結婚詐欺に遭ったかも|結婚詐欺の立証と損害賠償請求
「食事だけという条件だったのに、当日になって別のことを求められた」 「次回から増額すると言われて会い続けたのに、結局その話がなくなった」 「先にお手当を渡したのに、聞いていた条件と違っていた」
いわゆるパパ活をめぐるご相談のなかで、意外に多いのが**「約束したお手当」そのものをめぐるトラブル**です。受け取る側からも、渡す側からも寄せられます。
この種の相談では、「約束したのだから守らせられるはずだ」あるいは「口約束だから何の意味もない」といった、どちらかに振り切れた理解をされている方が少なくありません。実際の法的な整理は、その中間にあります。
本コラムでは、お手当の約束を①成立しているか ②法的に有効か ③証明できるかの三つの層に分けて整理し、そのうえで「条件が途中で変わった」場合の考え方をご説明します。なお、以下の内容は男女どちらの立場でも基本的に同じで、いわゆるママ活のように立場が逆の場合にも同じ枠組みで考えられます。
※本コラムは、トラブルに遭われた方が状況を整理するための一般的な情報提供を目的とするものであり、パパ活を推奨するものではありません。
1. 口約束でも「約束」自体は成立しうる
まず前提として、契約は書面がなくても成立します。
民法第522条第2項 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
保証契約など、法律が書面を求めている一部の例外を除けば、申込みと承諾が合致していれば口頭でもメッセージでも合意は成立しうる、というのが原則です。「契約書を交わしていないから、そもそも約束ではない」という言い分は、それだけでは通りません。
ただし、ここで止まってはいけません。成立しうることと、その約束が法的に有効であること、さらにそれを証明できることは、まったく別の問題だからです。パパ活のお手当をめぐるトラブルは、この二つ目と三つ目の層でつまずくことが多いのが実情です。
2. 約束の「中身」によって法的な扱いが変わる
同じ「お手当の約束」でも、何の対価としての約束かによって、法的な評価は大きく分かれます。
性的な関係を伴わない時間の対価
食事に同席する、一緒に出かけるといった時間や役務の対価としての取り決めであれば、それ自体が直ちに社会的に許されない合意とまではいえません。実務上は、一定の負担を伴う贈与(民法第553条)や、有償の準委任契約(民法第643条、第648条、第656条)に準じて考えられる余地があります。
性的な関係を対価とする部分
一方、性的な関係を持つことを対価として金銭を支払う旨の合意については、公序良俗に反して無効と判断される可能性が高いと考えられています。
民法第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
実際には切り分けが難しい
やっかいなのは、現実のやり取りがこの二つを明確に区別しないまま進んでいることです。「今日は食事だけ」「次からは条件を上げて」といった曖昧なやり取りの積み重ねであることが多く、後から「あれは何の対価だったのか」を当事者双方が違うように理解している、というケースが目立ちます。
無効という結論は、双方向に働く
ここで見落とされがちなのが、無効の効果は片方だけに有利には働かないという点です。
- 受け取る側からすると、性的な関係の対価にあたる部分については、未払い分を「払え」と法的に請求することが難しくなります
- 渡した側からしても、すでに交付した金銭については不法な原因に基づく給付として、返還を求めることが難しくなります(民法第708条)
インターネット上には「返す義務はない」とだけ書かれた解説も見かけますが、同じ理屈は「未払いを取り立てられない」という形で自分にも跳ね返ってきます。ここを理解しておかないと、方針を誤ります。
3. 「条件変更」でもめたときの考え方
ご相談として最も多いのが、途中で条件が動いたケースです。類型ごとに整理します。
一方的な変更は原則としてできない
いったん成立した合意の内容を、一方の都合だけで変えることは原則としてできません。条件を変えるには、変更についての合意が改めて必要です。
ただし、そう主張するには前提として**「当初どういう条件だったのか」を示せること**が必要になります。実際の紛争は、ここで止まってしまうことが少なくありません。「変更された」と言うためには、変更前の内容が特定できていなければならないからです。
当日に条件を追加された場合
当初の話になかった条件を当日に持ち出された場合、それに応じる義務はありません。断ったことを理由に、直ちに損害賠償の義務を負うといった関係にもならないのが通常です。
もっとも、その場で断ったことでお手当が支払われなかった、あるいは先に渡した分の返還を求められた、という展開になりがちです。その場合の清算は、結局のところ2で述べた有効性の枠組みに戻って判断されることになります。
「次回から増額する」といった将来の約束
将来についての約束は、金額・回数・時期といった内容が具体的でなければ、拘束力のある合意と評価することが難しくなります。「そのうち」「相性がよければ」といった含みのある言い方は、後から責任を問う根拠としては弱いのが実際です。
月ごと・継続の約束が一方的に打ち切られた場合
継続的な取り決めについても、期間や回数が特定されていない限り、まだ会っていない将来分の支払いを請求することは困難です。「毎月いくら」という話があったというだけでは、その将来分まで確保できるものではありません。
4. 三つ目の層 ―「言った・言わない」を避けるために
有効性の問題をクリアできる部分があったとしても、次に立ちはだかるのが証明の問題です。
パパ活の場面では、アプリやSNSのやり取りが事実上の契約書の役割を果たします。もめたときに意味を持つのは、次の四つが具体的に読み取れるメッセージです。
- 誰と誰の間の話か
- 何をする約束か(会う内容・回数・所要時間)
- いくらか
- いつ支払うか
そして重要なのが、自分からやり取りを消さないことです。関係が壊れると、相手をブロックしたりアカウントを削除したりしたくなりますが、それによって自分に有利な部分の記録まで失われます。相手側がアカウントを消してしまうこともあるため、争いの兆しを感じた段階で、日付が分かる形で画面を保存しておくことをおすすめします。
5. 「請求できるか」の前に、「回収できるか」を見積もる
法的に主張できる部分があったとしても、実際に回収するまでには別のハードルがあります。
- 相手の氏名・住所が分からないと、訴訟を起こすこと自体が難しくなります。弁護士会照会などで特定できる場合もありますが、常に可能というわけではありません
- 少額訴訟という簡易な手続もありますが、対象となるのは請求額60万円以下の場合です(民事訴訟法第368条第1項)
- 裁判手続をとれば、当事者の氏名や経緯が記録として残ります。周囲に知られたくないという事情がある方にとっては、この点が実質的な負担になります
- 請求できる金額に対して、費用と時間が見合わないこともあります
「取れるかどうか」だけでなく、取りに行くコストと副作用まで含めて方針を決めることが、この分野では特に重要になります。
6. 「詐欺」といえるのはどういう場合か
約束が守られなかったというだけで、直ちに詐欺になるわけではありません。刑事責任が問題になるのは、最初から約束を果たすつもりがなかったと評価できる場合です。
- 先にお手当を受け取りながら、当初から会うつもりがなかった場合は、詐欺罪(刑法第246条第1項)が問題になりえます。同罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です(2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されました)
- 役務の提供を受けたうえで支払いを免れる形については、詐欺利得罪(同条第2項)にあたるかが論じられますが、この類型については裁判例の判断が分かれており、成立すると言い切れるものではありません
いずれにせよ、途中で気持ちが変わった、関係を続けられなくなったという事情は、それだけでは詐欺にあたりません。
7. もめたときに避けたい対応
請求する側・される側のどちらにも共通します。
執拗な取り立て・脅し文句は、それ自体が問題になります。 害悪を告げて金銭を要求すれば恐喝罪(刑法第249条・10年以下の拘禁刑)、脅すこと自体が脅迫罪(同第222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)、義務のないことを強いれば強要罪(同第223条・3年以下の拘禁刑)にあたるおそれがあります。仮に請求内容そのものに理由があっても、手段が行き過ぎれば違法と評価されうる点に注意が必要です。
「職場や家族に言う」「SNSに書き込む」も避けてください。 名誉毀損やプライバシー侵害の問題となり、損害賠償を求められる側に回ることがあります。
「警察に言うぞ」と言われて動揺する必要はありません。 成人同士を前提とすれば、売春防止法には売春・買春の行為そのものを処罰する規定は置かれていません(処罰の対象は勧誘・周旋・場所の提供などです)。ただし、相手が18歳未満である可能性がある場合は、まったく別の法律の問題になりますので、自己判断せず弁護士にご確認ください。相手に配偶者がいる場合も、その配偶者からの慰謝料請求という別の問題が生じえます。
8. もめたときの初動
まず行うこと
- 請求・要求の中身を書き出す(誰が、何を根拠に、いくらを、いつまでに)
- アプリ・LINE・振込明細を日付が分かる形で保存する
- 当初の条件と、変更されたと感じる点を時系列で整理する
- 回答期限があっても、その場で結論を出さない
避けたいこと
- その場で「払います」「返します」と答えてしまう(後から覆すのは容易ではありません)
- 一部だけ支払う(義務を認めたと評価されることがあります)
- 感情的なやり取りを続ける
- 記録を自分から削除する、いきなりブロックする
まとめ
お手当の約束は、口頭でも成立しうる一方で、その中身によっては法的に有効な取り決めとは認められません。そして無効という結論は、請求する側にも請求される側にも同じように働きます。「約束したのだから当然に守らせられる」とも、「口約束だから何の意味もない」とも言い切れないのが、この分野の実際です。
条件が途中で変わってもめている場合は、①当初の条件を示せるか、②その部分が有効な取り決めといえるか、③実際に回収まで進められるか、を順に検討していくことになります。ご自身の事案がどこでつまずいているのかは、やり取りの記録を見なければ判断が難しいところです。お一人で結論を出す前に、一度ご相談ください。


