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コラム

労働判例 日産自動車事件

2019年11月5日

テーマ:労務トラブル

コラムカテゴリ:法律関連

 年収1200万円を超える課長職の管理監督者性について、裁判がありました(日産自動車事件H31.3.26 横浜地裁判決)。判決は、管理監督者に該当しないとして会社に未払い残業代、約350万円の支払いを命じました。

【管理監督者の判断基準】
①経営者と一体的な立場と呼ぶにふさわしい重要な職務内容・責任となっており、それに見合う権限の付与が行われているか。
②重要な職務と責任を有していることから、現実の職務が実労働時間の規制になじまないようなものとなっているか。
③賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされているか。(基本給や役付き手当、賞与等において、一般労働者と比較して優遇措置が取られているか)

①~③の判断基準をすべてを満たしている場合は、労働時間、休憩時間、休日の適用が除外となり、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払いが不要です。

【内容】
日産自動車(以下、「会社」という。)の課長(Y)が在職中に脳幹出血在で死亡、Yの妻(X)が「Yは管理監督者に該当しない」として会社に未払い残業代の支払いを求めたものです。
Yは、部署(ダットサン・コーポレートプラン部)においてマネージャー(課長職)の役職にあり、年収1200万円を超えていた。
●マネージャーの責務・権限
新しい車両に対しての投資額と収益率を決定する会議(以下、「PDM会議」という。)に出席できる。しかしながら、PDM会議で商品を提案できるのは部長職であり、マネージャーがPDM会議で行う提案を企画・立案した場合は部長に了承を得る必要がありました。また、会議中説明をするのは部長であり、基本的にマネージャーが発言することは予定されていません。
コントラクト後にファンクションリプライを変更する必要が生じた場合、マネージャーは、収益に影響がないときは裁量によりファンクションリプライを変更できる(収益に影響がある場合は、PDM会議でCEOの決裁を得る必要がある)。

●Yの業務
・定められたマーケティングプランを実行すること
・モデルチェンジ版の考案及び役員会議における提案資料の作成
・補助金を有利に設定してもらう為の官公庁向けの資料作成、プレゼンテーション
*会社のEV分野の日本初の商用車(e-NV200)を担当した。Yが同部に配属された際、既にマーケティングプランは決定していた為、本会議に出席したことはない。

【判決の内容】
労働基準法上の管理監督者に該当するかどうかは、上記の①~③の観点から判断すべきである。
「職責及び権限について」、マネージャーが企画立案した提案は、部長が了承する必要がある事・PDM会議で、マネージャーが発言することが基本的に予定されていないことから、PDM会議における経営意思の形成に直接的な影響を行使しているのは部長であって、マネージャーは、部長の補佐にすぎず、経営意思の形成に対する影響力は間接的である。
さらに、ファンクションリプライの変更において、収益に影響がある場合は、PDM会議でコントラクトを再提案して、CEOの決裁を得る必要があったことから、マネージャーの権限は、限定的であるとされました。

よって、「管理監督者の基準」①の経営者と一体的な立場にあるとまではいえないと判断されました。②③については、遅刻・早退による賃金の減額はなく、労働時間の裁量があった点、年収が約1234万円を超え、部下より約244万円高かった点から、管理監督者にふさわしいものと認められています。

本件では、会社の従業員は平成28年3月末時点で2万2471名であり、Yと同じ課長職は約1700名(7%)と全体の少数であり、かつ②の労働時間の裁量・③待遇 をみたし、①についても、重要な会議の提案をする立場でありながら、権限は間接的・限定的とされ否定されました。労働基準法の管理監督者と認められることの難しさを実感する裁判となりました。
(2019年9月末現在)

この記事を書いたプロ

鈴木圭史

労務相談の専門家

鈴木圭史(ドラフト労務管理事務所)

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