に取り上げています。この記事は、それらの入口として「いつ動くか」だけに絞っています。
「早いほどよい」と言われるのは、相談そのものに力があるからではありません
早期の相談をすすめる説明は数多くありますが、その理由まで書かれていることは多くありません。相談が役に立つ範囲は、実は限られています。時間がたっても変わらないものについては、いつ相談しても答えは同じだからです。
早く動く意味があるのは、時間の経過とともに減っていくものがある場面です。減っていくものは、大きく三つに分けられます。
- 残された期間。法律上の期限や、相手方から示された回答期限のように、こちらの準備の進み具合と関係なく進むもの。
- まだ選べる状態にあること。口にしていない発言、署名していない書面、渡していないお金のように、いったん動くと戻しにくくなるもの。
- 後から確かめられる材料。記録の保存期間が過ぎたり、当事者の記憶が薄れたりすることで、時間とともに取り出しにくくなるもの。
逆にいえば、この三つのいずれも動いていない時期であれば、相談を数日先に延ばしたことで結論が変わる場面は多くありません。「早ければ早いほどよい」という説明は、この三つが動き始めている場面を前提にしたものと理解しておくと、判断がしやすくなります。
時期の判断は、二つの軸で見ると整理しやすくなります
相談の時期を「早いか、遅いか」という一本の物差しで考えると、判断がつきにくくなります。次の二つの軸を分けて考えると、いま自分がどの位置にいるのかが見えやすくなります。
軸1 自分の意思と関係なく進んでいるものがあるか
裁判所からの書類が届いている、相手方の代理人から回答期限が示されている、といった場面では、こちらが黙っている間も時間が進みます。反対に、相手方が何も言ってきておらず、こちらも動く予定がない時期には、進んでいるものは基本的にありません。
ただし、消滅時効の期間だけは、どちらの場面でも進み続けます。この点は後の章で触れます。
軸2 いま話せる材料がどれだけ手元にあるか
相談で得られる答えの具体性は、その場で話せる事実の量に左右されます。何がいつ起きたのかが自分でも整理できていない段階では、一般的な枠組みの説明にとどまりやすくなります。これは相談の受け方の問題ではなく、判断の材料が足りないという構造的な理由によるものです。
この二つを組み合わせると、次のように整理できます。
| 自分の意思と関係なく進んでいるもの | 手元にある材料 | この時期に相談して得られやすいもの |
|---|---|---|
| ある | そろっている | とるべき手と、その順序 |
| ある | 乏しい | 期限までにしておくことの整理と、当面の受け答えの方針 |
| ない | そろっている | 動き出す前の見通しと、選べる進め方の比較 |
| ない | 乏しい | 一般的な枠組みと、次に確かめておくべきことの整理 |
表の下二行にあたる時期でも、相談が無駄になるわけではありません。得られるものの性質が違うだけです。ここを取り違えると、「早く相談したのに具体的な答えがもらえなかった」という受け止めにつながることがあります。
早めに動いたほうがよい場面
次の場面は、いずれも先ほどの三つのうちどれかが動き始めています。
期限の書かれた書面が届いている
「◯月◯日までにご回答ください」といった記載のある書面が届いている場面です。この期限には、差出人が独自に設定したものと、法律上の応答期限とがあり、性質がまったく異なります。見分け方については、慰謝料請求の書面が届いた場合の対応を扱った記事で詳しく整理しています。
いずれの性質であっても、期限の直前に相談すると、選べる手が限られてしまいます。書面を受け取った時点で内容を確認しておくことに意味があります。
相手方に代理人がついた
相手方に弁護士がついた場合、それ以降のやり取りは書面や電話で記録に残る形で進むことが一般的です。こちらの回答内容は後の交渉や手続の前提として扱われるため、最初の返答の仕方が後まで影響することがあります。
署名や支払いを求められている
示談書や念書への署名を求められている場面、その場での支払いを求められている場面です。署名や支払いは、いったん行うと後から動かしにくくなる典型例にあたります。求められている書面の内容を確認しないまま応じてしまうと、後になって相談しても選べる手が残っていないことがあります。
自分のほうから連絡を取ろうとしている
請求する側にとっては、相手方に最初の連絡を入れる直前が、選択肢が広く残っている時期にあたります。連絡を入れた後は、相手方の警戒や、記録の取り扱いに変化が生じることがあります。金額を口にした場合、その数字がその後のやり取りの基準として扱われることもあります。
「まずは自分で連絡してみて、うまくいかなければ相談しよう」という進め方は自然に見えますが、この順序では、後から相談しても戻せない部分が生じやすくなります。
時間がたつと確かめにくくなるものがある
交通系ICカードの利用履歴やクレジットカードの明細のように、事業者側での保存期間が定められているものがあります。宿泊の記録なども、無期限に残るわけではありません。何が残っているのかを把握しないまま時間がたつと、後から取り出せなくなることがあります。
急がなくてよい場面
一方で、次のような時期には、数日から数週間の差が結論を変えることは多くありません。
事実関係がまだ自分でも確認できていない
配偶者の様子から不貞を疑っているものの、相手方が誰なのか、いつからのことなのかが分からない段階です。この時期の相談では、確かめておくべき事柄の整理や一般的な見通しの説明が中心になります。
この段階で相談することに意味がないわけではありません。むしろ、確認の順序を誤ると後で使いにくくなる材料もあるため、方向づけを聞いておく価値はあります。ただし、事実が固まった後に改めて相談することを前提に考えておくと、期待とのずれが生じにくくなります。
離婚するかどうかを決めかねている
慰謝料の請求と離婚は、別々に決められる事柄です。離婚するかどうかを決めてからでなければ請求できないわけではなく、また請求したからといって離婚が前提になるわけでもありません。
もっとも、離婚するかどうかによって、請求できる内容や交渉の組み立て方は変わってきます。どちらとも決めかねているうちは、方針を固める前の段階として相談を受けることが多くなります。
相手方が何も言ってきておらず、こちらも動く予定がない
相手方から連絡がなく、自分からも当面は動かないと考えている時期です。この時期には、期限も、戻しにくい出来事も、進んでいません。
ただし、急がなくてよいことと、放っておいてよいことは別です。消滅時効の期間だけは、相手方が何も言ってこなくても、こちらが何もしなくても進み続けます。不法行為に基づく損害賠償の請求権は、損害と加害者を知った時から一定の期間で消滅すると定められており(民法724条)、その残り時間だけは自分の準備の進み具合と無関係です。起算点の数え方や、期間が迫っているときにできる手当てについては、消滅時効を扱った記事で個別に整理しています。
早く相談することと、早く動き出すことは別のことです
この記事でいちばんお伝えしたいのがこの点です。「早いほどよいのか」という問いには、相談と、相手方に伝わる動きとを分けて考えると答えやすくなります。
相談した事実は、相手方には伝わりません
弁護士は、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うとされています(弁護士法23条)。弁護士職務基本規程23条も、正当な理由なく依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならないと定めています。ここでいう依頼者には、受任に至らなかった相談者も含まれると解されています。
つまり、相談をした段階では、相手方の側で何かが動き出すことはありません。相談したこと自体が相手方に知られたり、それによって交渉の状況が変わったりする仕組みにはなっていないということです。
動き出した時点から、相手方の側でも時間が進み始めます
これに対して、代理人として弁護士が相手方に連絡を入れる、内容証明郵便を送る、といった段階に進むと、そこからは相手方の側でも対応が始まります。相手方が代理人を立てる、態度を硬化させる、記録の扱いを変えるといった変化が生じることもあります。
言い換えると、取り返しにくさが生じるのは、相談ではなく動き出しのほうです。
「早いほどよい」が当てはまりやすいのは相談のほうです
相談は、こちらの側だけで完結する行為であり、早く行ったことによる不利益が生じにくいものです。他方で、動き出す時期は、方針が固まっているか、材料がそろっているかを見てから決めることになります。
競合する説明の多くは、この二つをまとめて「早いほどよい」と述べています。相談の時期を迷っている場合には、まず相談だけを先に済ませ、動き出す時期は相談の中で決めるという順序も考えられます。
相談の時期によって、返ってくる答えの形が変わります
弁護士は、事件を受任するにあたり、依頼者から得た情報に基づいて事件の見通しや処理の方法を説明することとされています(弁護士職務基本規程29条1項)。見通しは、その時点で話された情報の範囲で立てられるものであり、材料が増えれば説明の内容も変わります。
また、同条2項は、依頼者に有利な結果となることを請け合うことを禁じています。どの時期に相談しても、結果を約束する形の説明が返ってくることはありません。
| 相談した時期 | そのとき話せること | 返ってきやすい答えの形 |
|---|---|---|
| 事実を確認している途中 | 断片的な事実と、確かめたいこと | 一般的な枠組みと、確認の順序 |
| 事実がおおむね分かった段階 | 経緯、相手方、手元の資料 | 考えられる進め方と、それぞれの負担 |
| やり取りが始まった後 | 相手方の主張と、こちらの回答内容 | すでに固まった部分と、まだ動かせる部分の切り分け |
| 書面に署名した後 | 合意した内容 | 残っている手段があるかどうかの検討 |
時期が進むほど答えは具体的になりますが、同時に選べる手は減っていきます。この二つは同時には成り立ちません。どちらを優先するかが、時期を決めるうえでの実質的な判断になります。
請求を受けた側から見た時期
慰謝料を請求された立場では、時間の進み方が請求する側とは異なります。動き出すかどうかを決めるのが相手方であるため、こちらの準備が整うのを待ってもらえるとは限りません。
示された期限が二種類あることを先に確かめる
相手方が書面に書いた期限と、法律上定められた期限とでは、過ぎた場合に生じることが違います。前者は、過ぎたからといってただちに何かが確定するものではありません。後者は、過ぎると手続上の扱いが変わることがあります。どちらであるかを見分けることが、時期を判断するうえでの出発点になります。書面の種類ごとの見分け方は、別の記事で整理しています。
返事をしていない間も、状況は動きます
返事をしないこと自体が、請求を認めたことにも、拒んだことにもなるわけではありません。ただし、返事がないまま時間が経過すると、相手方が交渉ではなく手続の方向に進むことがあります。手続に入ってからは、応答の期限がこちらの都合と関係なく設定されます。
同じ事務所に双方が依頼することはできません
利害が対立する関係にある方々が、同じ法律事務所に依頼することはできない仕組みになっています(弁護士職務基本規程27条、28条)。相談の段階でも、相手方がすでにその事務所に相談していた場合には、受けられないことがあります。時期の話とは別の観点ですが、事務所を探し始める時期に影響することがあります。
「もう遅いのでしょうか」と感じている場合
すでにやり取りが進んでいる、あるいは何かに署名してしまったという状態で相談を検討される方も少なくありません。この場合、遅れが響くかどうかを決めるのは、経過した時間の長さではなく、戻しにくい出来事がすでに起きているかどうかです。
- 相手方と話をしただけの段階であれば、その後の進め方はまだ広く選べます。
- 金額を口にした段階では、その数字が交渉の起点として扱われやすくなります。
- 書面に署名した段階では、書かれた内容に沿った処理が前提となり、動かせる範囲が狭くなります。
- 支払いを済ませた段階では、支払った事実そのものが後の主張に影響することがあります。
いずれの段階であっても、残っている選択肢がまったくないという場面は多くありません。何がすでに固まっていて、何がまだ動かせるのかを切り分けることが、この時期の相談で行うことになります。
相談の前に整理しておくと話が早くなること
時期を問わず、次の三点を整理しておくと、限られた時間で話が進みやすくなります。
- 分かっている範囲での時系列。いつ何を知り、いつ誰と何を話したかを、日付とともに書き出しておく。
- 手元にある書面。届いた書面、署名した書面、渡した書面のいずれも、内容が読める状態にしておく。
- 決めたいことと、まだ決めていないこと。離婚するかどうか、金額を求めるかどうかなどを、分けて書き出しておく。
資料がそろっていないことを理由に相談を先延ばしにする必要はありません。何がないのかが分かっていること自体が、相談の材料になります。
よくあるご質問
Q 証拠がそろっていませんが、相談してもよいのでしょうか
差し支えありません。何がそろっていないのかを確認したうえで、どの資料を先に確保するか、どの資料は取り寄せに時間がかかるかを整理することが、この段階の相談で行うことになります。証拠が整ってから相談するという順序では、その間に取り出せなくなる記録が生じることがあります。
Q 相談したら、そのまま依頼しなければならないのでしょうか
相談と依頼は別の段階です。相談を受けたうえで、動き出す時期や進め方を決めることになります。方針が固まらない段階で相談を受けた場合、その時点では依頼に至らず、状況が動いた時点で改めてご相談いただくこともあります。
Q 相手方の弁護士が示した期限までに相談が間に合いません
書面に書かれた期限は、差出人が設定したものであることが多く、過ぎたからといってただちに何かが確定するわけではありません。もっとも、放置すると手続の方向に進むことがあるため、期限までに結論を出せない場合でも、その旨を伝えておく対応が考えられます。何をどう伝えるかによって後の交渉に影響が出ることがあるため、伝える前に内容を確認しておくことをお考えください。
まとめ
- 相談の時期は「早いか遅いか」ではなく、自分の意思と関係なく進んでいるものがあるか、いま話せる材料がどれだけあるかの二つの軸で考えると整理しやすくなる。
- 早めに動いたほうがよいのは、期限の書かれた書面が届いている、相手方に代理人がついた、署名や支払いを求められている、自分から連絡を入れようとしている、記録が取り出せなくなるおそれがある、といった場面。
- 急がなくてよいのは、事実関係がまだ確認できておらず、相手方も動いていない時期。ただし消滅時効の期間だけは進み続ける(民法724条)。
- 相談と、相手方に伝わる動き出しは別のもの。弁護士には秘密を保持する義務があり(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)、相談した事実が相手方に伝わることはない。
- 時期が進むほど答えは具体的になる一方で、選べる手は減っていく。この二つは同時には成り立たない。
- すでにやり取りが進んでいる場合でも、何が固まり何が動かせるのかを切り分けることから始められる。
ご相談について
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐる慰謝料の問題について、請求をお考えの方と、ご請求を受けた方の双方からご相談を承っています。事実関係の確認がこれからという段階でも、すでに書面のやり取りが始まっている段階でも、その時点で選べる進め方をご説明します。
池袋と新橋に事務所があり、ご来所のほか、ご事情に応じた方法でのご相談にも対応しています。時期の判断に迷われている場合は、動き出す前の段階でお問い合わせいただければと思います。


