【不貞慰謝料】請求書の金額と最終的な着地額はなぜ大きくずれるのか
「パパ活で会っていた相手が既婚者で、その配偶者の方から慰謝料を請求されました」というご相談と、「配偶者がパパ活をしていた。相手にも請求できますか」というご相談は、どちらも珍しいものではありません。ママ活と呼ばれる形でも、ご相談の中身は変わりません。
こうした場面についての説明は、多くの場合「性的関係があれば不貞行為にあたる」「既婚だと知らなければ責任は生じない」という二点に集約されています。それ自体が誤りというわけではありません。ただ、この二点だけでは答えにたどり着かないご相談が少なくないのも事実です。実際に伺っていると、ご本人が知りたいことは「お金のやり取りがあったことは、この話にどう関係するのか」という一点に集まっていることが多いためです。
この記事では、パパ活・ママ活という呼ばれ方をする関係で相手が既婚だった場合について、立場ごとに何が問題になるのかを整理します。慰謝料の相場、証拠の集め方、時効といった不貞慰謝料に共通する論点は、それぞれ別の記事で扱っていますので、ここでは対価を伴う関係だからこそ生じる部分に絞ってご説明します。
「パパ活」「ママ活」は法律上の区分ではない
最初に確認しておきたいのは、「パパ活」「ママ活」という言葉が法律上の概念ではないという点です。法律の側にこの呼び名に対応した条文はなく、呼び名が変わったからといって、責任の判断枠組みが別のものに切り替わるわけではありません。
同じ呼び名の中に、性質の違う関係が混ざっている
同じ言葉で語られていても、実際にあったことには幅があります。この幅が、不貞慰謝料の場面ではそのまま結論の差になって表れます。
| 実際にあったこと | 不貞慰謝料の場面での位置づけ |
|---|---|
| 食事や買い物に同行しただけ | 不貞行為とは評価されにくい |
| 継続的に会い、親密なやり取りが続いていた | 性的関係が認められない場合でも、婚姻共同生活の平穏を害したとして問題になる余地がある |
| 性的関係があった | 回数の多少にかかわらず、不貞行為として責任の有無が正面から問われる |
| 関係の中身がはっきりしない | 残っている記録から、どこまで推認できるかが争点になる |
見られているのは呼び名ではなく、その関係の中で実際に何があったかです。ご自身が「パパ活だった」と考えていても、相手の配偶者が「不倫だった」と考えていても、判断はその評価の言い合いでは決まりません。
性別が入れ替わっても考え方は変わらない
ママ活と呼ばれる形、つまり女性が費用を負担して年下の男性と会う形でも、法律上の扱いは同じです。不貞行為をめぐる民法の規定は、当事者の性別によって内容を変えていません。にもかかわらず、この分野の解説は「パパは既婚男性、相手は女性」という一方向の前提で書かれているものが目立ちます。ご自身の状況がその前提と合わない場合は、次の章の整理をご覧ください。
立場は4通りある|誰が既婚で、誰がお金を渡していたか
このテーマでご相談が混乱しやすい最大の理由は、二つの軸が重なっているからです。一つは「既婚なのはどちらか」、もう一つは「お金を渡していたのはどちらか」です。この二つは連動しておらず、組み合わせによって、請求する側と請求される側が入れ替わります。
二つの軸で立場が決まる
| 既婚だったのは | お金の流れ | 慰謝料を請求されうるのは | とくに問題になりやすいこと |
|---|---|---|---|
| お金を渡していた側 | 既婚者から相手方へ | 受け取っていた側 | 既婚だと知っていたか。送金の記録が関係の裏づけに使われる |
| お金を受け取っていた側 | 相手方から既婚者へ | 渡していた側 | 費用を負担していたという感覚と、責任の有無が結び付かない |
| 双方 | どちらか一方から他方へ | 双方が、それぞれ相手の配偶者から | 請求と負担の分担が交差し、順番によって最終的な負担が動く |
| どちらでもない | どちらか一方から他方へ | 不貞慰謝料の問題は生じない | 渡したお金の返還や関係の解消をめぐる別のトラブルが中心になる |
1行目が、いわゆる典型例として語られている型です。ただ、実際のご相談では2行目や3行目も相応の数があります。世に出ている解説の多くが1行目だけを前提にしているため、ご自身の状況がそこに当てはまらないと、調べても答えが見つからないという状態になりがちです。
費用を負担していた側が被害者になるわけではない
2行目の型、つまり相手が既婚で、こちらがお金を渡していた場合、「支払っていたのはこちらなのに、なぜ責任を問われるのか」という受け止め方が生まれやすくなります。しかし、慰謝料を請求する立場にあるのは、婚姻共同生活の平穏を害されたとされる配偶者です。お金を渡していたかどうかは、その配偶者との関係では意味を持ちません。支出があったことは、責任を免れる理由にはならない、というのがここでの出発点です。
双方が既婚だった場合
3行目のように双方が既婚であった場合には、それぞれの配偶者から請求が向かい、支払った側から他方へ分担を求める話も生じ得ます。この場合は誰が先に支払ったかによって最終的な負担が変わってきますので、いわゆるW不倫の記事および求償に関する記事をあわせてご覧ください。
お金のやり取りは、責任の有無を動かさない
ご相談で最も多く聞かれるのが、「割り切った関係だったのに、なぜ不倫と同じ扱いになるのか」という疑問です。この点は、不貞行為がどう定義されているかを確認すると理解しやすくなります。
「割り切った関係だった」が理由になりにくい理由
最高裁は、離婚原因としての不貞行為について、配偶者のある者が自由な意思に基づいて配偶者以外の者と性的関係を結ぶことを指すと述べています(最高裁昭和48年11月15日判決)。ここで求められているのは自由な意思に基づくものであったかどうかであり、恋愛感情があったか、関係が続く見込みがあったか、将来の約束があったかは、この枠組みには含まれていません。対価の授受があったことは、その関係が自由な意思に基づくものであったことを否定する事情にはなりにくい、という関係にあります。
なお、意思に反して関係を強いられた、断りにくい立場に置かれていたという事情がある場合は、まったく別の評価がありうる場面です。この点は、立場を利用された場合の主張について扱った記事をご覧ください。
逆に「お金で買った関係だから悪質だ」も、それだけでは決め手にならない
請求する側からは、対価が伴っていたこと自体を強く問題視するお気持ちが示されることがあります。ただ、金銭のやり取りがあったという一事から金額が大きく動くわけではありません。金額の判断で見られているのは、婚姻関係にどのような影響が生じたか、関係がどの程度続いたか、発覚後にどう対応したかといった事情です。対価の存在は、そうした事情を読み取る材料の一つという位置づけにとどまります。
対価が意味を持つのは、金額を考える場面
もっとも、まったく無関係というわけでもありません。継続的に相当額が動いていた場合、そのことが関係の継続性や親密さを示す材料として扱われることはあります。金額がどのように組み立てられるかについては、相場を分解した記事および増額・減額の要素を扱った記事で詳しくご説明しています。
渡したお金は、慰謝料から差し引かれるのか
この類型に特有のご質問として、「これまで渡した分を返してもらえないか」「渡した分は慰謝料から差し引かれないのか」というものがあります。どちらも自然な発想ですが、法律の組み立て方としては、想定とは異なる結論になりやすい部分です。
差し引かれる関係にはならない
損害賠償の場面では、同じ原因によって被害を受けた人自身が利益を得ていた場合に、その分を賠償額から控除するという考え方があります。ここで賠償を求めているのは相手の配偶者であり、渡されたお金を受け取ったのはその配偶者ではありません。支払った相手と、賠償を求めている相手が別人である以上、差し引きという形にはなりにくいのが通常です。
「返してもらうから慰謝料は勘弁してほしい」という組み立てが難しい理由
では、渡した側が受け取った側に返還を求めることはできるのでしょうか。この点については、性的関係の対価という趣旨で渡されたと評価される場合、その合意自体が公序良俗に反して無効とされ(民法90条)、さらに不法な原因のために給付したものは返還を請求できないとされています(同法708条)。つまり、返還を求める側にとっても不利に働く仕組みになっています。
一方で、渡したお金のすべてが対価と評価されるとは限りません。返す約束があった貸付けとして交付されたものだと認定された裁判例もあります。何をもって対価とみるかは事案ごとの判断になりますので、渡したお金の返還を扱った記事をあわせてご確認ください。
家計から支出されていた場合
請求する側から見た場合には、別の角度が生じます。配偶者が渡していたお金が家計から出ていたのであれば、それは婚姻共同生活に生じた影響の一部として説明できる事情になります。これは「渡した分を返せ」という請求とは別の話で、慰謝料の金額を考えるうえでの事情として位置づけられるものです。
「既婚だと知らなかった」という言い分
責任が生じるためには、故意または過失が必要です(民法709条)。既婚だと知らず、知らなかったことについて落ち度もなかったといえる場合には、責任が否定される余地があります。ただ、この類型では、この主張が通りにくくなる方向に働く事情が生じやすいという特徴があります。
素性を尋ねない前提の関係であること自体が問われる
互いに本名を名乗らず、勤務先も住まいも聞かないまま会うという進め方は、この分野では珍しくありません。しかしその進め方は、請求する側から見れば「確かめようとしなかった」という評価に結び付きやすいものでもあります。一般の交際であれば、結婚指輪や家族の話といった手がかりが問題になりますが、この類型では、そもそも手がかりを取りに行かなかったこと自体が論点になりやすいのです。
確かめようとした形跡が残っているか
逆にいえば、独身かどうかを尋ねたやり取り、相手の説明、その説明を前提に行動していた経緯が記録として残っていれば、それは主張を支える材料になります。この点は、独身だと言われていたことをどう裏づけるかを扱った記事で詳しくご説明しています。
独身だと偽られていた場合
相手が既婚であることを積極的に隠していた場合には、こちらから相手本人に対して請求を検討できる場面もあります。既婚であることを隠して交際した場合の責任については、貞操権の侵害を扱った記事をご覧ください。
請求してきているのが誰なのかを確かめる
実務で見落とされやすいのが、請求してきている相手が誰かという点です。とくにこの類型では、相手の配偶者ではなく、関係を持っていた相手本人から連絡が来ることがあります。
慰謝料を請求できる立場にあるのは配偶者
不貞を理由とする慰謝料は、婚姻共同生活の平穏を害されたとされる配偶者が請求するものです。関係を持っていた相手本人は、その配偶者との関係では自らも責任を問われる立場にあり、「妻(夫)が怒っているので払ってほしい」という連絡それ自体が、法律上の請求として成り立っているわけではありません。代理人として連絡してきているのであれば、その権限を確かめることになります。
相手本人が先に支払った後は、話が変わる
ただし、相手本人が配偶者へ賠償を済ませた後であれば、分担を求める形で請求が向かうことはあります。この場合は、名目も金額の考え方も、配偶者からの請求とは異なります。分担の割合がどう決まるかについては、求償を扱った記事で整理しています。
請求する側にとっても他人事ではない
この構図は、請求する側から見ても関係があります。ご自身が知らないうちに、配偶者が相手方と金銭の受け渡しを済ませてしまっているという場面があるためです。誰と誰の間で、どういう名目で、いつ支払いがなされたのかは、その後の請求の可否に影響します。この点は、配偶者がすでに支払っている場合の扱いを整理した記事をご覧ください。
慰謝料とは別に動きうる問題
最後に、不貞慰謝料の枠組みとは別のところで問題になりうる事柄を挙げておきます。いずれも慰謝料の話とは切り離して考える必要があります。
- 相手が18歳未満であった場合は、児童買春・児童ポルノ禁止法4条などが問題になる、まったく別のレイヤーの話になります。
- 売春防止法は売春もその相手方となることも禁じていますが(同法3条)、この行為自体に罰則は置かれておらず、罰則は勧誘や周旋といった周辺行為に向けられています。なお、買う側の処罰の是非については法務省に置かれた検討会で議論が続いており、結論は出ていません。
- 支払いを求める際の言動が度を越えた場合には、請求する側のほうが別の責任を問われることがあります。
これらは、慰謝料を払うべきかどうかという問いとは別の軸で判断されるものです。とくに年齢に関わる部分は、ご自身の判断で対応を決めずに、早い段階でご相談いただくことをおすすめします。
よくあるご質問
ご相談の際に多く伺うご質問を3つ挙げます。
食事に行っただけでも慰謝料を請求されることはありますか。
請求そのものは、相手が請求権があると考えれば行うことができます。ただ、食事に同行しただけの関係が不貞行為と評価されることは通常想定しにくく、その場合は、請求が届いたことと支払義務があることは別の問題になります。届いた書面にどう向き合うかについては、慰謝料請求の書面が届いた場合の記事をご覧ください。
相手の本名も住所も知りません。それでも請求されることはありますか。
やり取りに使っていたアプリの表示名しか知らないという状況でも、送金の記録や連絡先から相手が特定され、書面が届くことはあります。逆に、請求する側の立場では、相手の氏名や住所が分からないところから進める方法が問題になります。相手の氏名・住所が分からない場合の対応を扱った記事をご確認ください。
相手が複数いた場合、慰謝料はその人数分になりますか。
同じ配偶者に生じた一つの精神的苦痛について、人数分の金額が積み上がるという仕組みにはなっていません。誰にどこまで請求できるかは、それぞれの関係ごとに判断されます。請求先の選び方については、慰謝料は誰に請求できるのかを扱った記事で整理しています。
まとめ
- 「パパ活」「ママ活」は法律上の区分ではなく、見られるのはその関係の中で実際に何があったかである。
- 既婚なのはどちらか、お金を渡していたのはどちらかという二つの軸の組み合わせで、請求する側と請求される側は入れ替わる。
- 不貞行為は自由な意思に基づく性的関係を指すとされており(最高裁昭和48年11月15日判決)、対価があったことはこの枠組みを外れる理由になりにくい。
- 渡したお金は、相手の配偶者への慰謝料から差し引かれるという関係にはならない。
- 対価という趣旨で渡された金銭は、公序良俗違反として無効とされ(民法90条)、返還を請求できないとされる場合がある(同法708条)。
- 責任には故意または過失が必要であるが(同法709条)、素性を確かめない前提の関係であったこと自体が、過失の判断で不利に働くことがある。
- 関係を持っていた相手本人からの「払ってほしい」という連絡は、それ自体が法律上の請求として成り立っているわけではない。
- 相手が18歳未満であった場合は、児童買春・児童ポルノ禁止法4条など、慰謝料とは別のレイヤーの問題になる。
パパ活・ママ活に関するトラブルでお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。この類型では、お金のやり取りが記録として残っている一方で、相手の素性が分からないままになっていることが多く、ご自身だけで見通しを立てるのが難しい場面が少なくありません。
慰謝料を請求された方は、届いた書面の内容と期限を確認したうえで、支払義務の有無からご相談ください。配偶者の行動を知って請求を検討されている方は、何が残っていて何を求めたいのかを整理するところからお手伝いいたします。どちらのお立場でも、早い段階でご相談いただくほど選べる方法は多くなります。


