遠方の空き家|行政の改善指導から始まった、家仕舞いの実例
相続した実家を売らずに貸し、いずれ家族の誰かが住むまでの間は空き家にせず賃貸として活かしたい。そういったケースもあります。
先日ご相談をいただいたのは、お母さまがお一人で暮らしていた実家を相続された、70代の方でした。2階建ての戸建てです。将来はご自身の息子さんが住む予定であり、それまでの間をどう活かすかを考えておられました。
どこまでリフォームすればよいのか。戸建ての賃貸に借り手はいるのか。家賃はいくらにして、入居後の管理は誰がどう担うのか。不動産会社はどこに頼めばよいのか。迷いは一つではなく、いくつも重なっていました。
このコラムでは、私が実際に伴走したこのケースをたどりながら、貸し出すまでに何をどの順番で決めていったのかをお伝えします。
【実家を貸すと決めた後に立ち止まる理由】
この方が最も困っておられたのは、「どこの不動産会社に仲介をお願いすればいいのか、その選び方が分からない」という点でした。
しかも、ただ紹介してほしいというご依頼ではありません。業者に頼むにしても、自分自身の考えや方針を持ったうえで頼みたい。そのお気持ちがとても強い方だったのです。
私はこの姿勢を、賃貸化を進めるうえでいちばん大事な出発点だと考えています。方針がないまま業者に相談すると、示された提案が自分に合っているのかどうかを判断する物差しがありません。物差しは、依頼する前に自分の側に用意しておく必要があります。そして私が伴走の最初に時間をかけるのは、いつもこの部分です。
この方とは、以前に私が開いた空き家活用セミナーでお会いしていました。そこでの話を覚えていてくださり、ご連絡をいただいたのです。売買や賃貸の仲介で報酬を得る立場ではなく、消費者の側に立つ第三者であること、その立ち位置に安心感を持っていただけたのだと思います。
伴走支援とは、答えを一方的に示すのではなく、ご依頼者と同じ方向を向いて、一緒に道を歩みながら課題を解決していく関わり方のことですが、このケースでも、戸建賃貸のニーズ調査から契約形態の決定まで、順に一緒に考えていきました。
相続した不動産をどの順番で、誰に相談しながら整理していくかについては、別のコラムでも書いています。詳しくはこちらをご覧ください(https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/column/5228385/)。
【戸建賃貸のニーズと入居者像を描く】
「借り手はいるのだろうか?」このご相談でも、最初に出てきたのがこの問いでした。
そこで最初に着手したのが、戸建賃貸のニーズ調査です。建物の状態から考え始めたくなるところですが、私は先に借りる人を決めるほうが早いと考えています。誰に貸すかが決まれば、どこに手を入れ、いくらで募集するかは、そこから逆算できるからです。
このケースで想定したのは、大きく二つの層でした。一つは、自宅の建替えやリフォームのあいだの仮住まいを探している方。もう一つは、ご夫婦二人といった小規模な世帯です。この二つに的を絞ったことで、その後の判断が一本の線でつながっていきました。
入居者像が定まると、物件のどこを伝えるべきかも見えてきます。募集にあたっては、戸建ての賃貸物件が共同住宅に比べて数が限られること、敷地の中に駐車場があること、近隣の家賃水準と比べた値ごろ感、上下階の生活音をめぐる心配が少ないこと、これら四つを訴求点としてお伝えしました。
ただし、こうした点が評価されるかどうかは、地域や時期によって変わります。同じ条件がいつ・どこでも通用するわけではありません。だからこそ、一般論ではなく、その物件の周辺で確かめる作業が重要になります。
【賃貸化リフォームは1階と外回りに絞る】
私がこのケースで最初にお伝えしたのは、家全体をきれいにする必要はありません、ということでした。
実際に手を入れたのは、1階部分と外回りだけです。2階は現状有姿としました。現状有姿とは、手を加えず、今ある状態のまま引き渡すことを指します。
仮住まいの方と、ご夫婦二人の世帯。この二つを主な借り手として想定したことで、手を入れる範囲も自然に決まりました。日々の暮らしの中心になる1階と、外から見える部分を整える。ここに絞ったのです。
賃貸化リフォームで悩ましいのは、どこまでやるかに正解の線がないことです。きれいにすればするほど借り手には喜ばれますが、かけた費用が家賃で戻ってくるとは限りません。
外回りを範囲に含めたのには、理由があります。募集の写真も、内見のときの第一印象も、外から始まるからです。1階だけを整えて外回りを後回しにすると、かけた費用が借り手に伝わりにくくなります。
将来ご自身の息子さんが住まわれる予定でしたから、手を入れなかった2階が残っていることは、そのときにあらためて考える余地を残すことにもなります。
【定期借家契約5年と募集家賃の決め方】
このケースで最も大きな分かれ道は、契約の形をどうするかでした。
選んだのは、5年間の定期借家契約です。定期借家契約とは、契約期間が満了すると更新されずに終了する建物賃貸借契約のことを指します。将来ご子息が住まわれるときに、明け渡しをめぐって困らないようにするための選択でした。
ただし、この契約形態には代償もあります。期間が限られる分、借りる側にとっては条件が不利になります。そのバランスをとるため、募集の家賃は、普通借家契約を前提とした近隣の相場に比べて、1割ほど低い水準に設定しました。
家賃を下げてでも、出口の確実さを取る判断をしたわけですが、この判断が適切かどうかは、条件によって変わります。私の考える基準は、「再び自分たちで使う時期が見えているかどうか」です。時期がおおむね決まっているなら、私はこの形をお勧めしています。
募集では、家賃の水準だけで比べられないよう、先ほどの訴求点を丁寧に添えました。条件の見え方は、伝え方でずいぶん変わります。
入居後の管理をどうするかも、この段階で決めておきました。貸し始めてから考えるのでは遅いのです。誰が窓口になり、何かあったときにどう動くのか。ここを先に決めておくことが、長く安心して貸すための土台になります。
【不動産会社の選び方と決まったこと】
ご本人が最後まで迷っておられたのが、どこに仲介をお願いするのかという点でした。
結論として、賃貸住宅を専門に取り扱う不動産会社に仲介をお願いしました。募集から入居後の管理までを日常的に扱っている会社に頼みたい、という考えからです。
会社選びの前に、条件の骨格を自分で決めておくのが望ましいのですが、この順番は逆になりがちです。しかし条件を固めないまま会社に相談してしまうと、その場で示される条件が自分の希望なのか、それとも会社にとって扱いやすいものなのかを見分ける基準がなく、知らず知らずのうちに会社側の都合に合わせてしまいかねません。
大切なのは、「なぜその会社に頼むのか」をご自身の言葉で説明できる状態になっていること。そこまで来ていれば、提案を受けたときにうのみにせず自分の軸で判断できます。
なおこのケースでは結果的に、募集を始めてから早い段階で借り手が決まりました。小さなお子さんのいるご夫婦です。
※同じように進めれば同じ結果になる、というものではありません。立地も時期も、物件ごとに違います。
この方からいただいた言葉で、今も印象に残っているものがあります。物件の立地そのものに問題はなかったけれど、不動産会社に依頼するにあたっては不安がいくつもあった。それが一つずつ解けていったことの安心感が大きかった、というお話でした。
結果が出たことよりも、決める過程で不安がなくなっていったこと。そこに価値を感じていただけたのだと、私は受け止めています。
【不安は解いてから、賃貸化に踏み切る】
空き家の賃貸化には、不安や悩みがついてまわります。それ自体は当たり前のことで、悩むほうがむしろ自然です。問題はその不安を抱えたまま放っておくことにあります。
貸すと決める前に一つずつ解いて納得しておく。そのときに、事業としてのリスクも含めて正しく情報を渡してくれる相手がそばにいると、進み方はずいぶん変わります。
セミナーや講座の場に足を運び、話す内容や立ち位置を確かめてから相談先を選ぶことも、確かな方法の一つです。
空き家の利活用そのものの考え方については、こちらのコラムでも整理しています(https://mbp-japan.com/osaka/kikuchi/column/5132549/)。
住まいの消費者教育研究所は、大阪・関西を拠点に住まいのセカンドオピニオンとして、空き家の賃貸化から住まいの終活まで伴走支援を行っています。どうぞお気軽にご相談ください。
【まとめ】
空き家の賃貸化は、不安をすべてなくしてから始めるものではなく、一つずつ解きながら進めていくものだと私は考えています。決める順番さえ間違えなければ、実家はもう一度、住まいとして働き始めます。
・相続した実家を、しばらく賃貸で活かしたいと考えている方
・戸建賃貸のニーズやリフォームの範囲に見当がつかない方
・不動産会社に依頼する前に、自分の方針を持っておきたい方
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