医療業界の労務トラブル事例
平成24年8月に「改正労働契約法」が公布され、平成30年4月以降多くの有期契約労働者に「期間の定めのない労働契約(無期雇用)への転換」を申込む権利が発生しています。
<無期転換の申込権>
次の①~③の要件がそろったとき、有期契約労働者から申出(口頭でも法律上は有効)があれば企業は、無期雇用に転換する必要があります。
①同一の事業主と一定の期間契約期間がある
・有期労働契約の契約期間が通算して5年を超えた場合
・契約期間が5年を経過していなくても、現在の契約期間で通算5年を超える場合
例えば、有期契約を3年で結んでいる労働者の契約を更新し、さらに3年の有期雇用契約を締結した場合、通算契約期間は6年となり、無期転換権が発生していることになります。よって、無期転換の申込みがあれば、事業主は、その有期契約終了の翌日から、無期労働契約とすることになります。
②契約の更新回数が1回以上
③現時点で同一の使用者との間で契約していること
<無期転換通算とクーリング>
同一の使用者とは、労働契約の企業単位です。例えばA事業場からB事業所になった場合でも、同じ事業主であれば契約期間は通算となります。また、育児休業などで勤務しなかった期間も労働契約続いていれば、通算します。
一方、有期労働契約とその次の有期契約期間の間に6か月以上契約がない期間がある場合は、その空白期間より前の有期労働契約期間は通算契約期間に含めません(「クーリング」といいます)。
このクーリング期間は、カウントの対象となる契約期間(2つ以上の有期労働契約があるときは通算した期間)が1年未満の場合は区分に応じて、通算がクーリングされます(例えば、通算有期契約期間が3ヵ月であった場合、契約がない期間が2か月以上あればクーリングとなります)。
<無期転換の特例>
定年後の労働者を引き続き有期契約で継続雇用している企業もあるかと思います。無期転換ルールに従えば、定年後でも有期雇用契約で通算5年労働者を雇い、その労働者が無期雇用を希望した場合、無期雇用にしなければなりません。しかし、「認定申請」を行うことで特例の適用が可能となります。
<継続雇用高齢者の特例申請方法>
●対象者
認定を受けた事業主の下で、定年後引き続き雇用されるもの(グループ会社も対象)
*他の会社で定年退職した労働者を新たに雇用した場合は、通常の無期転換ルールが適用されます。
●提出書類
管轄の労働局へ下記資料(正・副の2部)を提出します。
・「第二種計画認定・変更申請書」(企業単位で提出)
・第二種特定有期雇用労働者の特性に応じた雇用管理の措置を実施することがわかる資料(雇用契約や就業規則等)
・高齢者雇用確保措置の内容が確認できるもの(就業規則や高齢者雇用状況報告書等)
→審査後労働局より、認定決定通知書(不認定通知書)が交付されます。認定決定までは2週間~1か月はみておいてください。
紛争防止の観点から、認定された事業主は、労働契約の締結・更新時に特例の対象となる労働者に対して書面で「無期転換申込権が発生しないこと」を明示する必要があります(契約期間の途中で特例の対象となる場合についても、明示することが望まれる)。
ただし、認定申請を受ける前(認定日前)にすでに労働者が無期転換申込権を行使している場合は、対象外とできませんので注意が必要です。また、認定が取消された場合、特例の適用はなくなります。この場合、通常の無期転換ルールが適用され、当初の労働契約から通算契約期間が5年を超えていれば原則通り無期転換権が発生します。
*その他、高度専門的知識等を有する有期雇用労働者で5年を超える一定の期間内に完了する業務に従事する場合も申請により特例とすることが可能です。
<雇止め>
有期契約の更新において、使用者が更新を拒否するいわゆる「雇止め」がありますが、こちらについても法改正で条文化されています。
使用者は、有期契約労働者という理由だけで、いつでも契約の更新を拒否できるわけでわけではありません。「雇止め」については、過去に反復して契約更新をしている場合や契約が更新されることを期待させるような合理的な理由がある場合は、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる」必要があります。合理的な理由や社会通念上相当であると認められない場合は、雇止めをすることは認められず、従前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されます。
定年後継続雇用する場合、雇用契約がおざなりになってしまうことがあります。定年後1日もおかず、同じ業務を引き続きといった場合、再雇用という感覚がありませんが、定年時点で雇用契約が終了するため、新たに契約を結んでおかないと不具合が発生することがあります。例えば、雇用契約の終了日や賃金等の労働条件の更新です。
雇用契約の終了日については、雇用契約がない場合、青天井の状態になってしまい、自己都合の退職を除き、会社都合(解雇や退職勧奨)となってしまいます。また、労働条件に関しては、体力・能力の衰退等から賃金の減額や勤務時間の短縮等を考慮する場面も出てくるかと思いますが、その見直しのタイミングが難しく、労働者の方とトラブルにならないとも言い切れません。
定年後再雇用の場合、雇用契約を締結する(1年以内の有期契約雇用が多いです)ことを忘れないようにしましょう。もし、現在雇用契約を結ばず働いてもらっているという状況があるのであれば、今からでも労働者の方に事情等説明し、雇用契約を締結しましょう。
なお、無期転換ルールの特例を受ける場合は、更新の際書面で「無期転換申込権が発生しないこと」を明示する必要がありますので、こちらもお忘れないようご注意ください。