遠方の空き家|行政の改善指導から始まった、家仕舞いの実例

菊池浩史

菊池浩史

テーマ:空き家と住まいの終活

「実家は、もう三十年ほど見に行っていません」。そうおっしゃる方に、私はときどきお会いします。遠方の空き家をお持ちの方にとって、ご実家は気にはなっているけれど、なかなか手が届かない場所になっているのだと思います。

先日、ようやくひと区切りがついたご相談がありました。大阪にお住まいで、九州のある県庁所在地の郊外にご実家をお持ちの方です。そのご実家が、三十年近く空き家のまま置かれていました。

動き出すきっかけは、ご本人の決心ではありませんでした。ご実家のある自治体から、空家等対策の推進に関する特別措置法にもとづいて「蔦を伐採するように」という改善指導が届いたことでした。

蔦に覆われた実家に、改善指導が届いた
実はこのとき、ご相談者ご自身も、ご実家がどんな状態になっているのかをご存じではありませんでした。

三十年近く現地に足を運んでおられなかったのですから、無理もありません。私がうかがった時点では、蔦が建物全体を覆い、外からは家の姿がほとんど見えないほどになっていました。指導の文面を読んでも、何がどこまで求められているのか実感としてつかめない、といったご様子でした。

また、土地の形状にも事情がありました。前面道路との間に高低差があり、しかも敷地のなかにも段差がある。使い勝手が良いとは言いにくい形です。この点は、のちに売却を考える段階になって影響がでてきます。

家仕舞いとは、住まなくなった家を、管理・活用・処分のいずれかの形で整理し、次の持ち主や地域へ引き継ぐまでの一連の作業のことですが、この件のようにご相談の入口が自治体からの指導であっても、実際に取りかかるのは、この家仕舞いそのものです。

ここで一つ、申し上げておきたいことがあります。指導が届いてから動き出す方は、決して珍しくないのですが、私はこの指導を「困りごとの始まり」ではなく、先送りにしてきたことの請求書が届いた瞬間だと受け止めています。だからこそ、指導への対応だけで終わらせない設計が要ると考えています。

除草か、解体か、売却か。順序をどう決めるか
この段階でご相談者が抱えておられた一番の障害は、実は蔦でも段差でもありませんでした。距離です。
ご実家が遠方にあるため、気軽に何度も出向くことができない。出向いたときには、業者との打ち合わせも現地の確認も、まとめて済ませなければならない。この制約が、進め方のすべてを決めていきます。

選択肢は三つありました。指導の内容に従って除草だけを行うか、古家の解体撤去まで進めるか、あるいは売却まで見据えるか。そして、どれを選んでも「現場で動く業者をどう選ぶか」という問題が残ります。

私が最初に確認するのは、制度でも相場でもなく、ご本人の意向です。どこまでやりたいのか、何を優先するのか、どんな順序で進めたいのか。この三つをうかがわないまま段取りを組むと、途中で行き先を見失いやすくなります。

このケースでは、除草にとどめず、建物の解体撤去を優先して実施する方針としました。除草だけでも指導への対応にはなりますが、蔦は季節が巡ればまた伸びてきます。遠方にお住まいの方が、そのたびに出向くことは現実的ではないと考えたからです。

除草か解体かで迷っておられる方には、私は「年に何回、現地に行けそうですか」とお尋ねするようにしています。年に一度も行けないのであれば、繰り返しの管理を前提にした選択は、負担が積み上がっていきます。ここが、私なりの判断の分かれ目です。

相続した不動産をどんな順番で整理していくかについては、別のコラムでも実例をご紹介していますので、詳しくはこちらをご覧ください(https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/column/5228385/)。

一社にまとめたいというご意向をどう扱ったか
ここからが、このケースでいちばん頭を使ったところです。
通常であれば、除草、解体、売却と、工程ごとにコスト面や実績で優位な業者を選びます。工程ごとに選び直したほうが、条件は整いやすい。これが一般的な進め方です。

ところが、このご相談者は「できれば一つの業者にまとめてお願いしたい」というお気持ちをお持ちでした。遠方にお住まいで、何度も現地に行けない方にとっては、窓口が増えることそのものが負担になるのです。

工程ごとに最適な相手を選ぶか、窓口を一つに寄せるか。ここは専門家のあいだでも判断が分かれるところだと思います。私は、遠方の空き家については、条件面での有利さよりも、ご本人が抱える手間と気疲れを軽くするほうを優先してよい場面がある、と考えています。今回も、そのご意向に最大限の配慮をしながら進めました。

実際、解体を担当した業者が不動産業も営んでいたため、そのまま売却までお願いできないかと打診しました。しかし、こちらは断られてしまいました。そこで、改めて不動産業者の選定作業に取りかかることになりました。

こうした場面で、私が特定の業者の側に立っていないことは、意味を持つと思っています。住まいの消費者教育研究所は、住まいの終活のご相談において、消費者エージェントであり、住まいのセカンドオピニオンであることを大切にしています。どの業者が良いかを決めるのではなく、ご本人が選べるように材料を並べる。第三者性への期待に応えるとは、そういうことだと考えています。

遠方の空き家ほど、着手の早さが効いてくる
取りかかりはじめて、かれこれ二年経過し、ようやく処分することができました。
長くかかったと感じられるかもしれません。蔦の除去から解体、そして業者の選び直しを経ての売却です。遠方であるがゆえに、工程ごとに「次に現地へ行ける日」を待つ必要がありました。かかる期間は、建物の状態や立地、ご本人の事情によって変わります。

すべてが終わったとき、ご相談者は、長年の懸案が整理できて肩の荷が下りた、と安堵しておられました。「安心して相談できる方がいてよかった」。そうおっしゃっていただいたことが、私にはいちばん印象に残っています。

全国の空き家は900万戸、空き家率は13.8%で、いずれも調査開始以来最多です(出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」、2023年調査・2024年発表)。

これから、遠方の空き家をお持ちの方はさらに増えていくのではないかと、私は考えています。ご自身は都市部で暮らし、ご実家は生まれ育った土地にある。ごく普通の家族の形が、そのまま空き家の予備軍になります。

遠方の空き家は、管理にどうしてもコストがかかります。交通費も時間も要りますから、後回しになりがちです。しかし、だからこそできるだけ早く着手されたほうが、結果として手間もコストも抑えやすくなると、私は実務のなかで感じています。

地元に頼れる方がいない場合は、交通費などとの兼ね合いを考えたうえで、地元の業者に管理を委託するのも一案です。市場性が低い空き家の扱いについては、こちらでも触れています(https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/column/5133767/)。

今回のご相談者が私を選んでくださった理由は、特別なものではなかったと思います。インターネットで見ていただいた消費者向けコンサルティングの実績、これまで重ねてきた短時間のスポット相談でのやりとり、そして、どこの業者の側にも立たない第三者であること。この三つだったと受け止めています。

大阪府三島郡島本町を拠点とする住まいの消費者教育研究所では、住まいの終活のご相談に一人ひとり伴走しています。

伴走支援とは、答えを一方的にお示しするのではなく、ご依頼者と同じ方向を向いて、一緒に道を歩みながら課題を解決していく関わり方のことです。遠方の空き家のことで迷っておられるなら、まずはお気軽にご相談ください。

まとめ
遠方の空き家は、距離そのものが最も大きなコストです。だからこそ、指導を待たずに動き出せた方から順に、抱える負担は軽くなっていくのだと私は思っています。

・遠方にご実家があり、何年も現地を見ていない方
・自治体から改善指導が届き、何から手をつければよいか迷っている方
・除草/解体/売却のどれを選ぶべきか、判断がつかない方

ご相談はお問い合わせフォームより、お待ちしております。
https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/inquiry/personal/

\プロのサービスをここから予約・申込みできます/

菊池浩史プロのサービスメニューを見る

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

菊池浩史
専門家

菊池浩史

住まいの消費者教育研究所

住まいにまつわるビジネス経験や、不動産鑑定士としての専門的知見を活かし、顧客ファーストで「住まい教育」を普及・実践。住まい選びやメンテナンス、そして家仕舞いまで、ワンストップでトータルサポートします。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

「住まい×消費者×教育」のハイブリッドを目指す専門家

菊池浩史プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼