入居者高齢化の賃貸マンションを相続|契約書整備と孤立死対策の実例

菊池浩史

菊池浩史

テーマ:空き家と住まいの終活

築50年近くになる賃貸マンションを相続したが、入居者のなかには一人暮らしの高齢者もいらっしゃる。家賃は近くの似た物件より安いようだけれど、上げてよいものかも分からない…。

先日、こういった状態でご相談にこられたオーナーの方がいらっしゃいました。不安も危機感もあるけれど、誰に何をどう相談すればよいのかが分からない。ご自身も高齢でいらっしゃるため、早く方向性を決めたいというお気持ちが強く、暗中模索という言葉がそのまま当てはまるご様子でした。

相続した賃貸マンションの悩みは、たいてい一つでは済みません。この方も、契約書、入居者の高齢化、家賃の水準、住戸のリノベーション、そして建物そのものの将来と、いくつもの課題を同時に抱えておられました。今回は、そのなかで私が最初に手をつけた一点と、なぜそこからはじめたのかについて、実例をもとにお伝えしていきます。。

賃貸マンションを相続したが、相談相手がいなかった
実はこの方が最初に話されたのは、建物のことでも家賃のことでもなく、これまで相談できる相手がいなかった、ということでした。

不動産の悩みは、内容によって相談先が変わります。法律のことは弁護士、登記は司法書士、税金は税理士、売買や仲介は不動産会社など、それぞれに専門家がいるのが基本形です。

ところが、賃貸マンションを相続したオーナーの悩みは、この区分けにきれいには収まりません。契約書、入居者との関係、建物の傷み、将来の選択肢。どれも絡み合っていて、どこから誰に持ち込めばよいのかが見えなくなる。ここでつまずく方が少なくありません。

この方が私にお声をかけてくださった理由は、特定の会社の立場に立たない第三者であること、客観的に見ること、そして不動産だけでなくその周辺まで視野に入れていること。このあたりを見ていただけたのではないかと推察しています。

私はこうした関わり方を伴走支援と呼んでいます。伴走支援とは、答えを一方的に示すのではなく、ご依頼者と同じ方向を向き、一緒に道を歩みながら課題を解決していく関わり方のことです。

急がせない、置き去りにしない、ご本人のペースで隣を歩くように支える。相続した不動産の整理は、この進め方でなければ前に進まない場面が多くあります。

どんな順番で、誰に相談しながら進めるかについては、別のコラムでも触れています(https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/column/5228385/)。

契約書のない入居者と、関係を結び直す
いくつもある課題のうち、私が最初に置いたのは賃貸借契約書の整備でした。

確認を進めていくと、一部の入居者との間で、賃貸借契約書の存在が確認できませんでした。長くお住まいの方ほど、こうしたことが起こります。家賃は毎月入ってきますので、表面上は何も問題がないように見えてしまいます。

けれども、契約書がないということは、退去のとき、修繕のとき、そして万一のときに、何を根拠に話をするのかが決まっていないということです。平時には見えず、有事に一気に噴き出す。私が契約書の整備を最初に置いたのは、この性質があるからです。

家賃の見直しも住戸のリノベーションも、契約という土台があってはじめて動かせます。順番を逆にすると、話がこじれたときに戻る場所がなくなってしまう、私はそう考えています。

そこでオーナーの方とご一緒に条件を一つずつ整理し、契約書のない入居者との間で、新たに賃貸借契約書を取り交わしました。あわせて、必要な事項は覚書という形で残しています。

長く住んでこられた方にとっては、いまさら契約書か、と感じられる話でもあります。それでも、書面があることは入居者ご自身の守りにもなります。そのことをお伝えしながら一戸ずつ進めていきました。

孤立死に備える条項を、どう書き、どう伝えるか
このケースでオーナーの方がとくに気にしておられたのが、お一人暮らしの高齢入居者の孤立死でした。

そこで、単身高齢の入居者との賃貸借契約書には、孤立死への対応に関する条項を盛り込みました。連絡等がつかない場合にオーナーが室内に立ち入れる権限、万一孤立死が発生した場合の残置物の処分権限など、細かく、丁寧に書き込んでいます。

ここが、今回いちばん頭を使ったところです。オーナーのリスクを抑えるには、書き込まなければならない事柄があります。一方で、その条項を読むのは高齢の入居者ご本人です。読んで正しく理解でき、しかも不安にさせない書き方でなければ、ご署名はいただけません。

一見すると相反するこの二つを、どう両立させるか。私は、言葉を平易にすること、そして条項の意図を対面で説明することの二つで越えました。何のためにこの一文があるのかが伝われば、受け止め方は変わってきます。

契約書とあわせて、賃貸マンションの火災保険に、孤立死に備える保険を付保しました。備えは、書面と保険の両方がそろってようやく形になります。なお、この種の保険は名称も補償の範囲も引受先によって異なりますので、ご加入の際は個別にご確認ください。

私はUR賃貸住宅の管理運営に三十年近く携わり、その後に有料老人ホームの管理運営も経験しました。高齢期の住まいにどんな配慮が要るのかを、実感を伴って考えられることが、こうした場面では役に立っていると感じます。

この先三十年を見据えた、維持管理の順番
結果として、賃貸借契約書と関連する覚書の締結、そして孤立死に備える保険の付保まで、無事に終えることができました。

オーナーの方からは、懸案事項の一つが片づいて一安心された、一筋の光が差し込んだ、というお礼の言葉をいただきました。長いあいだお一人で抱えてこられたのだと思うと、この一言は私にとっても重いものでした。

とはいえ、ここで終わりではありません。この賃貸マンションを、これから三十年維持していきたいというのがオーナーの方の願いです。次は中期的な視点から、建物の維持管理をどういう方向で進めるかを、ご一緒に考えていく予定にしています。

家賃の水準も、住戸のリノベーションをいつ行うかも、賃貸マンションの将来の選択肢も、課題としてはまだ残っています。ただ、契約という土台が整った今となっては、どれも腰を据えて検討できます。

相続などで建物の老朽化と入居者の高齢化が同時に進んでいる賃貸マンションのオーナーの皆さまに、お伝えしたいことがあります。今の課題をそのままにしておくと、深刻さが増し、解決に要するコストも上がっていきます。

分からないことばかりで当然だと思います。どうか専門家の助言などを得ながら、課題の解決に向けた一歩を踏み出してください。その一歩は、思っておられるよりずっと小さくて構いません。

まとめ
相続した賃貸マンションの課題は、一度にすべてを片づけようとせず、土台になるものから順に手をつけていくことで、前に進みやすくなると私は考えています。契約という足場が整えば、その先の判断はぐんと落ち着いて行えるようになります。

・賃貸マンションを相続したが、何から進めればよいか分からない方
・入居者の高齢化を受けて、契約や備えを整え直したい方
・老朽化した賃貸マンションの維持管理を、長期の視点で考えたい方

住まいの消費者教育研究所は、関西を拠点に全国からのご相談に対応しています。不動産鑑定士として、また住まいのセカンドオピニオンとして、相続した賃貸マンションの課題整理から、その先の伴走支援まで、隣を歩くようにお手伝いしますので、まずはお気軽にご相談ください。

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菊池浩史

住まいの消費者教育研究所

住まいにまつわるビジネス経験や、不動産鑑定士としての専門的知見を活かし、顧客ファーストで「住まい教育」を普及・実践。住まい選びやメンテナンス、そして家仕舞いまで、ワンストップでトータルサポートします。

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