「シニアの住まい研究所」から「住まいの消費者教育研究所」へ
「管理会社から、来年度の管理委託費を上げたいと言われました。断ったらどうなるのでしょうか」。ここ最近、こうしたご相談が続いています。総会の議案書を手にしながら、困った表情で切り出される方が少なくありません。
私がマンション管理の見直しについてご相談をお受けするとき、値上げの是非より先に「このマンションは、これからどんな管理体制を選ぶのか」を一緒に考えるようにしています。金額の話だけで終えると、数年後にまた同じ場面が訪れるからです。
【管理委託費の値上げが相次ぐ背景】
実はこの値上げ、管理会社の都合だけで起きているわけではありません。建築費や人件費の上昇に加え、建設業界の労働時間の規制、いわゆる2024年問題の影響が、管理の現場にも及んでいます。
値上げそのものが不当だ、という話ではありません。原価が上がれば委託費に反映されるのは自然なことです。問題は、その先にある管理費の値上げを、管理組合がどう受け止め、どう判断するかです。
その結果、管理会社から管理組合へ委託費の値上げを求める動きが広がり、管理費の値上げを余儀なくされるマンションが増えています。私のところに届くご相談の中身もこの一・二年で明らかに変わりました。
見過ごせないのは、管理組合が値上げを受け入れない場合に、管理会社の側から委託契約を解除するケースも見られることです。管理を委託できる先が当たり前にある、という前提が崩れつつあると感じています。
【値上げを受け入れる以外の選択肢】
「値上げを飲むか、断るか」の二択で考えておられる方は意外と多いように思います。ただ実際には、その間にいくつもの道があります。
管理会社をリプレースする管理組合もあれば、全部委託方式を見直して一部を自主管理に切り替えたり、業務ごとに委託先を分ける分割発注に踏み出したりする事例も出てきました。分割発注とは、管理業務を一社にまとめず、業務の種類ごとに委託先を分けて発注する方式のことです。
これまで管理組合の多くは、「管理会社に任せているから大丈夫、大切なのはどの管理会社を選ぶかだ」という意識が強かったように思います。これからは、どのような管理体制を選び、どういった居住空間と暮らしを実現するのかという戦略が求められてきます。
私は、管理会社を選ぶ前に、管理体制をどう設計するかを先に考えるべきだと思っています。体制が定まらないまま会社だけを入れ替えても、数年後に同じ交渉を繰り返すことになりやすいからです。手間はかかりますが、遠回りではありません。
管理会社の側から見れば、管理組合を選ぶと同時に、これまで以上に選ばれる立場にもなります。この関係の変化を管理組合が理解しておくことが、交渉の入り口になると考えています。
【加速する「二つの老い」と広がる無関心】
マンション管理の課題として、二つの老いという言葉は以前から使われてきました。二つの老いとは、入居者の高齢化と建物の老朽化が同時に進んでいくことを指します。
肌感覚ですが、ここ数年その進行は加速しています。あわせて、管理に無関心な区分所有者も増えました。総会などで問題提起や提案をしても反応がなく、糠に釘を打っているようだと無力感を口にされる相談者が、確実に増えています。
この状態を放置すると、管理不全が負の連鎖を招きます。つまり、所有者の分からない住戸や管理の行き届かない住戸が増え、管理組合は機能不全に陥り、マンションのガバナンスが麻痺していくのです。
さらにその影響は、建物の中だけにとどまりません。適切な管理が行われていなければ、地域社会のイメージにも及びます。マンションは私有財産の集合体であると同時に、社会的な存在でもある。私がこの仕事で最も強く意識しているのは、その二面性です。
【3年後に積立金がマイナスになる計画】
先日、都市部にある築30年ほどの駅近マンションで、通常総会を前に区分所有者の方からご相談をお受けしました。当社に寄せられた一例として、ご本人が特定されない範囲でご紹介します。
一つ目の相談は修繕積立金についてです。現行の大規模修繕計画と積立金のままでは、3年後に残高がマイナスになる計画になっている。それにもかかわらず理事会では計画の見直しも値上げの議論も行われず、危機感が共有されていない、というご相談でした。
お伝えしたのは二点です。ひとつは、現在の積立金の平米単価が、国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(2024年6月改訂)の示す水準を大きく下回っており、しかるべき値上げが必要な状態にあることです。
もうひとつは、その修繕計画が標準的な周期をそのまま落とし込んだもので、このマンションの事情や個別性が反映されていないことです。私が最初に確認するのは積立金の額そのものではなく、前提となる修繕計画が自分たちの建物の実態を映しているかどうかです。順序を逆にすると、値上げの根拠を説明できなくなります。
外部貸しで生じる責任の所在
二つ目のご相談は、共用施設であるタワーパーキングの外部貸しについてでした。空きがあるため外部に貸すことになったが、事故が起きた場合の管理組合・管理会社・外部利用者の責任区分が不明で、最後はすべて管理組合に降りかかってくるのではないか、というご心配です。
これは工作物責任の問題になります。工作物責任とは、建物や設備といった土地の工作物の設置または保存に不備があり、他人に損害が生じた場合に、その占有者や所有者が負う責任のことです。最終的には管理組合が所有者としての責任を負います。
だからこそ、その前に賃貸借契約などの内容を確認し、それぞれの責任範囲を関係者が共有しておくことが欠かせません。貸し出しを決める前に手を打っておくべきことは、意外と多いのです。
責任の所在があいまいなまま運用が始まると、何かが起きたときに管理組合が矢面に立ちます。私が真っ先に見るのは、契約書に責任範囲がどう書かれているかの一点です。
【一人の区分所有者として、できること】
三つ目のご相談は、提案をしても無関心の方が多く、言いっ放し、聞きっ放しになってしまうというものでした。これについては、正直にお答えしています。根が深い問題で一朝一夕には解消しないこと、そして今、一人の区分所有者としてできることには限界があることです。
私の答えは、相談者が期待された答えではなかったかもしれません。それでも、できることを大きく見せても、その場しのぎにしかなりません。管理のあり方の見直しは、共有財産であるがゆえに簡単には進まないのが実情です。
中には、管理への意識が高いリーダーがいて、そのリーダーシップに支えられながら改善に取り組み、一定の成果を上げている管理組合もあります。ただ、そうした方が見当たらない場合、話は容易には前に進みません。
そのうえで、私がその方にご提案したのは二つでした。総会の前に、質問状を理事会へ送っておくこと。提案した内容とそれに対する回答を、総会議事録に記録として残しておくことです。
地味に思われるかもしれませんが、一人ひとりがアクションを起こし、記録に残し、蓄積していくことが、次に動く誰かの足場になります。その積み重ねが変化につながる可能性があると、私は考えています。
【多様化する所有者と、これからの合意形成】
タワーマンションを含め、マンションの入居者は増え続けています。外国籍の区分所有者、収益物件として取得し入居を目的としない区分所有者など、属性も価値観も居住形態も多様になりました。
2026年4月には改正区分所有法が施行されました。制度は前に進みましたが、それでも合意形成のハードルは高くなっていくと予測しています。所有者の顔ぶれが多様になるほど、決議までの道のりは長くなるからです。
だからこそ、第三者管理方式を含め、外部の専門家の支援がますます求められてくると考えています。ただし、これにも前提があります。区分所有者自身がその必要性を認識していること、ここが抜けたまま外部に委ねても機能しません。
それに向けた啓発活動を、住まいの消費者教育研究所では「大人の住まい教育」と呼んでいます。大人の住まい教育とは、住まいの維持管理や合意形成の進め方について、所有者になった大人が学び直す機会をつくる取り組みのことです。学びを促す仕掛けづくりも、本気で考える時期に来たと感じています。
住まいの終活や空き家の考え方は、コラム一覧でも紹介しています。
https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/column/
値上げの通知や総会の議案書は、できれば見たくない知らせかもしれません。それでも私は、それが自分たちのマンション管理を見直す入り口になると考えています。
【まとめ】
マンション管理は、一人の行動と、それを残した記録の積み重ねから変えていけるものだと私は考えています。
・管理会社から管理委託費の値上げを提示され、判断に迷っている方
・修繕積立金や長期修繕計画が今のままでよいのか不安な方
・総会で提案しても反応がなく、次の一手を探している方
住まいの消費者教育研究所では、消費者の立場に寄り添うセカンドオピニオンとして、「大人の住まい教育」の考え方をもとにご相談をお受けしています。判断に迷う段階でも構いません。まずはお気軽にご相談ください。


