遠方の空き家|行政の改善指導から始まった、家仕舞いの実例
再建築できないと言われた実家をどう活かすか
首都圏のある政令指定都市に実家を残したまま、離れて暮らしている60代の女性からご相談をいただきました。実家は亡くなった親から相続したもので、女性はこの家を建て替え、建物の一部を地域に開放できるスペースにしたいという思いを持っていました。
ところが、知り合いの工務店に相談したところ、この土地は建築基準法上の道路に接していないため、再建築ができないと告げられたのです。もし本当に再建築ができないのであれば、実家をそのまま活用する道は閉ざされ、資産価値も大きく下がってしまいます。
先祖代々受け継がれてきた土地を、望まない形で手放さざるを得ないのではないかという不安が、女性の中で日に日に大きくなっていきました。私のところにご相談が来たのは、そうした状況の中でのことでした。
女性はインターネットで接道に関する専門家を探しており、マイベストプロに掲載していた私のコラムの中から、接道問題を取り上げたものを見つけて連絡をくださいました。
同じ立場の方であれば、どこに相談すればよいのか分からず、時間だけが過ぎてしまうことも少なくないと思います。実家が遠方にあると、現地に足を運ぶこと自体が難しく、状況を正確に把握できないまま不安だけが募っていく方も多いのではないでしょうか。
女性のお話を伺いながら、私はまず土地の権利関係と、これまでの経緯を一つずつ整理することから始めました。相続の経緯や、これまでのやり取りを丁寧にお聞きすることが、その後の調査の土台になると考えたからです。
接道条件を確認するために最初に行ったこと
ご相談を受けてまず私が取り組んだのは、工務店が伝えた「再建築ができない」という判断が本当に正しいのかを確認することでした。
接道の扱いは全国一律の基準で決まるわけではなく、自治体ごとに指導要綱や運用基準が定められています。そこで私は、女性の実家が所在する川崎市の指導要綱を取り寄せ、条文を一つずつ読み込んでいきました。
不動産鑑定士や宅地建物取引士として土地の権利関係や規制を確認してきた経験は、こうした個別の条文を丁寧に読み解く際にも役立っています。
調べていく中で、当該地は一定の条件を満たせば再建築が可能になる旨の記載があることに気づきました。工務店の判断が誤りだったわけではなく、条件付きで道が開ける可能性を見落としていたということです。
ただし、指導要綱の記載だけで最終的な判断を下すことはできません。実際に再建築ができるかどうかは、最終的に自治体の担当窓口で確認する必要があります。
私はこの点を女性に正直に伝え、可能性はあるものの断定はできないという状況を共有したうえで、次の対応へと進みました。
期待を持たせすぎることも、逆に早々にあきらめさせてしまうことも、どちらも望ましくありません。分かっていることと、まだ確認できていないことを分けて伝えるよう心がけました。こうした丁寧な情報整理の積み重ねが、後の市役所での協議にもつながっていきました。
川崎市役所に同行し、可能性を一つずつ確かめた
指導要綱を読み込んだだけでは、実務の窓口でどう扱われるかまでは分かりません。そこで私は女性とともに川崎市役所へ足を運び、担当窓口で状況を説明しました。持参した資料をもとに、土地の接道状況と指導要綱の該当箇所を照らし合わせながら、一つずつ質問を重ねていきました。
窓口でのやり取りは一度では終わらず、後日、市から指導要綱に基づき制約はあるものの再建築が可能であるという連絡をいただきました。この結果を受けて、私は再び女性に同行し、今度は設計事務所も交えて市役所で協議を行いました。
図面の方向性を検討しながら、行政の立場と女性の希望をすり合わせていく作業です。窓口で直接確認するという手間のかかるプロセスを踏んだからこそ、書類だけでは見えてこなかった運用の実態をつかむことができたと感じています。
専門家一人で判断を下すのではなく、行政の窓口と対話を重ねながら進めることの重要性を、私はこの案件を通じて改めて実感しました。資料を送るだけでは伝わりにくい細かな事情も、直接顔を合わせて説明することで担当者に理解してもらいやすくなったと感じています。
同行した女性自身も、行政の担当者と直接言葉を交わすことで、状況が少しずつ前に進んでいく実感を持てたようでした。
設計事務所と共に進めた再建築プランと、実現した結果
市役所での協議を経て、実家の再建築に向けたプランづくりが本格的に動き出しました。女性が当初から希望していた、建物の一部を地域に開放するスペースとして活用するという構想も、行政との調整を重ねながら形にしていきました。
最終的に、女性が望んでいたプランを実現できる見通しが立ち、先祖代々の土地を手放すことなく活用する道が開けました。女性からは、一度はあきらめかけていた実家を手放さずに済み、有効に活用できたことへの安堵の言葉をいただきました。
今回のケースは、接道という条件が建物の再建築の可否、ひいては資産価値そのものに直結する重要なポイントであることを改めて示しています。同時に、自治体ごとに運用が異なるため、指導要綱を含めてどのように扱われているかを丁寧に確認する作業が欠かせないことも実感しました。
個人の希望を実現するだけでなく、地域に開かれたスペースが生まれたことも、この案件に携わった意義の一つだと感じています。一つの相続空き家が、所有者本人の安心だけでなく、周囲の暮らしにもつながる形で活かされたことは、私にとっても印象深い経験になりました。
相談を受けた当初は解決の糸口が見えなかっただけに、最終的な結果を女性と一緒に喜べたことをよく覚えています。
同じような悩みを抱える方へ
不動産業者や建築業者であっても、接道に関する運用の細部まですべてを正しく理解しているとは限りません。今回のように、最初に相談した先での判断がすべてではなく、自治体への確認を通じて状況が変わることもあります。
実家や相続した土地の再建築について困難だと告げられた場合でも、その判断だけで手放す決断をする前に、自治体の指導要綱や運用の実態を確認する余地がないか検討していただきたいと思います。
空き家や相続した土地の利活用は、接道をはじめとする条件によって複雑になりがちですが、簡単にあきらめないことが道を開く第一歩になります。そのためには、抱えている課題にきちんと向き合ってくれる相談先を見つけることが重要です。
自分の状況に近い実例を発信している相談先を探すことも、有効な選択肢の一つだと考えています。接道の問題は、土地ごとに事情が異なり、一般論だけでは判断できないことがほとんどです。だからこそ、実際の土地の状況を踏まえて自治体と丁寧にやり取りできる相談先を選ぶことが、納得のいく結論にたどり着く近道になると私は考えています。
まとめ
接道条件は建物の再建築や資産価値に直結する重要な要素であり、あきらめる前に自治体への確認を含めた丁寧な調査を行うことが、土地を活かす道につながると考えています。
・相続した実家や土地が再建築できるか分からず不安を感じている方
・接道条件を理由に土地の活用をあきらめかけている方
・空き家をどう扱うべきか、地域貢献も含めて検討したい方
お問い合わせはこちら:https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/


