翼システム事件(データベースの創作性)
プロシード国際特許商標事務所の鈴木康介です。
進学塾Aが行なったテストを、進学塾Bがウェブ上で口頭で解説する行為が、進学塾Aの著作権侵害か否かが争われた事件です。
争点1 本件問題は著作物か?
進学塾Bのライブ解説は、テストの終了後に、進学塾Bの担当者等がウェブ上の動画において口頭でその解説をして、問題及び本件解説が画面上に表示されていませんでした。
国語の問題を作成する場合、数多くの作品のうちから問題の題材となる文章を選択します。
また、その文章から設問を作成する際には、文章のどこの部分を取り上げ、どのような内容の設問として構成し、その設問をどのような順序で配置するかについては、出題者が、問題作成に関する進学塾Aの基本方針、最新の入試動向等に基づき、様々な選択肢の中から取捨選択できます。
そこには出題者の個性や思想が発揮されています。
本件問題でも、題材となる作品の選択、文章のうち設問に取り上げる文などの選択、設問の内容、設問の配列・順序について、出題者の個性が発揮され、その素材の選択又は配列に創作性があります。
したがって、本件問題は編集著作物として認められました。
争点2 本件解説は著作物か?
本件解説は、本件問題の各設問について、問題の出題意図、正解を導き出すための留意点等について説明するものです。
各設問について、一定程度の分量の記載がされ、記載内容は、各設問の解説としての性質上、表現の独自性は一定程度制約されていますが、同一の設問に対して、受験者に理解しやすいように説明するための表現方法や説明の流れ等は様々な選択肢があります。
本件解説についても、受験者に理解しやすいように表現や説明の流れが工夫されるなどしており、そこには作成者の個性等が発揮されています。
したがって、本件解説は創作性を有し、言語の著作物に該当します。
争点3 進学塾Bのライブ解説は複製権侵害?
進学塾Bは、複数の進学塾A学習塾の生徒から問題の原本を入手し解説を行っている事実は認めていますが、問題を複製した事実は否認しています。
本件では、進学塾Bが自ら本件問題及び本件解説文を複製したと認めるに足りる証拠はありませんでした。
このため、複製権侵害には該当しませんでした。
争点4 進学塾Bライブ解説は翻案権侵害?
最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決(同平成11年(受)第922号、民集55巻4号837頁)は、言語の著作物に関してであるが、著作物の翻案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為であるとしています。
編集著作物の翻案が行われたといえるためには、素材の選択又は配列に含まれた既存の編集著作物の本質的特徴を直接感得することができるような別の著作物が創作されたといえる必要があるものと考えられます。
本件問題は、題材となる作品の選択や,題材とされる文章のうち設問に取り上げる文又は箇所の選択,設問の内容,設問の配列・順序に作者の個性が現れた編集著作物です。
このような素材の選択及び配列等に、その本質的特徴が現れています。
一方で、ライブ解説は、作成された問題に対する回答者の思考過程や思想内容を表現する言語の著作物であって、このような思考過程や思想内容の表現にその本質的特徴が現れているものです。
編集著作物である本件問題と、言語の著作物である被告ライブ解説とでは、その本質的特徴が異なります。
このため、翻案権侵害には該当しませんでした。
まとめ
この事件では、Web上では、問題文も読んでいませんし、その問題で何を問われ、どう考えれば良いかと講義しているだけなので、複製権や翻案権侵害に該当しませんでした。
一方で、進学塾B側が、問題文を画面上で表示したり、読み上げていたら違った結果になったかもしれません。
<参考>
令和元年(ネ)第10043号
原審 東京地方裁判所平成30年(ワ)第16791号
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弁理士 鈴木康介(特定侵害訴訟代理権付記)
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