【不貞慰謝料】婚姻関係が破綻していたという主張はどこまで通るか
配偶者や交際相手の不貞を疑ったとき、多くの方がまず手にするのが写真や動画です。ホテルの前で撮られた一枚、スマートフォンの中に残っていた画像、旅行先で撮られた短い動画。こうした資料は「決定的な証拠」として語られることが多い一方で、実際の交渉や裁判では「その一枚から何が言えるのか」をめぐって評価が分かれます。この記事では、写真・動画がどこまでを示せて、どこから先は示しきれないのかを、請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。
写真・動画に期待される役割と、実際に果たせる役割
不貞慰謝料の請求では、配偶者以外の相手との性的関係があったことを、請求する側が示していくのが原則です。裁判上の「不貞行為」は配偶者以外の者との性的関係を指すものとされており、最高裁昭和48年11月15日判決も、離婚原因の文脈でこの意味を示しています。
もっとも、性的関係そのものが写った写真や動画が手元にあることは、実務上まれです。多くの場合、手元にあるのは、二人で歩いている場面、建物に出入りする場面、室内で並んで写っている場面といった、行為の周辺を写した資料です。そのため、写っている事実から性的関係があったと読み取れるかどうかという、推し量る作業がどうしても必要になります。
写真・動画の証拠価値は、画面の中に何が写っているかだけでなく、そこから結論までの距離がどれだけ短いかで決まる、と言い換えることができます。この距離が短い資料ほど評価は高くなり、長い資料ほど他の材料との組み合わせが必要になります。
写真や動画は「文書に準ずるもの」として扱われる
民事訴訟法231条は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープなど、情報を表すために作られた物件で文書でないものについて、書証の規定を準用すると定めています。写真や動画は、書面と同じ土俵の上で取り調べられるということです。
そのうえで民事訴訟規則148条は、写真や録音テープ等の証拠調べを申し出るときは、撮影・録音・録画等の対象と、その日時および場所を明らかにしなければならないとしています。実務では撮影者についても記載を求められるのが一般的です。画面に写っている内容だけでなく、「誰が、いつ、どこで、何を撮ったのか」を説明できることが、最初から求められているという点は、意識しておく価値があります。
証拠の種類ごとの序列は別の記事で扱っています
どの種類の資料がどの程度の重みを持つのかという全体像については、証拠力を段階に分けて整理した別の記事で扱っています。この記事は、その中でも写真・動画に固有の性質と限界に絞って掘り下げます。
写真が答えられる問いと、答えきれない問い
一枚の写真は、実は同時に4つの問いに答えることを求められています。どの問いに答えきれていないかによって、返ってくる反論の型が変わり、必要な補強材料も変わります。
| 問い | 写真そのもので答えられる範囲 | 答えきれないときに返ってきやすい反論 |
|---|---|---|
| いつ撮影されたものか | 画面には写らないことが多く、データに記録された情報や周囲の写り込みに頼ることになる | かなり前の写真ではないか、争点になっている時期とは違うのではないか |
| どこで撮影されたものか | 建物名や看板、特徴的な景色が写っていれば示せるが、写り込んでいないことも多い | 別の場所ではないか、その建物だと特定できないのではないか |
| 誰が写っているのか | 正面から鮮明に写っていれば示せるが、後ろ姿・夜間・遠景では難しくなる | 別人ではないか、そもそも本人だと確認できないのではないか |
| その前後に何があったのか | 一枚の静止画では写らない | ごく短時間いただけだ、二人だけではなかった、業務上の同行だった |
4つのうち3つに答えられていても、残りの1つが空白であれば、そこが集中的に争われます。逆に言えば、手元の写真がどの問いに弱いのかを先に見極めておけば、何を足せばよいかが具体的になります。日時が弱いなら他の記録との突き合わせ、場所が弱いなら周辺を含めた別カット、人物が弱いなら別の角度からの資料、といった具合です。
「親密そうに見える」ことと「性的関係があった」ことの間には距離がある
腕を組んでいる、肩を寄せている、手をつないでいるといった場面は、二人の関係が親密であったことを示す材料にはなります。ただし、それだけで性的関係まで認められるとは限りません。この距離を埋めるために、滞在時間の分かる資料や、やり取りの記録などが併せて検討されることになります。
静止画と動画では、限界の出方が違う
写真と動画はまとめて語られがちですが、何を写せるかが違うため、指摘されやすい弱点も違います。
| 観点 | 静止画(写真) | 動画 |
|---|---|---|
| 写せるもの | ある一瞬の状態 | 一定の時間の経過と動き |
| 得意なこと | 距離感、接触の有無、人物の容貌、その場の状況 | 滞在時間、出入りの連続性、態度や会話、周囲の状況の変化 |
| 指摘されやすい弱点 | 前後が分からない、都合のよい一瞬を切り取ったのではないかと言われやすい | 長さや編集の有無を説明する必要があり、途中に切れ目があると連続性を争われやすい |
| 提出のときに求められること | 撮影方向や位置関係が分かる形での整理 | 再生できる形での提出と、要点となる時刻の特定 |
「入ったところ」と「出たところ」は対で意味を持つ
建物への出入りを示す資料では、入る場面だけが残っていても、どれだけの時間そこにいたのかが分かりません。短時間立ち寄っただけだという説明の余地が残ります。出る場面まで押さえられていて初めて、滞在時間という情報が生まれます。実務上も、一定以上の滞在時間があったかどうかは、評価を左右する要素として扱われる傾向があります。
なお、相手方の自宅への出入りの場合は、その時間帯に他の家族がいたかどうかによっても評価が変わり得ます。建物の性質によって、写真から読み取れる意味の重みが変わる点には注意が必要です。
動画は「切れ目」を説明できるかが問われる
動画を細切れに撮っている場合、その間に何があったのかという疑問が残ります。撮影を止めた理由や、前後のつながりを説明できないと、連続していたはずの事実が連続していないものとして扱われることがあります。可能であれば通しで残しておくほうが、後の説明が楽になります。
撮影日時や位置情報はどこまで信用されるか
画像や動画のファイルには、撮影日時、使用機材、設定によっては位置情報といった付随情報が記録されていることがあります。これらは「いつ、どこで」という問いに答えるうえで有力な手がかりになりますが、それだけで日時が確定するわけではありません。次のような事情があるためです。
- 記録される日時は、撮影に使った機器の日時設定に従うため、設定が誤っていればそのまま記録される。
- 編集や変換の過程で、付随情報が書き換えられたり失われたりすることがある。
- 画面のスクリーンショットで保存した場合、記録される日時は元の撮影時ではなく、画面を撮った時になる。
- メッセージアプリやSNSを経由すると、画像が圧縮され、付随情報が削られることがある。
そのため、日時の裏づけは、写真そのものだけで完結させず、別系統の記録と突き合わせておくほうが安定します。やり取りの送受信時刻、交通機関や決済の履歴、勤務に関する記録など、独立して残っている情報と符合していれば、日時への疑問はかなり小さくなります。
画面に日付が写り込んでいれば足りる、というわけでもない
撮影時に日付が焼き込まれる設定にしていた場合でも、その日付は機器の設定に由来します。したがって、それ単体で日時が確定するわけではありません。当日の新聞紙面など、日付が客観的に分かるものを同じ資料の中に写し込んでおく、撮影内容をまとめた書面を作って公証役場で確定日付を得ておくといった方法が取られることもあります。
自分で日付を書き加えたり、加工したりしない
見やすくするつもりで日付を書き足す、明るさ以上の加工を加える、といった行為は、資料全体の信用性を下げる方向に働きます。手を加えた形跡があること自体が、他の資料の見方にまで影響することがあるため、元のデータはそのままの状態で保管し、加工したものを出す場合は加工の内容と理由を説明できるようにしておくのが無難です。撮り方や保存の手順そのものについては、証拠の集め方を扱った別の記事で詳しく整理しています。
写真・動画が、不貞行為の立証以外で働く場面
写真や動画は、性的関係の有無を示すためだけの資料ではありません。同じ一枚が、別の争点で意味を持つことがあります。
- 関係が続いていた期間。季節、服装、背景の違いから、複数の時点にまたがっていたことが読み取れることがある。
- 相手方が誰かの特定。容貌、車両、建物の外観などが、その後の調査の手がかりになることがある。
- 相手が既婚であることを知っていたかどうか。指輪、家族と一緒の場面、自宅の様子などが関係することがある。
- 夫婦関係がすでに壊れていたという反論への対応。同じ時期に家庭内で撮られた写真が、その主張と食い違うことがある。
- 話し合いの場面で、事実関係の共通の土台をつくること。認識のずれを減らす効果がある。
何を証明するために出すのかが変われば、同じ資料でも評価される点が変わります。手元の写真が性的関係の立証には届かないと感じられる場合でも、別の争点では意味を持つことがあります。手放す前に、使い道を一通り検討しておくことをおすすめします。
請求を受けた側から見た写真・動画
写真や動画を示された側から見ると、対応の考え方はメッセージの記録とはかなり異なります。
写っている事実そのものは、否定しても実益が乏しい
その場所にいた、その相手と一緒にいたという事実は、鮮明に写っていれば否定が難しく、無理に否定すると全体の説明の信用性を損ないます。争点になり得るのは、そこから性的関係まで言えるかという距離の部分です。滞在の目的、その場にいた人数、前後の経緯といった、画面に写っていない事情のほうが実質的な争点になります。
「加工されたものだ」という主張は、根拠なく述べても通りにくい
加工を疑う具体的な事情がないまま形式的に争うと、争点が増えるだけで結論が動かないことが多く、かえって不利に働くこともあります。不自然な点があると考えるのであれば、どの箇所がどう不自然なのかを具体的に示す必要があります。
一部だけを示されている可能性がある
交渉の段階では、手持ちの資料の一部だけが示されることがあります。示された範囲だけを前提に判断すると、後から別の資料が出てきて前提が変わることがあります。どの範囲の資料があるのかを確認したうえで対応を決めるほうが安全です。
写真を見せられた場面での応答が、新たな材料になる
その場で認める発言をした、謝罪の文面を送ったといった対応は、それ自体が新しい資料になります。動揺しているときほど、返答の内容が後の評価に影響しやすい点は意識しておく必要があります。
提出する段階で問われること
- 誰が、いつ、どこで、何を撮ったものかを説明できる形にしておく(民事訴訟規則148条)。写真をまとめた報告書の形で整理する方法もある。
- 写真は、撮影方向や周囲との位置関係が分かるように並べる。裁判所によっては、撮影方向を示した図面の添付を求める運用もある。
- 元のデータは、そのままの状態で別の場所にも保管しておく。
- 都合のよい一枚だけを切り出さず、前後の流れが分かる形で示す。
- 動画は、要点となる場面の時刻を特定できるようにしておく。
なお、資料をどのように集めたかという適法性の問題は、これとは別のレイヤーの問題です。相手の機器を無断で操作した、無断で位置情報を取得したといった収集方法の問題は、収集行為そのものの責任として別に検討されます。この点は、証拠収集の注意点を扱った別の記事で整理しています。
よくあるご質問
何年も前の写真しかありません。使えますか
時期が古いこと自体が資料を無意味にするわけではありません。ただし、いつの時点のものかがはっきりしないと、争点になっている時期の事実を示す材料としては弱くなります。また、いつ知ったかによって請求できる期間にも関わってくるため、時期の位置づけは早めに整理しておくほうがよいでしょう。期間の問題については、時効を扱った別の記事をご覧ください。
SNSで公開されている二人の写真は使えますか
公開されている投稿は、入手の方法をめぐる問題が生じにくいという利点があります。一方で、写っている内容は親密さを示す範囲にとどまることが多く、それだけで性的関係まで読み取れる場面は限られます。また、投稿された日と撮影された日が一致するとは限らない点にも注意が必要です。投稿画面と画像の両方を、日時が分かる形で残しておくとよいでしょう。
動画は何分あればよいのでしょうか
長さそのものよりも、何が途切れずに写っているかが問われます。建物に入る場面から出る場面までが同じ日の記録としてつながっていれば、短い区切りの積み重ねでも意味を持ちます。逆に、長い動画でも、決め手になる部分の前後が欠けていれば、その分だけ説明が必要になります。
写真を見せて問い詰めてもよいですか
示す時期は、その後の方針とセットで考えることをおすすめします。早い段階で示すと、残っている他の資料が削除されたり、説明の口裏が整えられたりするおそれがあります。また、資料を第三者に送る、SNSに投稿するといった使い方は、別の責任を生じさせることがあります。この点は、公表をめぐる問題を扱った別の記事で整理しています。
まとめ
- 性的関係そのものが写った資料は実務上まれで、多くは周辺の場面から読み取っていくことになる。
- 一枚の写真は、いつ・どこで・誰が・その前後にという4つの問いを同時に問われ、答えきれない部分が争点になる。
- 静止画は一瞬の状態に強く前後に弱い。動画は時間の経過に強いが、長さと切れ目の説明が求められる。
- 撮影日時や位置情報は有力な手がかりだが、機器の設定や保存の経路によって変わり得るため、別系統の記録と突き合わせておくと安定する。
- 同じ資料でも、期間・相手の特定・故意・関係の状況といった別の争点で意味を持つことがある。
- 請求を受けた側にとっては、写っている事実の否認よりも、そこから性的関係まで言えるかという距離の部分が実質的な争点になる。
写真や動画は、手元にあると強く感じられる一方で、示せる範囲と示せない範囲の見極めが難しい資料でもあります。何が足りていて何が足りないのかは、実際の資料を確認しなければ判断できません。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐるご相談を、請求される方・請求を受けた方の双方からお受けしています。お手元の写真や動画をどう位置づけるべきか迷われている段階でも構いませんので、お早めにご相談ください。


