遅刻やミスで「罰金」を給与から引いていませんか?【人事トラブル相談室16】

桐生英美

桐生英美

テーマ:人事トラブル

「先生、遅刻が多い社員に罰金を取るのはダメなんですか?」

こういう相談は、実は珍しくありません。

特に中小企業では、昔からの慣習で、

「遅刻1回につき罰金〇円」
「ミスをしたら弁償」
「備品を壊したら給与から引く」
「無断欠勤をしたらペナルティを取る」

といったルールが残っていることがあります。

会社側としては、何かしらのペナルティを設けたくなる場面です。

遅刻を繰り返す。
注意しても改善しない。
同じミスを何度もする。
他の社員からも不満が出ている。

こうなると、社長や上司が、

「少しくらい給与から引かないと、本人も反省しないのではないか」

と考えるのも無理はありません。

ただし、ここはかなり注意が必要です。

会社は、社員の給与から自由に「罰金」を引くことはできません。

「減給の制裁」には上限があります

問題行動をした社員に対して、懲戒処分として給与を減額することを、一般に「減給の制裁」といいます。

この減給の制裁については、労働基準法で上限が決められています。

労働基準法第91条では、就業規則で減給の制裁を定める場合でも、次の範囲を超えてはいけないとされています。

1回の減給額は、平均賃金1日分の半額まで。
複数の減給がある場合でも、1賃金支払期における賃金総額の10分の1まで。

たとえば、月給30万円の社員で、平均賃金1日分が約1万円だとします。

この場合、1回の問題行動に対して減給できる上限は、原則として約5,000円です。
また、同じ月に複数回の減給処分を行う場合でも、その月の減給総額は3万円までということになります。

つまり、

「悪質だから5万円引く」
「何度もミスしたから、今月は10万円引く」
「会社に迷惑をかけたから、給料からまとめて差し引く」

という運用は、かなり危険です。

労働基準法第91条は、就業規則で減給の制裁を定める場合、1回の額は平均賃金1日分の半額を超えてはならず、総額も1賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えてはならないとしています。

そもそも就業規則に根拠がありますか?

ここで見落とされやすいのが、就業規則の定めです。

減給は、会社がその場の判断で自由にできるものではありません。

懲戒処分として減給するのであれば、就業規則に、

どのような行為が懲戒の対象になるのか。
懲戒処分にはどのような種類があるのか。
減給処分を行う場合の限度額はどうなっているのか。
どのような手続きで処分を決めるのか。

こうした内容が定められている必要があります。

「就業規則には詳しく書いていないけれど、本人が悪いのだから引いてよい」

これは通りにくい考え方です。

特に、退職時や労使トラブルになった場面では、本人から、

「給与から勝手に引かれた」
「就業規則にそんな定めはない」
「金額が大きすぎる」

と主張されることがあります。

普段は何も言われなくても、退職後に未払い賃金として問題になることもあります。

遅刻控除と「罰金」は違います

ここは、実務でとても混同されやすいところです。

遅刻・早退・欠勤があった場合に、働いていない時間分の給与を支払わない。
これは、いわゆるノーワーク・ノーペイの考え方です。

たとえば、時給1,500円の社員が1時間遅刻した場合に、1,500円分を控除する。
これは、働いていない時間に対応する賃金を支払わないという整理です。

一方で、次のような運用は別です。

10分遅刻したら罰金3,000円。
遅刻1回につき罰金5,000円。
無断欠勤をしたら、一律1万円を給与から引く。

これは、働いていない時間分を超えて「罰」として差し引いています。

この場合は、単なる勤怠控除ではなく、懲戒処分としての減給制裁にあたる可能性があります。

つまり、遅刻分の控除はできても、遅刻したことへの罰金を自由に設定できるわけではありません。

ここを間違えている会社は少なくありません。

「ミスをしたら罰金」はかなり危ない

さらに注意したいのが、ミスに対する罰金です。

たとえば、次のようなルールです。

「レジの違算が出たら本人が負担する」
「会社の車をこすったら一律3万円」
「クレームを出したら罰金1万円」
「書類ミス1件につき500円」
「備品を壊したら新品代を給与から引く」

会社からすれば、言いたいことはあります。

本人の不注意で損害が出た。
何度注意しても改善しない。
他の社員はきちんとやっている。
だから、本人にも責任を感じてほしい。

この感覚自体は、理解できます。

ただ、給与から罰金のように差し引くとなると、話は別です。

まず、懲戒処分として行うなら、就業規則の根拠と労働基準法第91条の上限が問題になります。

さらに、「ミスをしたら〇円」「会社に損害を与えたら〇円」と、あらかじめ金額を決めておくことは、労働基準法第16条の「賠償予定の禁止」に抵触する可能性があります。

厚生労働省・労働局の資料でも、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約は禁止されていると説明されています。たとえば「途中で辞めたら違約金を払え」「会社に損害を与えたら〇円払え」といった定めは問題になります。

損害賠償を請求できる場合でも、給与から勝手に引いてよいわけではない

ここも誤解されやすいところです。

労働基準法第16条は、あらかじめ損害賠償額を決めておくことを禁止しています。
一方で、現実に社員の責任で損害が発生した場合に、会社が損害賠償を一切請求できないという意味ではありません。

ただし、その場合でも、次の点は慎重に確認する必要があります。

本当に社員に責任があるのか。
故意なのか、重大な過失なのか、通常のミスなのか。
会社側の教育や管理体制に問題はなかったか。
損害額はいくらなのか。
全額を本人に負担させるのが相当なのか。
本人に説明し、合意を得ているのか。

そして、仮に損害賠償の余地がある場合でも、給与から一方的に控除することは別問題です。

賃金には、労働基準法第24条の「全額払いの原則」があります。厚生労働省も、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定期日を定めて支払わなければならないと説明しています。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」でも、労働基準法第24条の全額払いの原則は相殺禁止の趣旨を含み、たとえ使用者が労働者に損害賠償請求権を持っていたとしても、それを賃金と相殺することは問題になると説明されています。

「本人が悪いから給与から引いてよい」

この発想は、実務上かなり危険です。

人事評価による降給とは分けて考える

ここまでの話は、懲戒処分としての減給です。

一方で、人事評価の結果として給与が下がることもあります。

たとえば、

評価制度に基づいて等級が下がる。
役職を外れて、役職手当がなくなる。
職務内容が変わり、職務給が見直される。
賞与評価が低く、賞与額が下がる。

こうしたものは、懲戒処分としての減給とは別に整理されます。

ただし、ここにも注意点があります。

形式上は人事評価でも、実態としては、

「ミスをした罰として給与を下げた」
「社長が腹を立てて基本給を下げた」
「問題行動の直後に説明なく給与を下げた」

という運用になっている場合、減給の制裁と判断される可能性があります。

人事評価として給与を見直すなら、評価基準、賃金規程、本人への説明が必要です。

「評価だから自由に下げられる」という話ではありません。

会社が取るべき対応は「罰金」ではなく、記録と段階的な指導

問題行動をする社員に対して、会社が何もしなくてよいわけではありません。

むしろ、放置する方が危険です。

遅刻を繰り返す社員を放置すれば、まじめに出勤している社員が不満を持ちます。
ミスを繰り返す社員に注意しなければ、周囲の負担が増えます。
ルール違反を見逃せば、職場全体の秩序が崩れます。

ただ、その対応方法が「罰金」になってしまうと、会社側のリスクが大きくなります。

実務上は、次の順番で進める方が安全です。

まず、事実を確認する。
次に、本人に注意・指導を行う。
改善を求めた内容を記録に残す。
必要に応じて、注意書や始末書を作成する。
それでも改善しない場合に、就業規則に基づいて懲戒処分を検討する。

いきなり給与から引くのではありません。

「いつ、何が起きたのか」
「会社は何を注意したのか」
「本人はどう説明したのか」
「改善の機会を与えたのか」

ここを残しておくことが大切です。

処分の強さよりも、手順の丁寧さが会社を守ります。

就業規則で確認したいポイント

自社に罰金のような運用がある場合は、まず次の3点を確認してください。

1つ目は、就業規則に減給処分の定めがあるか。
2つ目は、減給額が労働基準法第91条の上限を超えていないか。
3つ目は、給与から一方的に控除する運用になっていないか。

この3つのどれかが崩れていると、会社側のリスクが高くなります。

特に古い就業規則では、

「会社に損害を与えた場合は、その全額を弁償させる」
「遅刻・早退・無断欠勤については、会社が定める罰金を徴収する」
「退職時に引継ぎをしない場合は違約金を支払う」

といった規定が残っていることがあります。

こうした規定は、そのまま使うと問題になる可能性があります。

確認が必要です。

まとめ:罰金で縛るより、ルールと手順で整える

罰金で社員を縛る会社は、短期的には効果があるように見えるかもしれません。

でも、トラブルになったときに弱いのは会社側です。

本当に必要なのは、「いくら引くか」ではありません。

どの行為を問題とするのか。
どの段階で注意するのか。
改善しない場合に、どの処分を検討するのか。
給与から控除してよいものと、控除してはいけないものを分けているか。

この流れを決めておくことです。

「昔から罰金のような運用をしている」
「就業規則には書いてあるが、金額が合っているか不安」
「問題社員への対応として減給を考えている」
「ミスによる損害を給与から引いてよいのか迷っている」

こうした場合は、処分を決める前に一度確認した方が安全です。

減給や給与控除は、あとから修正しにくい分野です。
会社を守るためにも、就業規則と実際の運用をセットで点検しておくことをおすすめします。

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桐生英美
専門家

桐生英美(社会保険労務士)

日本経営サポート株式会社

民間企業での人事経験25年、社労士登録30年。労基署対応、労務トラブル対応など、現場実務を中心に支援してきました。経営と法令のバランスを考え、実務としてどう整えるかを経営者と伴走する社労士です。

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